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「俺はまだ日本には帰れない」カタールW杯まで1年、岡崎慎司の覚悟

元川悦子スポーツジャーナリスト
今も向上心に満ち溢れる岡崎慎司(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 2022年カタールワールドカップ(W杯)での8強入りを目標に掲げながら、アジア最終予選で苦戦を強いられている森保ジャパン。10月のオーストラリア戦(埼玉)からの3連勝でグループ2位に浮上したものの、2022年の残り4戦は負けられない試合が続く。

 いずれにせよ、今のままではW杯8強の壁は極めて高い。その現実を誰よりも知る1人が、W杯3大会連続出場のFW岡崎慎司(カルタヘナ)だ。

 今もスペイン2部で戦い続ける点取り屋に日本代表への熱い思いを赤裸々に語ってもらった。

今の日本代表は「もっとやらなアカン」

――日本代表から2年以上遠ざかっていますが、最近の試合は見ていますか?

「もちろん見てます。11月のベトナム戦(ハノイ)とオマーン戦(マスカット)も見ましたけど、改めて『自分が出たい場所だな』と思った。『俺ならもっとこうするのに』という感情が出てきちゃうのは、自分がまだ代表を狙っているから。代表は選ばれし者しか戦えない場所で、今の自分は中ではなく外から見てる側だから、悔しさが募ってきますね」

――現状をどう分析していますか?

「達観している選手が多いのかな…。『こういうサッカーをしたいんだ』という思いをもっと出してもいいんじゃないかと。俺らの世代は、そういうのが出過ぎて『暑苦しい』とか見られてたと思うけど、今の代表選手も1人1人のプレーから、もっとそれが伝わるようになってほしい。それができるのは、代表の中にいる人間だけ。外から見ている今の自分が何を思っても、正直むなしいだけですけどね」

代表復帰を目指してカルタヘナで戦い続ける岡崎(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)
代表復帰を目指してカルタヘナで戦い続ける岡崎(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

――2018年ロシアW杯の最終予選でも日本代表は初戦・UAE戦(埼玉)で敗れ、周囲の厳しい視線にさらされました。

「当時は『こいつらを圧倒しないとW杯優勝なんてムリや』という気持ちでやってたんで、『もしW杯に行けなかったら』とかは考えなかった。『行かなアカンやろ』という感じでした。

 今回も初戦を落としてメディアからは危機感を煽られたけど、チーム内では楽観視してたかもしれない。選手は『俺らはアジアのトップや』と思ってたはず。アジアのレベルが上がっているのは分かるんですけど、『もっとやらなアカンやろ』みたいな。でも、そういうのは実際のプレーから伝わってこないといけない。それが感じられなかったからこそ、『だったら俺だってあきらめきれねえよ』って気持ちになりましたね」

日本代表の理想は「個が生きる集合体」

――代表選手たちは準備時間が少ない中で、代表とクラブでの役割にどう適応していくべきでしょうか?

「自分を出すことだけを考えればいいと思う。代表とクラブで違う役割を与えられることもあるけど、『個が生きる集合体』として戦える状態が代表の理想。もっと選手1人1人が頭を整理して、『俺はこれをやろう』とシンプルにプレーすることが大事なんです」

――そういった考え方が代表通算50得点に結びついたんですね。

「ただ、急に点が取れなくなったことはあった。どうしたらいいか分からなくなった時はありましたよ。自分のスタイルを貫こうと思って、代表とクラブの狭間で揺れたけど、そういう悩みはどの国の代表選手も一緒。両方のチームで自分のやりたいプレーができるのはトッププレーヤーの1人か2人だけ。だからこそ、代表の選手たちは『個の特徴』を出したほうがいい。それをみんながガンガン出せる状態になれば、予選で負けることは絶対にないと思います」

尖った個がしのぎを削り合ったザックジャパン時代(写真:ロイター/アフロ)
尖った個がしのぎを削り合ったザックジャパン時代(写真:ロイター/アフロ)

――岡崎選手が活躍したザックジャパンの頃は、まさに「傑出した個の集合体」に近いチームという印象でした。

「当時の自分は所属のシュツットガルトでつねに先発というわけではなかったけど、試合にはコンスタントに出ていた。(本田)圭佑や(香川)真司もそう。海外のクラブで試合に出ているのは大きな強みになるんです。

 今の代表でいうと、伊東純也はゲンクでずっと活躍してますよね。サンジロワーズに移籍した三笘(薫)も、途中出場で1人少ない状況からハットトリックするってあり得ないことをした。海外で圧倒的に力を出してる選手を、代表でその時に使わないのはもったいない。11月のオマーン戦で2人が活躍したのはサプライズじゃなく必然なんです」

