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三笘のドリブルは「後出しじゃんけん」快速FW宮市亮が語るスピードスターそれぞれの凄さと自身の強み

元川悦子スポーツジャーナリスト
11年ぶりのマンチェスター・シティ戦を心待ちにする宮市亮(撮影=倉増崇史)

 2022年7月のEAFF E-1選手権決勝大会・日韓戦(豊田)で負った右ひざ前十字じん帯断裂を乗り越え、ピッチに戻ってきた宮市亮。復帰早々に復活ゴールを決めるなど、2023年J1リーグで首位争いを演じる横浜F・マリノスのサイドアタッカーとして奮闘している。

 目下、後半途中から流れを変える「ゲームチェンジャー」としての役割を主に担い、7月18日時点ではリーグ6試合・104分出場で1ゴールという結果を残しているが、優勝争いはここからが本番。背番号23としては、もっともっと出場時間を伸ばし、パフォーマンスを引き上げ、勝利に直結する仕事を増やしたいと考えている。

 30代になり、新たな挑戦をスタートさせた宮市がいま注目しているのが、昨季イングランド・プレミアリーグで日本人歴代最多となる7ゴールを挙げた三笘薫(ブライトン)の一挙手一投足だ。宮市もかつて同リーグの3チームで戦ったことがある。三笘らスピードを武器にする代表選手たちをどう見ているのか。快足アタッカーの本音に迫った。

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「ゲームチェンジャー」としての役割を遂行

──宮市選手はご自身の今の役割を「ゲームチェンジャー」だと言いますが、具体的にはどんな仕事をイメージしているのですか?

「ゲームのギアを1段上げることですね。(2020年のルール変更で)途中交代選手が5人入れることになり、だいぶ試合のテンポも変わりますし、夏場の暑い時なんかは特に強度を落とさず、ハイテンポの戦いを繰り広げられる。見ている人も楽しいんじゃないかなと思います」

──もともと途中出場で短時間プレーするのは得意ですか?

「いや、あまり得意ではなかったですけど、このチームに来た当初から、この役割がすごく大事だなと感じていましたし、E-1選手権で代表入りする前の昨季前半もこのスタイルで結果を出していることが多かった。徐々にフィットしてきている気がします。

 ピッチに入った時には自分の持ち味であるスピードを出すことをイメージしています。疲れた時間帯で圧倒的なスピードで来られると相手DFもキツイだろうし、まずそこを意識して入ります。ただ、スピードを攻撃で使うのか、守備で使うのかは判断が求められるところ。臨機応変に見極めています」

──4度も手術をしたのに、スピードは全く落ちないですね。

「そうですね(笑)。さすがに手術した後は難しいのかなと思ったけど、マリノスのスーパートレーナーのおかげでもう1回、走れる体にしてもらった。感謝しています」

トレーニングで厳しい表情で自らを追い込む宮市亮(右端、筆者撮影)
トレーニングで厳しい表情で自らを追い込む宮市亮(右端、筆者撮影)

三笘薫を筆頭に現日本代表アタッカーから受ける刺激

──欧州で活躍する日本人を見ると、スピードを武器とする選手が増えましたね。

「伊東純也選手(スタッド・ランス)にしても、前田大然選手、古橋亨梧選手(ともにセルティック)にしてもそうですけど、ホントにすごいなと思って見ています。

 その中でも三笘選手はちょっと抜けてますよね。彼のドリブルをじゃんけんで例えると、まさに『後出しじゃんけん』。相手がグーを出したと分かったうえでパーを出せば、確実に勝てますよね。まず相手を見て、『こっちに来るから、自分は反対を行く』というのができるのは、後出しじゃんけんみたいな感じ。そこが他の選手とは違うんです」

──宮市選手は?

「僕は『ただ単にじゃんけんが強いやつ』ですね(苦笑)。後出しはできないけど、じゃんけんは強い。相手の状況というよりも、自分の手札を出して、それは強いから勝つんです。つまり、たまには負けるということ。

 でも、三笘選手は相手の状況によって手札を変えられるんで、『そりゃ強いだろう』って感じ(笑)。僕も彼のプレー集とかはすごく見てますけど、ゼロから100の加速の仕方とか、ボールの運び方とかはちょっと真似できない。あのドリブルは究極じゃないですかね」

──宮市選手が育成年代の時はああいう緩急のつけ方は意識しましたか?

「いや。ボールの置き方とか緩急よりも身体能力でグイっと行ってた感じです。だから今の子供たちは幼少期からボールの置き方とか、ボールを運び出す位置とか、そういうところに注目してやっていったらいいんじゃないかな。そこはアドバイスしたいですね」

──むしろ伊東選手の方が宮市選手に近いタイプかもしれません。E-1の時も右サイドで出たこともあって「伊東選手のプレーを意識したい」と発言していましたよね。

「彼は独特な細かいステップでタテに抜けていくタイプ。微妙に自分とは違うと思います。それぞれのドリブラーのよさがあるんで、いろんなものを吸収しながら、いい部分をしっかり取り入れてやっていきたいですよね。

 1つ言えるのは、現代サッカーはウイングで勝負という時代になったということ。それが世界のトレンドですよね。サイドプレーヤーは足の速さとフィジカル的な要素がすごく求められてくる。僕がフェイエノールトで欧州デビューした2010年頃はまだそこまでウイングの重要性は語られていなかった気がします。ただ、オランダはもともとサイド攻撃を重視したサッカーをしていたので、僕にとってはやりやすいリーグだった。それから十数年が経過して、より自分のプレースタイルにマッチしたサッカーになってきたのかなと前向きに捉えています」

