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FW浅野拓磨が金髪から黒髪に戻した理由 先輩・岡崎慎司&香川真司への思い明かす

元川悦子スポーツジャーナリスト
笑顔で今季の充実感をのぞかせる浅野拓磨(筆者撮影)

 11月の日本代表2連戦(パナマ・メキシコ)の活動期間中に26歳の誕生日を迎えた浅野拓磨(パルチザン)。「代表期間に誕生日を迎えるのは3、4回目。『みなさんと年を重ねられるように頑張っていきたい』と今回も挨拶しました。2年後の11月は2022年カタールワールドカップ本番直前。その時にもこうやって挨拶できたらいい」と目を輝かせた。

 進化の途上にいる快足ストライカーが見据えるのは、代表50ゴールの岡崎慎司(ウエスカ)、そして10年近く日本代表の10番を背負った香川真司の背中。偉大な先輩、日の丸への熱い思いを浅野が赤裸々に語った。

メキシコに勝てるチャンスはある!

――11月のメキシコ戦は0-2の敗戦。原口元気選手(ハノーファー)は「ロストフの悲劇がフラッシュバックした」と悔しさを吐露していました。

「最終的に勝つか負けるかで力の差は決まりますけど、メキシコ戦ではその差を改めて痛感させられました。

 でもメキシコに絶対勝てないかというとそうじゃないと思っています。前半だけを見れば、日本は攻守両面で主導権を握れていた。1点入っていたら全然違った結果になっていた。そこがサッカーの難しさだというのは全員が分かっていることだけど、前半に先制点を取れていたら楽に戦えたのは間違いない。0-0で終わったことで、逆にメキシコはポジティブになれて、後半巻き返せたんだと思います。

 僕自身は(2018年ロシアワールドカップの)ベルギー戦を思い出したとか、そういうのはなかった。逆に勝てるチャンスがあるなと。メキシコにも戦えるとポジティブに捉えられる部分もありましたね」

11月のメキシコ戦で相手と競り合う浅野(写真:ロイター/アフロ)
11月のメキシコ戦で相手と競り合う浅野(写真:ロイター/アフロ)

――浅野選手は終盤からの出場でしたが、前半の押していた時間帯に決め切るためには何が必要だと思います?

「フォワード陣が決め切れるかどうかというのはホントに紙一重。その分かれ目が自信なのか、技術なのか、メンタルなのか、運なのか分かりませんけど、全部含めて実力かなと。その実力を上げないといけない。決定率が低いなら、シュート本数を増やせばいいし、その本数を増やせるようなチームにならないといけない。僕自身もあの試合で突きつけられた課題にもっともっと取り組んでいかないといけないと思います」

追いかけてきた岡崎慎司の背中

 2015年8月のEAFF東アジアカップ2015の北朝鮮戦で浅野がA代表デビューを果たした頃、日本のエースには岡崎慎司が君臨していた。ドイツ・ブンデスリーガ1部で2年連続2ケタゴールを奪って同年夏にイングランドのレスターへ移籍した彼は、プレミアリーグ初制覇に貢献。代表でも通算50ゴールという偉大な数字を残した。現時点で4ゴールの浅野にとっては、とてつもなく大きな存在であることは間違いない。

――岡崎選手はどんな存在ですか?

「ホントにあの人はすごいなってただただ感じさせられます。ドイツで活躍して、プレミアへ行って、日本代表でもあれだけの結果を残した。僕も同じフォワードなので、あれだけの結果を残すのは、さっき話した『紙一重の部分』を持っていると強く感じます。それに加えてサッカーに取り組む姿勢や気持ちの部分も学ぶところがある。岡崎さんが去年の夏にスペイン2部に移籍した時、『1つの時代が終わった』と思った人が日本には多くいたと思います。でも彼はチームを1部に上げて、今もリーガ・エスパニョーラで活躍している。『何なんだ、この人は』って思うくらい(笑)。僕ら後輩にとってはすごく大きな存在だし、見本でもある。それと同時に悔しさもあります。『俺も負けてられないな』っていうのはつねに思っていますね」

――岡崎選手以外に参考にしている代表の先輩はいますか?

