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古橋・旗手の復帰意図、懸案の左SB不足の解決策は?6月代表2連戦の26人選考を読み解く

元川悦子スポーツジャーナリスト
2022年9月以来の代表復帰を果たした古橋亨梧(左)と旗手怜央(右)(写真:REX/アフロ)

森保一監督は6月も新戦力のテストを継続

 3月のウルグアイ・コロンビア2連戦から2026年北中米ワールドカップ(W杯)に向けて本格的な強化をスタートさせた第2次森保ジャパン。その2度目の活動となる6月のエルサルバドル(15日=豊田)・ペルー(20日・吹田)2連戦に挑む日本代表メンバー26人が25日に発表された。

 3月シリーズの17人が継続選出され、入れ替わったのは9人。負傷離脱中の田中碧(デュッセルドルフ)やコロンビア戦に先発した町野修斗(湘南)ら2022年カタールW杯組、パリ五輪世代のバングーナガンデ佳史扶(FC東京)、半田陸(G大阪)らが外れ、谷口彰悟(アル・ラーヤン)と相馬勇紀(カーザ・ピア)の2人がカタールW杯後に初めて招集された。W杯落選組の古橋亨梧、旗手怜央のセルティックコンビも昨年9月以来の復帰。森下龍矢(名古屋)、川村拓夢(広島)、川崎颯太(京都)の新顔3人も名を連ねるなど、「新戦力のテスト継続」という意図が色濃く感じられる陣容となった。

注目は古橋の起用法。FWとしての幅を見せられるか?

 特に注目されたのが、今季スコットランドリーグで25得点、公式戦通算31得点を挙げ、リーグMVPを獲得した古橋の扱いだ。3月シリーズに落選した際、同国メディアやサポーターからも批判の声が高まったほど。実際、現地での人気は凄まじく、誰もがその得点感覚を高く評価している。それでも、森保監督が招集を見送っていたのは、セルティックが事実上の1強で、古橋が前向きにゴールできる環境のリーグ特性が代表に合わないと考えていたからだろう。

 しかしながら、今回再招集に至ったのは、4枚目のFWが流動的だったため。現状での代表FWはカタールW杯・ドイツ戦で決勝弾を叩き出した浅野拓磨(ボーフム)、クロアチア戦で先制点を奪った前田大然(セルティック)、今季ベルギー1部で21得点をマークする上田綺世(セルクル・ブルージュ)の3人が主軸で、指揮官の彼らへの信頼は絶大だ。が、もう1枚は定まっていなかった。3月は町野が呼ばれていたが、最近はチームの停滞に伴って前線での迫力が低下。微妙な情勢になっていたのだ。

 森保監督が期待を寄せる1人と言える小川航基(横浜FC)もやはりチームの苦境でゴール数が伸び悩んでいる。J1得点ランクトップの大迫勇也(神戸)は誰が見ても文句なしのパフォーマンスを見せているが、3年後に36歳という年齢が気掛かりなのだろうし、鈴木優磨(鹿島)も欧州組に比べるとインパクトが足りない。さまざまな人材との比較の結果、「今回は古橋に再チャンスを与える」という結論になったのではないか。

古橋亨梧は浅野拓磨や上田綺世(ともに中央)の間に割って入れるか
古橋亨梧は浅野拓磨や上田綺世(ともに中央)の間に割って入れるか写真:ロイター/アフロ

 とはいえ、古橋も浅野や前田ほど高強度のハイプレスはかけ続けられないし、ターゲットマンとしても物足りない。彼をどう使うかは非常に大きな問題だ。ただ、今回の対戦相手を踏まえると、古橋が前向きにプレーできる機会は3月より増えそうで、セルティックに近いプレーが期待できるかもしれない。古橋には自身のストロングを最大限発揮しつつ、「FWとしての幅」を見せてほしい。

 古橋とともに前回、落選が疑問視された旗手も再浮上を果たした。彼のクラブでの主戦場はインサイドハーフで、代表でも中盤要員で考えられているはず。だが、ボランチには遠藤航(シュツットガルト)や守田英正(スポルティング・リスボン)がいるし、2列目には鎌田大地(フランクフルト)や久保建英(レアル・ソシエダ)がいる。サイドアタッカーでも三笘薫(ブライトン)や相馬がいるだけに、どの位置で突出した存在になっていくかが難しい。「マルチ型」というだけではカタールW杯時のように最終的に選外という結果にならないとも限らない。起用されたポジションで「絶対的なストロング」を発揮していくことを求めたい。

田中碧不在のボランチは激戦へ

 一方で、田中碧不在のボランチも混戦になりそうだ。遠藤と守田は鉄板と言えるが、今回選ばれた川辺駿(グラスホッパー)、川村、川崎もポテンシャルのある若手だけに、期待は高まる一方だ。

