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日本は2大会連続4強のクロアチアから何を学ぶべきか? 団結力、モドリッチら個の育成、多彩な攻撃

元川悦子スポーツジャーナリスト
日本とのPK戦で活躍したリバコビッチを称えるモドリッチ(写真:ロイター/アフロ)

メッシ擁するアルゼンチンに挑むクロアチア

 日本のドイツ・スペイン撃破に沸いた2022年カタールワールドカップ(W杯)も残すところ4試合。13日(日本時間14日早朝)には準決勝第1試合のアルゼンチン対クロアチア戦が行われる。

 アルゼンチンは初戦でサウジアラビアに苦杯を喫したところから目覚ましいリカバリーを見せ、メキシコ、ポーランドを撃破してグループを1位で通過。ラウンド16ではオーストラリアを叩き、さらに準々決勝ではオランダとの延長・PKの死闘の末に勝ち切り、2大会ぶりの4強入りを決めた。

 ご存じの通り、チームを力強くけん引しているのはリオネル・メッシ(PSG)。W杯5度目出場の大ベテランはここまで4ゴールとここ一番の決定力を発揮。フィニッシュの精度と迫力は35歳になった今も衰えを知らない。

 そのメッシを封じなければならないのが、対峙するクロアチアだ。11日の記者会見でその術をアルゼンチン人記者から問われたFWブルーノ・ペトコビッチ(ディナモ・ザグレブ)は「特別なプランはない。普通に全員でアプローチしていく。ネイマール(PSG)に対しても戦術通りにやったし、メッシも1人の選手にすぎない」と発言。クロアチア最大の武器である一体感と結束力、組織力で立ち向かう構えだ。

人口400万の小国のサクセスストーリー

 人口400万人余りの小国・クロアチアが2018年ロシアW杯準優勝に続いて、今大会も4強入りしたことは特筆に値する。

 1991年に旧ユーゴスラビアからの独立を宣言した後、初出場した98年フランスW杯でいきなり3位に大躍進。その後、2002年日韓・2006年ドイツ・2014年ブラジルの3大会でグループ敗退したが(2010年南ア大会は欧州予選敗退で出場できず)、2018年ロシア大会で復活し、タイトルに手が届くところまで上り詰めた。同国の軌跡は、W杯ベスト8を追い求める日本の理想像とも言っていい。

「僕らは選手として若くても、どうやって自分たちの国ができて、1990年代に独立を勝ち取ったかを知っている。それを親からも教わっている。懸命に闘い続け、努力しなければ、何も成し遂げられないことを学んだんだ」

 9日の準々決勝・ブラジル戦で値千金の同点弾を挙げたペトコビッチも強調していたが、クロアチアは独立宣言の後、紛争状態に陥った。ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)は6歳の時、セルビア軍に祖父を殺害され、18歳まで難民ホテルで暮らすという過酷な時代を過ごしている。だからこそ、「懸命に闘い続け、努力しなければ何も成し遂げられない」といった覚悟を全ての選手が持ち合わせているのだろう。

アルゼンチンに向けた会見でクロアチア人のメンタリティを語るペトコビッチ(筆者撮影)
アルゼンチンに向けた会見でクロアチア人のメンタリティを語るペトコビッチ(筆者撮影)

 そういったメンタリティを我々日本人が持つのは容易ではないが、一体感や団結力、全員が献身的に働くといったマインドは通じる部分。その強みを研ぎ澄ませ、高みを目指していくことが、クロアチアに近づく第一歩ではないか。

クロアチアは相手が強くても支配して攻め込む底力がある

 そのうえで、チームの戦い方にも注目すべきだ。ドイツ・スペインにボール支配率20%前後と押し込まれながら、徹底したカウンターで勝ち切った日本とは違い、クロアチアは相手が強くてもボールを保持してアクションを起こす力がある。

 それを象徴したのがブラジル戦。ネイマール(PSG)らタレント軍団に対し、クロアチアは120分間で51%とほぼ互角のポゼッション率を記録した。シュート数こそ8対20と大差をつけられ、先制点を許したが、延長後半12分のカウンターからの一撃は見る者の度肝を抜いた。

