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吉田麻也、南野拓実、三笘薫、堂安律…。日本代表欧州組の今夏の移籍はカタールW杯にどう影響する?

元川悦子スポーツジャーナリスト
クラブでの出場機会を求めて今夏の移籍に踏み切った南野拓実(左)と堂安律(右)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 2022年カタールワールドカップ(W杯)まで4カ月。日本の戦いは、11月23日のドイツ戦(ドーハ)から幕を開ける。その大舞台に挑む日本代表欧州組が間もなく22-23シーズン開幕を迎える。

 直近にW杯を控えた時期ということで、今夏は移籍に踏み切るか否かの判断は非常に難しい。そういう中でも、キャプテン・吉田麻也(シャルケ)を筆頭に、南野拓実(モナコ)、三笘薫(ブライトン)、守田英正(スポルティング・リスボン)、板倉滉(ボルシア・メンヘングラードバッハ=MG)、堂安律(フライブルク)らの新天地がすでに決定。今後、久保建英(レアル・マドリード)や鎌田大地(フランクフルト)、伊東純也(ゲンク)も別クラブに動く可能性がある。Jリーグから欧州移籍に踏み切った上田綺世(セルクル・ブルージュ)も含め、代表候補選手たちの動向が今後のメンバー選考に大きく影響するのは間違いないだろう。

ステップアップした吉田・三笘・守田・板倉の今後は?

 現時点での移籍組6人にフォーカスすると、ステップアップと言えるのは、吉田、三笘、守田、板倉ではないか。

 まず吉田についてだが、2012年夏~2020年末まで7年半、イングランド・プレミアリーグのサウサンプトンで過ごした男にしてみれば、ドイツ・ブンデスリーガ2部から1年で1部復帰を果たしたシャルケは大きな飛躍とは言い切れないかもしれない。ただ、6月時点まで欧州残留も厳しいと言われた33歳のベテランにとっては、最良の選択肢と言っていいのではないか。

 ご存じの通り、2010年1月~2012年夏までオランダ1部・VVVフェンロでプレーした吉田は、シャルケの本拠地・ゲルゼンキルヘンを頻繁に訪れており、土地勘がある。内田篤人(JFAロールモデルコーチ)と板倉がクラブに尽力したこともあり、日本人への理解も深く、関係者やサポーターの支持を取り付けやすい環境なのも確かだ。

 昨季の主力守備陣を見ても、板倉、ティモ・ベッカー(ホルスタイン・キール)とサリフ・サネが退団。マルティン・カミンスキ以外は大きく入れ替わることになりそうだ。となれば、吉田のチャンスは広がる。ブンデス1部でコンスタントに出続けられれば、コンディションをベストに近い状態まで引き上げ、W杯初戦で対峙するドイツ対策を彼なりに講じられる。その思惑通りに物事を運べれば、森保一監督にとっても有難い限りだろう。

吉田はシャルケ移籍でさらなる輝きを見せられるか
吉田はシャルケ移籍でさらなる輝きを見せられるか写真:森田直樹/アフロスポーツ

 吉田に空席を与える形になった板倉は、昨季ブンデス1部・10位のボルシアMGへ赴いた。かつて大津祐樹(磐田)が在籍した同クラブはドイツ代表経験のあるGKヤン・ゾマーやスイス代表のブリール・エンボロらが所属。ノルトライン・ヴェストファーレン州の中では、ボルシア・ドルトムント、シャルケに次ぐ規模を誇る。それだけに、状況次第ではUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)やUEFAヨーロッパリーグ(UEL)を狙えるかもしれない。2部から1部上位への格上げという意味で、板倉も燃えるところはあるだろう。

 複数クラブからオファーを受け、ボルシアMGを選んだということで、彼の置かれた立場はポジティブと見ていい。実際、10日の1860ミュンヘンとの練習試合でも前半はダブルボランチの一角で出場。後半は4バックの左DFをこなした模様で、幅広い働きが期待される。しかも、吉田同様、W杯初戦の相手・ドイツ対策を彼なりに練って本番に挑めるのはアドバンテージ。期待していいはずだ。

ボルシアMGの練習着が似合う板倉滉
ボルシアMGの練習着が似合う板倉滉写真:アフロ

ブライトンで定位置をつかんで個の打開力を研ぎ澄ませたい三笘

 一方、三笘はレンタル元のイングランド・ブライトン復帰が決定。世界最高峰リーグで個の打開力に磨きをかけるチャンスを得た。6月6日のブラジル戦(東京)で積極果敢に仕掛けながら、王国の壁にぶち当たった男にしてみれば、ハイレベルを渇望していたに違いない。

「得意な形で仕掛けようってところはできたと思いますけど、相手の強さを感じたし、スピードのところではまだまだ全然足りない。自分の突破がどれだけ通用するか知りたかったけど、2本くらい止められているので、それが実力だなと改めて分かったのがよかった」と話していた。ミリトン(レアル・マドリード)に挑んで感じた力の差を少しでも埋めるためにも、プレミアでの成長は必須テーマだ。