三笘薫のドリブルを研究し、自らの糧にしているという宮市
三笘薫のドリブルを研究し、自らの糧にしているという宮市写真:西村尚己/アフロスポーツ

自分のやるべきことにフォーカスした先に「新たなギフト」が

──横浜には今、エウベルやヤン・マテウス、井上健太、水沼宏太といった数々のサイドプレーヤーがいます。激戦ですね。

「同ポジションのエウベルに関しては、対面のDFを体力的にも精神的にもかなり削ってくれるんで、ゲームチェンジャーとしてはすごく入りやすいです。僕自身、ライバルという感覚はなくて、一緒に勝利を目指していく関係だと捉えている。みんな切磋琢磨できるいい仲間ですよ。今の僕はサッカーできるだけ丸儲けなんで(笑)」

──ピッチに立つ時間が増えてくると、もっともっとと欲が出てきますよね。日本代表への復帰とか。

「日本代表のことはサポーターの人たちがSNSとかで盛り上がってくれるのを目にしますし、それはプロ冥利に尽きること。ただ、僕がコントロールできないことなんで、自分のやるべきことにフォーカスした先に、また新たなギフトがもらえるかもしれないという感覚です。昨年のE-1もまさか10年かけて2度目の代表に入れるなんて思ってなかったですし、先のことは分からない。とにかく自分のことに集中したいです」

──大ケガを乗り越えて代表復帰という意味では、女子バレーボールの長岡望悠選手(久光スプリングス)が背番号1を背負っています。長岡さんとは以前、一緒にリハビリをされたんですよね?

「長岡さんとは5~6年前に一緒にJISS(日本スポーツ科学センター)でリハビリをして、励ましの声をかけたことはありました。彼女が復帰する直前にも連絡して、『頑張ってね』と伝えました。

 今、長岡さんが再び日本代表に復帰して、来年のパリ五輪を目指しているということで、僕も刺激を受けますし、自分も頑張ろうという気持ちにはなりますね。

 自分も多くの人に助けられてきましたけど、ホントに生きてるだけですごいことだなと感じます。毎日頑張って稼いで、ご飯を食べて、また明日を迎えてっていう作業を繰り返すわけですけど、それだけでもつねに努力が伴う。もちろん『もっと上を目指せ』とか『成果を残せ』と要求されて、辛いこともありますけど、日々のことをしっかりやってるだけで自信を持っていいと思えたら、少しは楽になるのかなと。僕はそうでしたから」

「日々のことをしっかりやっているだけで自信を持っていい」と強調する宮市亮(撮影=倉増崇史)
「日々のことをしっかりやっているだけで自信を持っていい」と強調する宮市亮(撮影=倉増崇史)

「僕は『目減りしていない体』なんです」(笑)

──確かに。昨年12月に30歳になった宮市選手ですが、30代をどう過ごしたいですか?

「伊東選手や遠藤航選手(シュツットガルト)を見ても分かる通り、まだまだ成長していけると思います。年齢はただの数字でしかないし、成長を止めた瞬間に退化していく。この歳になると現状維持という感覚になりがちですけど、つねに自分の限界を突破できるようなことをしていかないといけないと強く感じています。

 僕は昨年から今年にかけて10カ月、サッカーをしていなかった。キャリア全体で見れば空白期間がもっと長いので、その分、ビハインドがあるとは思っています。確かに何度かメスは入れてますけど、筋力の衰えとか蓄積疲労は少ないかもしれない。目減りしていない体なんで大丈夫と言いたいですし、少しでも長くピッチに立ち続けたいです」

──さしあたって直近にはセルティック、マンチェスター・シティとの対戦もあります。宮市選手がプレミアリーグのクラブに挑むのは約10年ぶりですね。

「シティとは2012年に在籍したボルトン時代にやりました。当時も優勝したチームで強かったですけど、今は欧州王者。すごさも分かっていますし、親善試合とはいえ、勝負できるのが楽しみです。

 マリノスは日本の王者。その王者がイングランド王者、スコットランド王者とやるので、僕らにも意地があります。しっかりマリノスらしいサッカーを見せたいですね」

 1年前の大ケガで引退を覚悟した宮市亮が再びイングランド王者に挑む機会を得るというのは、本人にとっても、彼を取り巻く人々にとっても非常に喜ばしいこと。そのピッチに立ち、活躍するためにも、まずはコンディションをマックスまで引き上げることが肝心だ。

 日本中に愛される宮市亮というスピードスターが再び大舞台に立ち、爆発的な速さとドリブルで敵に脅威を与え、見る者を驚かせるインパクトを残してくれれば、まさに理想的だ。

 彼は「目先のプレーに全力を注ぐ」と何度も繰り返しているが、地道な努力の先に、多くのサポーターが切望する「代表復帰」があれば、それ以上のシナリオはないだろう。その先に、『新たなギフト』が届く日が来ることを楽しみに待ちたい。

宮市亮にはずっと笑顔でいてもらいたいものだ(撮影=倉増崇史)
宮市亮にはずっと笑顔でいてもらいたいものだ(撮影=倉増崇史)

■宮市亮

1992年12月14日生まれ。愛知県名古屋市出身。小学3年からサッカーを始め、愛知・中京大中京高2年時にU―17W杯出場。2010年12月にイングランド・プレミアリーグのアーセナルに入団。Jリーグを経験せず、プレミアリーグのクラブと契約を結んだ初めての日本人選手となる。2011年1月、オランダ1部のフェイエノールトに期限付き移籍。その後、プレミアリーグのボルトン、ウィガン、オランダ1部のトゥウェンテへのレンタル移籍を経験。2015年夏にドイツ2部のザンクトパウリに完全移籍。2021年7月、10年以上を過ごした欧州を離れ、JリーグJ1の横浜F・マリノスに完全移籍。2022年7月に再び大ケガを負ったが、2023年5月に復帰した。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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