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カタールW杯で明暗分かれた東京五輪世代の現在地(1)-堂安、前田、田中碧、板倉

元川悦子スポーツジャーナリスト
カタールW杯を機に飛躍を続ける東京五輪世代の堂安(左)と三笘(写真:ロイター/アフロ)

カタールで活躍した若手世代は今、どうしている?

 ドイツ・スペインを撃破し、日本中を沸かせた2022年カタールワールドカップ(W杯)から2カ月半。「W杯で活躍できるのがいい選手だし、ベスト8に導ける選手。次(の2026年北中米W杯で)はそういう存在にならないといけない」とクロアチア戦でPKを外したあとそう話した三笘薫(ブライトン)がその後のイングランド・プレミアリーグで目覚ましい活躍を見せているように、選手たちはそれぞれに前へ前へと突き進もうとしている。

 とりわけ、20代半ばで同大会を経験した東京五輪世代からは成長への強い意識が感じられる。W杯で活躍した者、不本意な結果に終わった者…と明暗は分かれたが、高みを目指そうという野心は一緒。そんな欧州組のうち前編では『明』のグループにフォーカスした。

2ゴールの堂安は「個の打開力」の向上に注力

「薫君には本当に感謝しかない。彼は全ての日本代表選手に刺激を与えてると思います。全ての日本人サッカー選手が彼を見て『自分もやらなくちゃいけない』と感じてるはず。『自分も自分も』と毎日考えながらトレーニングに励んでます」

 こう語気を強めるのは堂安律(フライブルク)。カタールの地で2ゴールをマークし、一躍ブレイクしたレフティだ。

 W杯時には「こんなに悔しい思いをしたから(2得点も)必然かな」と堂々とした口ぶりだったが、所属クラブに戻ってからは「『堂安=決める』という世間の見方をいいプレッシャーにして、一番難しい結果を出すことにチャレンジしています」と今一度、原点に戻ってリスタートしている様子だ。

 堂安が目下、テーマに掲げているのは、個の打開力の向上。三笘がプレミアリーグで対峙するDFをキリキリ舞いにする姿に触発された部分もあるのか、積極的にドリブルで仕掛ける姿が目につく。2月11日のシュツットガルト戦でクロアチア代表左SBボルナ・ソサと対峙した際は特にギラギラ感を前面に押し出した。

フライブルクで試合後の取材に応える堂安(筆者撮影)
フライブルクで試合後の取材に応える堂安(筆者撮影)

「観客を魅了できるのは仕掛けられる選手。1対1だったら間違いなく抜きに行くことを意識してます。1対1.5、1対2でも行くようにしてますね」と目を輝かせていた。

「W杯を見てても分かる通り、PKをもらう選手が日本人にはあまりいないけど、フライブルクの選手はすごくうまい。PKはサッカーのルールの1つなので、仕掛ければ何かが起きるというイメージでやってます」と本人も言うが、確かに自らアクションを起こせる選手でなければ敵にとっては怖くない。

 日本代表右FWも伊東純也(スタッド・ランス)を筆頭に、両サイドできる相馬勇紀(カーザ・ピア)、若手の成長株・上月壮一郎(シャルケ)ら複数候補者がいるだけに、堂安ももう1つ、傑出したストロングを身につける必要がある。そういったことも考えながら、局面打開+得点力に磨きをかけているのだろう。

前田はキューウェルの指導の下、高速ドリブラーへと変貌中

 W杯で1ゴールを挙げた前田大然(セルティック)も同じチャレンジをしている1人。2016年に松本山雅でプロキャリアをスタートさせた当時から無尽蔵のスプリントと運動量で見る者を驚かせてきたが、相手の背後に抜け出してパスを受けることはあっても、自らがボールを持ってお膳立てしたり、ドリブル突破からチャンスを作るようなシーンはほぼなかった。「大然はテクニックに問題がある」と当時から評されていたから、本人も違った強みで勝負しようとしていたに違いない。

 しかしながら、2シーズン目を迎えたセルティックで状況が一変する。かつてリーズ、リバプールなどで活躍した元オーストラリア代表FWハリー・キューウェルがコーチに就任し、「もっとボールを持って仕掛けろ」と要求するようになったのである。

「W杯前に来たハリーから『なんで仕掛けないんだ』『足が速いのに何でやらない』と言われ、とにかく勝負に行くようになったんです。自分もこれまでそういったプレーを全くやってなかったんで、薫のドリブルの映像とかを見るようにして、練習で試すようになりました。ハリーとは毎試合後に映像を見ながら細かくミーティングしてますし、今初めてサッカーが分かってきた感じ」と自身の変化を語っていた。