 とはいえ、ブライトンには、レアンドロ・トロサールというライバルがいる。東京五輪スペイン代表だったマルク・ククレジャもその1人になるかもしれない。彼らが揃って残留すれば、三笘は熾烈なサバイバルを強いられる。そこを勝ち抜かない限り、カタールでの成功は得られない。厳しい現実がよく分かっているはず。まずは8月7日のマンチェスター・ユナイテッドとのリーグ開幕戦に照準を合わせることが肝要だ。

カタールでの日本代表の躍進は三笘の成長にかかっている部分が少なくない
カタールでの日本代表の躍進は三笘の成長にかかっている部分が少なくない写真:森田直樹/アフロスポーツ

 続いて守田だが、今季UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)グループステージから参戦する強豪への移籍は願ったり叶ったりだったはず。本人も「ポルトガルに来てから、スポルティングでプレーしたいと思っていた。素晴らしいビッグクラブで、僕のキャリアで最大の挑戦になる」と意欲を燃やしている。

 昨季のスポルティングは3-4-3をベースにしていたが、ポルトガル代表のジョアン・パリーニャ(フルハム)が移籍。守田がダブルボランチの一角を占める可能性も高まっている。指揮官もルベン・アモリム監督が続投しており、これまでの戦い方にいち早くフィットできれば、9月から始まるUCLでフル稼働して、最高峰レベルを体感したうえで、カタールに挑むことができる。

 今の代表MF陣でUCL経験がある選手は見当たらない。鎌田大地がフランクフルトに残留すれば同じ状況になるが、最終予選で主力を担った守田が有利なポジションにいるのは間違いない。このままグングンと突き抜けてほしいものである。

UCL初参戦でさらなる飛躍が求められる守田英正
UCL初参戦でさらなる飛躍が求められる守田英正写真:森田直樹/アフロスポーツ

南野と堂安は新天地で確固たる地位を築くことが肝心

 残る南野と堂安に関しては、前所属先より格下と位置づけられるクラブに赴いたわけだが、出場機会増というメリットが生まれる。そのためにあえてこの決断をしたはずだ。

 世界のトップ・オブ・トップのリバプールでしのぎを削っていた南野にしてみれば、フランスという新天地を選んだことは大きな挑戦に他ならない。モナコの攻撃陣の軸はキャプテンでフランス代表のウィサム・ベン・イェデル。昨季25ゴールの絶対的エースを抜きには語れない。さらに元ドイツ代表のケヴィン・フォラントら優れた選手もいる。南野が彼らと共存するのか、競争関係になるのかは今後の展開次第と言える。

 いずれにしても、彼らと並ぶくらいの地位を勝ち取らなければ、トップフィットの状態でカタールW杯を迎えられないのは確か。モナコはUCL予備戦3回戦からの出場で、勝ち上がればグループステージに進める。その段階で南野は自身の地位をしっかりと確立させておく必要がある。

 思い起こせば、ザルツブルク時代の2019-20シーズンもUCLに参戦し、リバプール戦で衝撃的なゴールを奪い、プレミアリーグへの道をこじ開けた。今度はモナコでブレイクし、カタールW杯で成功につなげたいところ。日本の背番号10の挑戦の行方が気になる。

南野にはモナコで新境地を開拓してほしい
南野にはモナコで新境地を開拓してほしい写真:森田直樹/アフロスポーツ

 そして最後に堂安。正直、まだW杯当確とは言えない状況だが、登録メンバーが26人に拡大されたのを踏まえると、ほぼ枠内に入っていると考えていい。そこでエース級の伊東純也を上回っていくためには、新天地・フライブルクでの目覚ましい結果が不可欠だ。

 クリスティアン・シュトライヒ監督が率いた昨季はブンデス1部・6位、DFBポカール準優勝という目覚ましい成績を残している。基本布陣も3-4-2-1、5-3-2など相手によって使い分けながら、臨機応変な戦いを披露。堂安も複数の役割を託されそうだ。その応用力と柔軟性は日本代表でも必ず生かされるだろう。そのうえでゴールを確実に奪える存在にならなければ、絶対的信頼は勝ち取れない。

 幸いにして、9日のザンクトガレン戦でデビュー戦ゴールをゲット。順調な一歩を踏み出した模様だ。この調子で森保ジャパン発足時に「三銃士」の一員として輝きを放った頃のような推進力を示してほしい。24歳になった堂安の変貌ぶりを楽しみに待ちたい。

 上記6人が所属先でいい方向に進めば、日本のカタールでの好結果につながる。8月初旬の開幕が楽しみだ。

堂安には2018年に代表デビューした頃の勢いを取り戻してもらいたい
堂安には2018年に代表デビューした頃の勢いを取り戻してもらいたい写真:森田直樹/アフロスポーツ

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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