「参考にしてるというよりは、香川真司さんと仲良くさせてもらっています。連絡もまめにくれて、いつも電話で話しているんですけど、僕が金髪の時には『お前黒髪にしろよ』ってずっと言われていました。その影響もあって、今は黒髪になりましたね(笑)」

今季パルチザンでは前半戦だけで公式戦2ケタゴールを記録(写真:ロイター/アフロ)
今季パルチザンでは前半戦だけで公式戦2ケタゴールを記録(写真:ロイター/アフロ)

香川真司らロシア16強メンバーから得た刺激を2年後につなげる

 森保一監督率いる今の日本代表は冨安健洋(ボローニャ)や久保建英(ビジャレアル)ら20歳前後の世代が急増。岡崎や香川、本田圭佑(ボタフォゴ)、内田篤人(JFAロールモデルコーチ)といった強烈なキャラクターと実績を誇る面々がそろった時代を知らない選手も増えてきた。彼らがバチバチと意見をぶつけ合っていた頃を体感している浅野の存在はやはり貴重だ。この経験を糧にして、セルビアでコツコツと力をつけ、結果を残し、はい上がっていくことができれば、20代後半からブレークした岡崎のような軌跡を辿るのも夢ではない。

――セルビアで得られているものは?

「僕はドイツから来たので、そこに比べると全体的に劣る部分は否めないですけど、想像していたよりはレベルの高いリーグかなと思います。サッカーのクオリティや戦術はそこまで高くないですけど、1人1人の身体能力の高さは日本にはないもの。欧州の中でも優れている人種の集まりですし、技術的にも非常に高い。パルチザンもアンダーカテゴリーから上がってくる選手は、『これが育成年代なのか』と思うくらいうまい。彼らの体が大きくなって、強度が高くなれば、プレミアに行けそうな選手もたくさんいる。いい刺激になっています」

セルビアでは専属料理人という頼もしい援軍も

――生活面はどうですか?

「今(11月末)はロックダウンではないですけど、全てのお店が18時に閉まる感じです。でも僕はハノーファーの最後の半年からシェフを雇っているので、その人に食事を作ってもらっています。食事も選手として成長できる重要な部分。その料理人にお願いしてからケガも一切していません。ハノーファーでケガを繰り返して、自分を見直したことがよかったのかなと。話し相手にもなってくれていますし、精神的にもだいぶ助けられています」

――コロナ禍の20-21シーズン前半戦を振り返ると?

「公式戦2ケタゴールを果たせたのはよかったです。でもまだリーグ戦2ケタには到達していませんし(12月12日現在で9ゴール、16日に年内最終戦)、自分はここで満足しているわけではないですし、もっと格上のリーグに戻るつもりでやっています。そうなるように2月再開の後半戦も頑張っていきます」

 セルビアという日本人の少ない環境で、自己研鑽に励んできた2020年の浅野。コロナ禍も乗り越え、確実に一皮むけつつある。11月の日本代表2連戦ではともに後半からの出場にとどまり、ゴールという結果も残せなかったが、本当の勝負はここから。2021年に再開されるカタールワールドカップのアジア予選では主力の一員として名を連ね、2年後の本大会では華々しい活躍を見せる…。そんな理想のシナリオを現実にすべく、スピードスターは前進を続けていく。

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■浅野拓磨(あさの・たくま)

1994年11月10日生まれ。三重県菰野町出身。2013年に四日市中央工業高校を卒業後にサンフレッチェ広島に入団。2015年4月にJリーグ初ゴールを挙げる。同年8月にA代表デビュー。2016年1月のU-23アジア選手権では決勝ゴールを決めて、日本をアジア王者に導いた。同年8月のリオデジャネイロ五輪に出場。一方で、イングランドの名門アーセナルに完全移籍したが、イギリスの労働許可証が下りず、ドイツ2部のシュツットガルトに期限付き移籍。2018年にはドイツ1部のハノーファーに期限付き移籍。翌年にはセルビア1部のパルチザンに移籍することが発表された。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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