セルティックの試合前にアップする前田(筆者撮影)
セルティックの試合前にアップする前田(筆者撮影)

 実際、最近のセルティックの試合でも前田は左サイドから凄まじいスピードで相手を抜き去っている。敵にしてみれば、50m5秒台の速さで走られるだけでも嫌なのに、ボールを持って直進してきたら、そうそう止められない。困惑する相手をあざ笑うかのように中に切れ込み、マイナスクロスを上げ、古橋亨梧や旗手怜央のゴールをお膳立てするのだ。三笘ほどの緩急や高度なテクニックはないが、このまま続けていれば、三笘とはまた違った代表でのオプションになり得るだろう。

 代表ではずっと最前線にこだわり続けてきたが、左サイドでも違いを出せるようになれば、それはそれでポジティブ要素ではないか。前田が中央と左サイドの両方をこなせるマルチ型FWになってくれれば、日本の戦いの幅もまた広がりそうだ。

「圧倒的な違い」と「数字」を追い求める田中碧

 W杯の得点者という観点では、田中碧(デュッセルドルフ)も忘れてはいけない。彼は他の面々とは異なり、ドイツ2部という下部リーグでのプレーを強いられている。その分、攻撃に絡む回数は増える。だからこそ、今季ゴール+アシスト合わせたスコアポイントを2ケタに乗せることが目標だという。

「僕がほしいのは『圧倒的な違い』。今はそれなりの違いは出せていると思ってますけど、数字的なものがついてくれば分かりやすい。ここまでDFBポカール(カップ戦)入れて1ゴール・3アシストなんで、それをもっと引き上げたい。チャンスを全部決めていたら、今頃、ゴール数は5~6点になっている。その精度を高めていくことだと思います」と田中もまた個人能力を高めることに躍起になっている。

 そうしなければ、「化け物になってW杯に戻ってくる」というクロアチア戦後に掲げた大目標に届かない。厳しい現実は誰よりも本人がよく分かっているはずだ。いかにしてドイツ2部から1部に這い上がり、幼少期からの先輩・三笘のいる領域に到達すべきかを日々、真剣に模索しているように見えた。

 ただ、2018~2022年の4年間の後半に成長曲線を一気に引き上げた田中碧なら、短期間で爆発的な伸びを見せることは十分可能なはず。今の環境でできることを全てやり切り、力を蓄え、近い将来の上位クラブ移籍に備えてほしい。

デュッセルドルフの試合後に笑顔を見せる田中碧(筆者撮影)
デュッセルドルフの試合後に笑顔を見せる田中碧(筆者撮影)

欧州ビッグクラブに手をかけつつある板倉

 それは田中の川崎フロンターレ時代の先輩・板倉滉(ボルシアMG)も強調する点。

「目の前の1試合1試合を大事に戦わないといけないというのはすごい感じている。チームで結果を出すことで上に行けるし、自分の価値も上がる。そこは意識してます」と2月4日のシャルケ戦後にも神妙な面持ちで語っていた。

 確かにフローニンゲン(オランダ)からドイツに移り、2部だったシャルケを昇格させ、ボルシアMGでバイエルン・ミュンヘンを破るまでに至った板倉は「目の前の1試合」を積み重ねてここまできた選手。アタッカーならば強豪相手に一撃をお見舞いすれば一瞬で注目を浴びられるかもしれないが、ボランチやDFはそうはいかない。地道な日々の積み重ねが実績となり、評価となって、ステップアップにつながる。今の板倉は欧州ビッグクラブに手をかけるところまで来たと言っていい。

ボルシアMGの試合後に記者に囲まれる板倉。注目度の高さが窺える(筆者撮影)
ボルシアMGの試合後に記者に囲まれる板倉。注目度の高さが窺える(筆者撮影)

 そういう中で特に注力しているのが、1対1の守備力アップだ。

「自分のところでしっかりガチっと奪いきれる力をもっともっと伸ばしていけたら存在感が出ると思う。そこは1つの課題です。ただ、僕は上を目指せるチームにいて、練習からすごくいいメンバーと普段からできている。そこで勝つことを最優先に考えていけば、必ずいい方向に行くと思ってます」と自信を見せていた。

 確かに今のボルシアMGは、フランス代表FWマルクス・テュラムやドイツ代表FWヨナス・ホフマンら世界的タレントが並ぶ。彼らとのマッチアップは板倉の大きな財産になっているのだ。

 そうやってカタールで一定の成果を残した面々が「個の力」に磨きをかけ続けていけば、3年半後のW杯8強入りは必ず見えてくる。三笘を含めた上記5人は次期代表をリードする存在になるべき人たちである。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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