「俺はまだ日本には帰れない」の真意

――一方で、長友佑都(FC東京)選手や大迫勇也(神戸)選手のように欧州から日本に戻った選手もいます。

「サコや佑都もまだ海外でやりたかっただろうし、実際に話もしてるんで、しょうがないとは思うけど…。俺はまだ日本には帰れない。今夏のカルタヘナ移籍もギリギリで決まった。賭けでしたよ(苦笑)。

 もともと自分が海外に行ったのは、代表で活躍するためでした。世界で戦うためには海外にいないとアカンと考えて、2011年に出ていったわけです。だから、俺の中では日本に帰るのは代表を降りることと同じだと思ってます」

――となれば、大迫選手にはまだまだ負けられないです。

「森保(一=監督)さんの中ではたぶん、FWってポジションじゃなくて、大迫という人間をその位置に据えてきたんだと思うんですよ。『サコを外して古橋(亨梧=セルティック)を先発にしたらどうか』という意見もあるけど、そういう考えがあるならもっと前にやっていたんじゃないかな。仮にサコがダメだったら、ゴール前で体を張れるタイプの人間が呼ばれる。そういう意味では、自分にもまだチャンスがあるのかなとは思いますけどね」

――チャレンジ精神を持ち続けるのは岡崎選手らしいです。

「年齢的にも守りに入ったら落ちていっちゃうんです。W杯に出て活躍したいなら、やっぱり海外の選手としのぎを削ってないとダメだって過去3大会に出て痛感したので、俺は最後の最後までカタールを目指したいです」

代表から離れて2年半。日の丸への思いは強まるばかりだ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
代表から離れて2年半。日の丸への思いは強まるばかりだ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

今でも日本代表として戦っている

――それが過去3大会連続でW杯の舞台に立った選手の矜持ですね。

「いまだにW杯にこだわっているのも、結果を出したという実感が全くないからなんです。特にブラジルW杯ではあれしかできなくて、散々だったという後悔が残ってる。ロシアW杯にしても、ケガをしてしまって『もっとやれるはずやのに』っていう悔しさしかない。

 ただ、今の自分はスペイン2部で1点しか取れてない。悔しいですがそれが現実ですし、ホント『俺は大したことないな』と(苦笑)。ただ、ここでもう1度、ゴールを量産できたら、新たな未来をつかめる自信はあるんです」

――岡崎選手の気持ちを奮い立たせ続ける「日本代表」とは、どういう存在なのでしょう?

「やっぱり夢。小学校の時に『キャプテン翼』を読んで、『夢は日本代表としてW杯に出ること』と言ってたんです。それがかなった南アフリカW杯で現実を知った後は、『W杯で活躍したい』と強く思って海外に出た。代表という夢がなかったらここまで来れてないですね。

 国を背負うっていうのは、言葉では言い表せないやりがいのあること。俺は日本人として舐められちゃいけないって、いつもそう思いながら海外でプレーしてる。今いるスペイン2部でも日本代表として戦っているんです。海外の選手に負けたくない。そういう気持ちはどんどん強くなってます」

 カタールW杯イヤーの2022年4月には36歳になる岡崎慎司。年齢を重ねれば重ねるほど日本代表やW杯への思いは強まる。代表歴代3位の50ゴールを記録している点取り屋が飽くなき闘争心を持ち続けていることを、現代表の面々はどう受け止めるのだろう…。

 大迫を筆頭に、古橋、上田綺世(鹿島)、前田大然(横浜)と、森保ジャパンには複数の1トップ候補者がいるが、彼らがかつての岡崎のような存在になろうと思うなら、「世界でトップに立つんだ」という気概を示すことが重要になる。

 果たして1年後、カタールのピッチに立っているのは彼らなのか。それとも岡崎か…。いずれにせよ、大ベテランにはサッカー人生を賭けた巻き返しを強く期待したい。

■岡崎慎司(おかざき・しんじ)

1986年4月16日生まれ。兵庫県宝塚市出身。滝川第二高校卒業後の2005年に清水エスパルス入団。2011年から欧州のクラブに移籍し、ドイツ1部・シュツットガルト、マインツでプレー。イングランド1部のレスターでは2015-2016シーズンにプレミアリーグ優勝を経験した。現在はスペイン2部のカルタヘナに所属。ワールドカップには2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシアと3大会連続出場。日本代表国際Aマッチ119試合出場50得点。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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