「遠藤航選手はデュエル王というだけじゃなくて攻撃力も高いし、波がない。川辺選手や守田選手は純粋にうまさもあるし、欧州で活躍するだけのフィジカル能力も兼ね備えている。川村選手はボックス・トゥ・ボックスで走れて戦えるし、強烈な左足がある。本当にすごい選手が揃っている」とパリ五輪世代の最年少・川崎も競争の厳しさを口にしていた。が、その川崎自身もデュエルや奪った後の素早い動き出し、ダイナミックな走りなどを備えており、若い頃の遠藤航を彷彿させるところがある。新顔から抜け出す人間が出てくれば、遠藤や守田もウカウカしてはいられなくなる。そういったハイレベルなサバイバルが日本代表のさらなる進化のために必要不可欠だ。

パリ五輪世代のボランチ・川崎颯太は尊敬する遠藤航を目指して貪欲にぶつかっていく
パリ五輪世代のボランチ・川崎颯太は尊敬する遠藤航を目指して貪欲にぶつかっていく写真:なかしまだいすけ/アフロ

本職SBは2人だけ。人材不足の解決策は3バック採用か?

 DF陣は3月の9人から6人へと大幅に減った。森保監督は「2試合でテストするには十分な人数」とコメントしていたが、本職のサイドバック(SB)は菅原由勢(AZ)と森下の2人だけ。全員が複数ポジションをこなせるにしても、4バックだと人数が足りなくなりそうだ。となれば、今回は3バックをベースにしていく可能性が大。そうすれば、SBの手薄感も解決できるし、攻撃に転じる時は三笘や伊東純也(スタッド・ランス)のアタッカー併用なども視野に入れられる。

 4-2-3-1だと伊東と堂安律(フライブルク)、三笘と相馬と中村敬斗(LASKリンツ)らはポジションが重なってしまうが、3-4-2-1にすれば彼らを共存させる道を探ることも可能になる。今は3年後に向けてテストを重ねていく時期。森保監督もそう考えてDF陣の少ない構成にしたのではないか。実際に指揮官がどういったマネージメントをしていくか注視したい。

左右のSBをこなせる森下龍矢は長友佑都の明治大学の後輩に当たる
左右のSBをこなせる森下龍矢は長友佑都の明治大学の後輩に当たる写真:松尾/アフロスポーツ

キャプテン・10番も流動的。当面は変動制採用へ

 個々の能力や組み合わせ、フォーメーションなどをチェックするのと同時に、誰をリーダーにすべきか、10番に相応しい人間は誰かを探るのも1つのテーマになってくる。

 キャプテンに関しては「カタールW杯までは吉田麻也(シャルケ)が4年間継続してキャプテンを務めてくれたが、代表は約束されたものではないし、選手たちの状態もいろいろ変わってくるので、選ぶのが難しい」と森保監督は強調。当面は1人に固定するのではなく、大会毎に入れ替えていく考えを改めて示唆したのだ。

 確かに、過去4年間を振り返ると、吉田の重責は凄まじく、負担も大きかった。それを今後の選手に背負わせるのはプラスと言いきれないところがある。加えて言うと、遠藤航にしても、板倉滉(ボルシアMG)にしても、ここからずっとW杯までコンスタントに代表でプレーできる保証はないし、今回復帰した谷口にしても同様だ。1人に固定するのはやはりリスクが高そうだ。

 10番にしても同様で、偉大な番号をつけることで「看板スター」と位置づけられ、心理的重圧を感じ、本来の力が出せなくなってしまう選手も少なくない。本田圭佑のような怪物的メンタルを備えた人間だったら「自分が10番を背負わせてほしい」と進言できるだろうが、これからの代表はなかなかそういう人材は出現しないだろう。変動制というのも1つの有効な策かもしれない。

10番をつける三笘薫を見てみたいファンも少なくないはず
10番をつける三笘薫を見てみたいファンも少なくないはず写真:森田直樹/アフロスポーツ

今回は斬新なチャレンジを大いに期待

 ただ、候補者だけはある程度、メドをつけておく必要がある。2024年1~2月のアジアカップ(カタール)まではさまざまなトライを繰り返していく期間。その間にいろんな選手にキャプテンマークや10番を託して、最適な人材を見極めることも重要だ。

 さしあたって今回は谷口、シュミット・ダニエル(シントトロイデン)あたりにキャプテンを任せてもいいかもしれない。10番も将来的に久保が背負うと言われているが、あえて三笘や鎌田らに託すのも一案だろう。既成概念を打破し、ピッチ内外で新たな色を取り入れることも進化につながるはず。6月シリーズは斬新なチャレンジをどんどん見せてほしいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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