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岡山学芸館の初制覇、高校からドイツ名門入りの福田師王は? 大津・平岡総監督が語る高校サッカーの現在地

元川悦子スポーツジャーナリスト
高校最後の選手権を終え、ドイツに赴く神村学園の福田師王(写真:松尾/アフロスポーツ)

高校サッカー界の名将は選手権をどう見たか?

 岡山学芸館の初優勝で幕を閉じた全国高校サッカー選手権大会から1週間。すでに各チームは新たなチームで再出発を切っている。前年準優勝で、今回こそ全国制覇を目標に掲げながら、準決勝で東山にPK戦の末、敗れてしまった大津もその1つだ。

 土肥洋一(山口GKコーチ)、巻誠一郎(実業家)、植田直通(鹿島)、谷口彰悟(アル・ラーヤン)と4人のワールドカップ(W杯)プレーヤーを輩出した高校サッカー界屈指の名将・平岡和徳総監督も「今回の選手たちはコロナ禍のトレーニング不足もあり、思った以上に疲労が抜けず、上のステージになればなるほど出足が悪くなったり、プレーの精度が落ちたりした。その課題をしっかり見据えて次に進まなければいけない」と気を引き締めていた。

 その名将に高校選手権を振りかえってもらうとともに、高校卒業と同時に欧州挑戦に踏み切る神村学園の福田師王への期待を語っていただいた。

選手権初優勝を果たした岡山学芸館の選手たち
選手権初優勝を果たした岡山学芸館の選手たち写真:西村尚己/アフロスポーツ

頂点を逃した大津、優勝した岡山学芸館の背景

──ユース年代の最高峰リーグであるU-18プレミアリーグを戦う青森山田や前橋育英、大津ではなく、1カテゴリー下のプリンスリーグ中国を戦う岡山学芸館の優勝は少し意外でした。

「今大会を見ると、優勝候補と言われたチームが次々とPK戦で敗れたのは確かです。夏の高校総体の覇者・前橋育英も強豪の昌平に勝って安心したところで次に当たったウチに負けましたし、ウチも前橋育英に勝って準決勝に進んだのに、そこで安心感が出たのか、東山に勝てなかった。神村にしても、青森山田という強い相手に勝った安堵感が準決勝の岡山学芸館戦に出たのかなと感じます。

 そういった事情はあったにせよ、岡山学芸館の攻守両面での完成度は高かった。それには素直に敬意を表したいと思います。9日の決勝も新国立競技場に5万人の観衆が集まった。101回を迎えた選手権の文化というのは偉大だなと僕自身も改めて感じましたね」

──今回は高校卒業後にプロになる選手が10人程度と少なかったと思いますが、福田師王選手がドイツの名門・ボルシアメンヘングラードバッハにいきなり加入する選択をしたのは驚かされました。

「高校からJリーグを経由せずに海外クラブへ進むという選択肢もあると思いますが、言葉や文化の壁という新たな問題にぶつかります。高校生がJリーグに入るだけでも、それまでとは全く異なる環境で日々、切磋琢磨しなければならないのに、異国で不慣れなことに数多く直面すれば、不安や恐怖心が増大する懸念があります。

 18歳の若者にとってはそのメンタル面の課題が一番大きい。そこでネガティブになってしまうと、才能ある選手でも停滞し、伸び悩む可能性もゼロではないと思います」

──確かにそうですね。平岡さんはやはり高校生はまずJリーグでプロの土台を作るべきだという考え方をお持ちなんですね。

「そうですね。日本には30年がかりで築かれたJリーグというプロリーグがありますから、そこで1~2シーズンしっかり試合に出て、プロとしてのベースを築いてから海外へ行っても決して遅くないと思います。

 昨年、青森山田からFC東京入りした松木玖生選手を見ても、1シーズンにわたってコンスタントに活躍し、一定の評価を受け、自信をつけたはずです。おそらく彼は今年か来年にも欧州へ行くでしょうが、プロとしての自分自身を客観視できる状態になった今の方が思い切ったチャレンジができるでしょう」

同じ九州出身の福田に対する平岡総監督の見解は?

──福田選手の場合は同じクラブに日本代表の板倉滉選手がいますし、近隣にはJFAの欧州オフィスがあったり、吉田麻也(シャルケ)・田中碧(デュッセルドルフ)両選手らがいて、サポートは期待できそうですね。

「異国ではそういう部分が非常に重要だと思います。福田選手の場合も相談できる人が近くにいるのであれば、不安要素は少なくなりますし、本来のポテンシャルを発揮しやすくなると思います。とにかく孤独感や孤立意識を持たないような環境作りが重要になります。

 僕も同じ九州の選手ということもあり、福田選手にはよく声をかけていましたし、本人もよく話を聞いてくれた。本当に九州の宝だと思っています。だからこそ、成長してほしいし、近未来の日本代表の担い手になってもらいたい。ポテンシャルが開花できるように周囲も努力してほしいと感じます」

厳しくも温かい目で選手たちを見守る平岡総監督
厳しくも温かい目で選手たちを見守る平岡総監督写真:森田直樹/アフロスポーツ

──欧州クラブが日本人の若手選手を青田買いしようとする傾向は年々強まっていますが、それに対してはどうお考えですか?

「昨年、尚志からシュツットガルト入りしたチェイス・アンリ選手を見てもそうですが、海外クラブの日本の高校生に対する関心は本当に高まっていると感じます。『いい選手は早く海外に行かせた方がいいですよ』と進めてくる仲介人の方も僕のところに来ます。

 ただ、10代で海外に行って成功できるのはほんの一握りなんです。今の日本代表だと堂安律選手(フライブルク)や久保建英選手(レアル・ソシエダ)らがそれに該当しますが、彼らはもともと性格的に明るく、オープンで、外国人慣れしている。しかも久保選手は小中学校時代をバルセロナで過ごしたこともあって、スペイン語が堪能です。堂安選手もガンバ大阪ユース時代からプロの試合に出ていて、早い段階の海外移籍に備えて英語学習に力を入れていたと聞きます。そういったバックグラウンドがしっかりしている若手だけ。そこは厳しく判断した方がいいと感じます」

──高校出身者が将来的にプロで成功するために必要なことを最後に教えてください。

「選手が大きく育つためには、安心・安全・安定した環境が必要。高校サッカーにはそれがあると思います。高校で大人数の中で同じベクトルに向かって努力した経験はその後のキャリアでも必ず生かされます。

 カタールW杯でも高卒・大卒含めて15人の選手が日本代表として戦いましたが、彼らは学生時代に養ったベースを生かし、Jリーグで力をつけて海外へと羽ばたき、代表としてW杯の舞台に立った。我々はその担い手ですし、ピッチ内外で彼らを後押しして、より強固な基盤を作る必要がある。そうなるように僕も大津もさらなる努力を続けていくつもりですし、高校サッカーという文化をさらに成熟させられるように頑張っていきます」

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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