 矢のようなカウンターを繰り出せる一方で、日本戦のイヴァン・ペリシッチ(トッテナム)のヘディング弾のように空中戦に徹してゴールを奪うこともできる。もちろんモドリッチやマテオ・コバチッチ(チェルシー)、マルセロ・ブロゾビッチ(インテル)の世界的中盤3枚の組み立てを生かした攻めからアンドレイ・クラマリッチ(ホッフェンハイム)ら前線がゴールを奪う形も作れる。さらにはPKにも圧倒的な強さを発揮する。こうした多彩な攻撃は、残念ながら今の日本にはない部分。彼らのような戦い方の幅を広げる努力を、日本は次の4年間に意識的に取り組むべきだ。

つねに全力で練習に取り組むモドリッチは全員の見本となっている(筆者撮影)
つねに全力で練習に取り組むモドリッチは全員の見本となっている(筆者撮影)

クロアチアのような強烈な個をどう育てる?

 クロアチアから学ぶべきもう1つのポイントは、研ぎ澄まされた個の育成ではないか。

「カタールW杯を通して感じた日本の課題と足りない部分は特に攻撃の個の力。違いを作れる選手が多くない。世界の強国と比べるとアタッカーの力量が不足しているのは事実」

 日本サッカー協会の反町康治技術委員長もこう言及していた。

 クロアチアの長い歴史を見ると、98年フランスW杯の司令塔のズボニミール・ボバン、得点王のダボール・シュケルに始まり、2006年ドイツ大会では闘将ニコ・コバチ(ヴォルフスブルク監督)、2014年ブラジルW杯主将のダリオ・スルナといった強烈なタレントが異彩を放ち続けてきた。

 もともと民族的に平均身長が高く、屈強なフィジカルに恵まれているというバックグラウンドはあるにせよ、現在の中心選手であるモドリッチやコバチッチは170センチ台。日本人と体格的にはそこまで変わらない。今大会で名前を売ったDFヨシュコ・グバルディオル(ライプツィヒ)も185センチと吉田や板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)よりやや低い。それでもスピードと技術、冷静な判断力を兼ね備えており、20歳とは到底、思えないパフォーマンスを示していた。彼らの大半が欧州ビッグクラブで活躍しており、修羅場をくぐってきた回数が圧倒的に多い。やはりそこは見逃せない点だ。

バットマン姿が印象的なグバルディオルは弱冠20歳。際限ない可能性を秘めている
バットマン姿が印象的なグバルディオルは弱冠20歳。際限ない可能性を秘めている写真:ロイター/アフロ

「クロアチアは非常にしたたか」と反町技術委員長

「クロアチアは非常にしたたか。やらせるところはやらせて、締めるところはしっかり締める。イーブンなゲームをモノにできる力がある。所属を見ると、欧州5大リーグで出ている選手もいる。勝つか負けるかのギリギリの戦いをやっているリーグの中で鎬(しのぎ)を削っているかどうかが大きい」

 反町技術委員長も強調する。日本も森保一監督が大黒柱と位置付けた遠藤航(シュツットガルト)と吉田麻也(シャルケ)を悩まず代えられるくらいの分厚い選手層・タレント力を貪欲に追い求めていくしかない。

 選手個々のストロングを生かした選手育成がなされ、適切なタイミングで国外の名門クラブに移籍しているからこそ、クロアチアからは絶え間なくタレントが輩出される。英語など外国語をスムーズに話せる選手が多く、高度な環境適応力も大きなプラス要素と言えるが、あらゆる角度から彼ら1人1人の成長過程をつぶさに追ってみることも、日本サッカーのプラスになりそうだ。

 これまでの日本はドイツやスペインなどのサッカー超大国の成功例ばかりに目を向けがちだったが、クロアチアやモロッコのような国の動向はチェックしきれていなかったように思える。ここで改めて視点を変えてみることも、4年後の8強達成、いやそれ以上への起爆剤になるかもしれない。

 そんな視点を持ちつつ、今回のクロアチアの準決勝、その先も興味深く見守りたいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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