酒井宏樹(浦和)、大迫勇也(神戸)、そして長友佑都(FC東京)…。

 日本代表の海外組が続々とJリーグに戻ってきた2021年夏。

「Jリーグのレベルは低くない」と彼らは口々に言うが、日本と欧州のサッカーに差があるのも事実だ。

 それを踏まえながら、この2年間、Jリーグの舞台で戦ってきたのが、元日本代表DFの酒井高徳(神戸)である。

 ドイツで7年半修羅場をくぐってきた男が感じる欧州とJリーグの違いとは何なのか。どうすれば海外経験者は自身のキャリアを日本に還元できるのか。

 欧州基準を知る30歳のフットボーラーが本音を赤裸々に語った。

「あえてストレートに言います」

――国内復帰から2年が経ちますが、Jリーグのレベルは率直に上がったと思いますか?

「僕は辛口だと思われることも平気で口にしてきたんで、あえてストレートに言いますけど、現状はあまり変わっていないと思います」

――具体的にはどういう部分ですか?

「球際の部分の違いは強く感じます。まず無駄なファウルをしてしまうボールの奪い方が非常に多いです。手を使ったり、足先だけで相手のボールに行ったりする場面が目立ちます。審判も少し触っただけで笛を吹くのでナイーブになりがちですけど、正当なボールの奪い方ができていないという印象が強いです。

 もう1つはセットプレーがJリーグではあまり脅威になっていないことが気になります。ドイツのカップ戦では3部や4部のチームがセットプレーの一発に賭けてくるので、1部の選手はファウルを犯さないような形でボールを取りに行くんです。でもJリーグではセットプレーで簡単にファウルを与えてしまう。そういった差は感じます。

 全部が全部悪いわけじゃないけど、Jリーグが何か変わったかと言われれば、一切変わってないですね」

神戸では左右のサイドでアグレッシブなプレーを見せる(写真:フォトレイド/アフロ)
神戸では左右のサイドでアグレッシブなプレーを見せる(写真:フォトレイド/アフロ)

――となれば、欧州基準を体感してきた選手がJリーグでプレーをすると違和感や感覚的なズレがありますよね?

「そういうのはムチャクチャあります(苦笑)。そればっかりと言った方がいいのかもしれません。ただ、勘違いされたくないのは、自分ができていて、他の選手ができていないからダメってことではない。周囲の選手が欧州のやり方を知らないっていうのが一番大きいんです。

 神戸に来てからの自分は、欧州で積み上げてきた距離感や強度をチームメートの前で体現して、『これくらい強く行くんだ』『もっと相手との距離を詰めろ』と要求し続けてきました。正直言うと、僕個人は今ももっともっと激しく行きたい。だけど、サッカーは11人でやるものなんで、連動できなければ意味がない。チームの勝利を最優先に考えないとダメなんです。

 そうやっているうちに、この2年でボールを奪いに行く迫力、球際、切り替えの部分は少しレベルが落ちてしまったのかな…。正直、そんな気がします」

――なぜ、そう感じるんですか?

「ドイツにいた頃は1対1のプレーももっと激しくしてたんですけど、その状況自体がJリーグにはなさすぎて、発揮する場面もないんです。Jリーグの強度に慣れてきてしまったのもあります。

 もう1つ言えるのは、日本では止まった状態でズレのないボールタッチが重要視されるけど、欧州では、前に動きながらスピードに乗った状態でボールを扱う傾向が強いこと。その分、推進力やダイナミックさが出て、強度も上がり、サッカーがより魅力的なものになる。自分自身、そういうプレーが少なくなった気がします。

 僕は過去のプレー映像集を家でしょっちゅう見るんですけど、パフォーマンスが全然違うのが自分でもよく分かる。なるべくそのレベルをキープしようと練習や試合に取り組んできたし、つねに意識を高く持ってやってきたつもりですけど、やっぱり難しいところはありますね」

「Jリーグは別物として考えてもらいたい」

――そういう経験をしている高徳選手が、宏樹選手や大迫選手に伝えたいことは?

「宏樹にしても、サコにしても、僕が言うこともないくらいプロフェッショナルなので、僕が話しているような基準をJリーグで絶対に披露してくれるはず。指標になるプレーは局所局所で出てくると思う。『Jリーグにいる酒井宏樹・大迫勇也』を見るんじゃなくて、彼らのクオリティを見てほしいと個人的には感じます」

――ただ、Jリーグには大迫選手がドイツで対峙していた2m級の大型DFも、宏樹選手がマッチアップしていたネイマール(PSG)のような世界的アタッカーもいません。環境的に難しい面はありますね。

「そうですね。自分たちが欧州でやってきたことをそのまま発揮すれば活躍できるのかと言われたら、そうじゃないですよね。日本に戻って、異なる環境に身を投じたら、自分のパフォーマンスが発揮できなかったという例も実際に目にしています。

 だからこそ、『欧州の成功=Jリーグの成功』とイコールで考えてほしくない。Jリーグ特有の難しさもあるので、別物として考えてもらいたいですね」

自身が体感してきた欧州基準を示そうと奮闘する酒井高徳(写真:フォトレイド/アフロ)
自身が体感してきた欧州基準を示そうと奮闘する酒井高徳(写真:フォトレイド/アフロ)

――欧州基準を知る選手と間近でプレーできるJリーガーに改めて今、言いたいことはありますか?

「仮に『宏樹や僕を突破したら、自分は世界でやれるんだ』と感じている選手がいるとしたら、それはちょっと違います。欧州で生き抜いていくためには、もっと多くの要素が必要。その厳しさを伝えるためにも、僕らがより活躍しなきゃいけないと自覚してます。

 自分は欧州トップレベルの試合を映像で見て、その感覚や基準を定期的に再確認しています。『このポジションで合ってるか』『この距離やテンポで問題ないか』と僕なりにチェックして、それを練習や試合でチャレンジしているんです。その基準を分かっている人と、単に『メッシ(PSG)すげえ』と眺めているだけの人とは全然違う。今のJリーグを見ると、そこまで理解したうえで、ピッチに立っている選手はまだまだ少ない印象ですね」

――確かにそうですね。高徳選手はそんなJリーグに今後、何をもたらしたいですか?

「僕自身は所属チームで結果を残すことを大事にしています。神戸に来てすぐに天皇杯を取りましたけど、クラブの一員としてより多くタイトルを取ることが今の目標です。1から10に一足飛びには到達できないけど、タイトルを常に狙えるメンバーは揃っている。そんな環境の中で、自分はレベルを落とさず、絶対的であり続けたい。本音を言えば、ドイツで戦っていた頃を懐かしく思うこともありますけど、ああいう緊張感で日常的にプレーして、結果を残したいですね」

 ドイツ・ブンデスリーガでコンスタントにプレーしていた酒井高徳の発言には重みがある。日本サッカーを世界トップに引き上げたいと思うなら、1人でも多くの関係者が彼の話に耳を傾けるべきだ。そして日本に戻ってきた酒井宏樹や大迫、長友らには世界基準をピッチ上でしっかりと示してほしい。彼らの飽くなき努力がJリーグのさらなる飛躍につながることを切に願う。

■酒井高徳(さかい・ごうとく)

1991年3月14日生まれ。アルビレックス新潟ユースから2009年にトップ昇格。2011年にドイツ1部シュツットガルト、2015年からはハンブルガーSVに移籍。2019年夏にJ1ヴィッセル神戸に完全移籍。日本代表としてはブラジルW杯、ロシアW杯など国際Aマッチ42試合出場。

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