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崖っぷちの森保ジャパンに救世主は現れるのか? いまこそ4年前の名勝負を再現せよ

元川悦子スポーツジャーナリスト
森保体制の行く末を左右するオーストラリア戦へ気合を入れる選手たち(筆者撮影)

森保監督の進退が問われる大一番へ

「今、一番大事なのは、自分たちが今までやってきたことを信じること。ここで1人1人がブレてしまうと、この先も結果が出ない。苦しい時こそ、自分たちが今までやってきたことと仲間、監督、スタッフ、みんなを信じて戦っていくことだと思います」

 2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選序盤3戦で2敗という過去にない苦境に陥っている日本代表。森保一監督の進退が問われる重要なオーストラリア戦(12日=埼玉)を2日後に控え、35歳の大ベテラン・長友佑都(FC東京)は改めてこう訴えた。残り7戦全勝しなければ、3連勝のオーストラリアとサウジアラビアを上回る可能性が事実上消えると言っていい崖っぷちに立たされているだけに、今こそチームの結束力と底力が問われるのは間違いないだろう。

信頼する主力の大半は不変も、秘策あり?

 ここまで2019年アジアカップ(UAE)準優勝の主力に頼ってきた指揮官だが、次の最重要ゲームは何らかの策を講じるはず。今夏移籍したスコットランドの名門・セルティックですでに公式戦8ゴールを挙げている古橋亨梧、同じく夏に移籍したフランス2部・トゥールーズで5ゴールを挙げているオナイウ阿道らの抜擢が噂されるが、「ベースの部分では方向性は間違っていない」と言う指揮官が自身の去就がかかる一戦でガラっとメンバーを入れ替えるとも思えない。最前線の大迫勇也(神戸)やボランチの遠藤航(シュツットガルト)、固定してきた吉田麻也(サンプドリア)や長友ら守備陣は変更なしだろう。

10日の練習開始前に指揮官と熱く語り合う長友佑都(筆者撮影)
10日の練習開始前に指揮官と熱く語り合う長友佑都(筆者撮影)

 マイナーチェンジがあるとすれば、対オーストラリア対策として中盤の構成ではないか。相手の基本布陣が4-2-3-1で中盤が正三角形になることを考えると、日本としてもそこにマンツーマン気味にマークをつけてボールを奪い、いい形で攻めを展開したいところ。サウジアラビア戦も遠藤航をアンカー気味に据える時間帯もあったが、今回はより明確にアンカー+2枚のインサイドハーフで挑むのではないだろうか。

遠藤保仁的な役割が期待される田中碧

 そこで注目すべきはその組み合わせ。おそらく今回は田中碧(シュツットガルト)と守田英正(サンタクララ)を配置する可能性が大。彼ら2人はご存じの通り、昨季2冠の川崎フロンターレの中盤の要。逆三角形の中盤に慣れていて、距離感やポジショニングをスムーズに取れる。遠藤航との連携を視野に入れても、守田は3月シリーズなどで良好な関係性を築いていて、田中碧は東京五輪で鉄板ボランチを形成した。もちろん最終予選自体は守田も田中碧も初めてだが、戸惑うことなくゲームに入れるだろう。彼らがいいポジションを取りながら動ければ、守備の強度も上がるし、サウジ戦で露呈したボールロストの問題も解消に向かうはずだ。

田中碧の武器である「循環力」が今のチームに必要だ(筆者撮影)
田中碧の武器である「循環力」が今のチームに必要だ(筆者撮影)

 とりわけ、田中碧は最終予選の日本代表に欠けていた緩急のメリハリとタメを作れる選手として大きな期待が寄せられる。明神智和(G大阪ジュニアユースコーチ)や内田篤人(JFAロールモデルコーチ)といった複数の代表レジェンドが各メディアを通して「今の森保ジャパンに必要なのは遠藤保仁(磐田)のような存在」と口を揃えているように、中盤でボールをキープして時間を作ったり、左右に展開して敵をいなすといった頭脳的なゲームコントロールが今のチームに足りないのは確か。中村憲剛(JFAロールモデルコーチ)の一挙手一投足を幼い頃から見続け、吸収し続けてきた23歳の若きボランチは、そういう仕事を果たせる数少ない存在と言っていい。

「自分はどこで受けてボールを前進させるのかだったり、ゲームの流れを作るところだったりをボランチの位置でプレーした時に出せればいいなと思います。守備の部分においても強く行く部分をより出せればいい」と本人も目を輝かせていた。8月から本格的にドイツでのキャリアをスタートさせてから、うまさや速さだけがサッカー選手としての価値ではないと痛感しつつ、自分自身の器を広げている。その成長も含めて今、一番楽しみな選手。修羅場の大一番に抜擢されるとしたら重圧は相当なものがあるだろうが、ここは若さで思い切ってぶつかるしかない。

勝利のカギは中盤の攻防

 2018年ロシアW杯出場を決めた2017年8月のオーストラリア戦(埼玉)でも、日本は長谷部誠(フランクフルト)をアンカーに据え、その前に井手口陽介(G大阪)と山口蛍(神戸)をインサイドハーフに配置するという逆三角形の中盤を採用。アンジェ・ポステコグルー監督(現セルティック)のポゼッションサッカーを封じ込め、浅野拓磨(ボーフム)と井手口の2ゴールで勝ち切った。その時も中盤の攻防を制したことが最大の勝因だった。

 森保監督も名勝負の記憶はもちろん鮮明だろうし、分析・研究も徹底的に行ったはず。当時とは日本もオーストラリアもメンバーが大きく変わってはいるが、ボールを握ってアクションを起こしながら戦うという基本コンセプトは共通している。だからこそ、日本はあの勝利の再現を強く追い求めるべきだ。

古橋、オナイウ、浅野…。カードは惜しみなく切れ!

 オーストラリア守備陣も198センチの長身を誇るハリー・ソウター(ストーク・シティ)、トレント・セインズベリー(コルトレイク)ら屈強なDF陣がゴール前を固めているため、こじ開けるのは容易ではない。そういう展開になっても、ベンチに古橋やオナイウ、浅野らが控えているため、早いうちにカードを切れば相手を混乱に陥れられる。特に大柄なDFにしてみれば、古橋のようなタイプは苦手。彼がスコットランドでゴールを量産できているのも、俊敏性や細かい動きを押し出して駆け引きしているからだろう。そのジョーカーをどう使うかも、大一番の重要なカギ。ここまで来たら、森保監督には出し惜しみせず、使えるカードは全て使うくらいの割り切りを示すべきだ。

森保監督の笑顔は試合後にも見られるだろうか(筆者撮影)
森保監督の笑顔は試合後にも見られるだろうか(筆者撮影)

 ここで勝利という好結果が出れば、風向きは大きく変わる。指揮官も更迭危機を免れるだろう。その問題がクローズアップされるのはやむを得ないが、とにかく日本の持てる力を100%発揮することに全力を注ぐことが最優先。後先を考えず、全員が体を張って守り、ゴールに一目散に向かうような気持ちのいい戦いをぜひとも見せてもらいたい。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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