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オール欧州組の森保ジャパンに手倉森監督が持論「国内組だけの合宿もあっていい」

元川悦子スポーツジャーナリスト
10カ月ぶりの代表活動再開へ期待を寄せた手倉森誠監督(写真:アフロスポーツ)

欧州組だけで代表活動再開も、国内組は底力示せ!

 10月9日のカメルーン戦・13日のコートジボワール戦(ともにユトレヒト)に向け、日本代表の合宿が5日からオランダでスタートする。森保一監督率いるA代表が活動するのは2019年12月のEAFF E-1選手権(釜山)以来。欧州組のフルメンバーが揃うのは、その1カ月前の2022年カタールワールドカップアジア2次予選・キルギス戦(ビシュケク)以来となる。1年近い空白期間を埋めるためにも、ようやく巡ってきた貴重な強化の場を最大限有効活用してほしいものだ。

 今回は新型コロナウイルス感染拡大で渡航制限があるため、欧州組だけの招集となっている。だが、Jリーグの選手がこの先もノーチャンスというわけではない。J1を見ても、大卒新人ながら今季8ゴールを挙げている三笘薫(川崎)、J2からの個人昇格1年目で切れ味鋭いドリブル突破が持ち味の坂元達裕(C大阪)ら躍進中の戦力が何人も出てきている。

 こうした現状を踏まえ、「国内組だけを集めて合宿をしてもよかった」と独自の意見を口にするのが、2018年ロシアワールドカップで代表コーチを務めたV・ファーレン長崎の手倉森誠監督だ。「Jリーグの指導者は自分たちが代表選手を育てているという自覚を持つべき」と改めて強調する指揮官に、森保ジャパンの現状と今後、日本サッカーのあるべき姿について伺った。

「代表よりクラブ優先」の意識に物申す!

――コロナ禍でJリーグが超過密日程になる中、「今は代表よりクラブ優先」という考え方が全体に強まっている印象です。

「それは確かにありますね。『こんな状況で代表強化をしていいのか』という意見も耳にします。でも代表に関わった経験のある人間として、自分は代表は代表で強化するべきだと思うんです。東京五輪に関しても『大会実施が正式決定したら強化しましょう』では、日本のようなサッカー中堅国はメダルを取れない。僕が2016年リオデジャネイロ五輪を率いた時は『招集は各クラブ1人』という規制をかけられましたけど、東京五輪を本気で勝ちに行くならクラブは呼ばれた分だけ選手を出すべきです。

 今、Jリーグの指導者をやっていますけど、われわれは次の代表選手を育てていることを忘れてはいけないと思います。森保監督だけが代表を強くするわけじゃなくて、日本サッカーに関わる指導者全員が世界基準を視野に入れ、国際級の指導・強化をしていかないといけない。『Jリーグで優勝できればそれでいい』『国内で勝っていればいい』という感覚では、A代表も五輪代表も成功しない。そこは改めて強調しておきたい点です」

国内組だけの合宿もあっていい!

――今回は国内組だけの合宿をしてもよかったですね。

「僕もそう思います。コロナ禍で移動も簡単にはできないですから、海外組はスタッフが出向いて強化し、国内組は残ったスタッフが見るという形でやればいい。最終的に両者を合体させることを視野に入れながらキャンプをすることは必要でしょうね。

 国内組が海外組と一緒にプレーした時、国内組は感覚の違いを感じると思うんです。リオの時も南野拓実(リバプール)と久保裕也(シンシナティ)が入ってきた時、国内組は『インターナショナルの感覚はこういうものか』って刺激を受けた。国内組に世界基準を落とし込むことが五輪メダル獲得、ワールドカップでの8強入りに必要不可欠な部分なんです。ロシアでもベルギー戦の『ロストフの14秒』で日本は16強で敗退を余儀なくされましたけど、ああいうのは国際レベルでは当然のこと。ダイレクトプレーやスキのなさ、ゴールに向かう速さを国内組にインプットさせるアプローチが重要ですね」

――8月に引退した内田篤人さんも「日本と世界の差は広がっている」と言っていました。

「ウッチーはケガに泣いた選手。『どうだ、ひざは痛くないか?』と声をよくかけましたけど、ホントにもったいなかった。彼も一緒にロシアへ行って、2014年ブラジルワールドカップのリベンジを果たしたかったです。あの状態で鹿島アントラーズに戻って3年間現役を続けたのは、むしろ長かったのかなと。日本の選手、鹿島の選手は彼の思いを背負って戦わないといけないと思います。

 世界との差についても、彼はいいことを言いましたね。Jリーグのクラブが国内で勝つことにフォーカスしがちな中、あの言葉はインパクトが大きかった。僕のいる長崎は少し時間がかかりますけど、世界レベルを目指したクラブにできるように強化したいですね」

若手は修羅場をくぐった選手からもっと吸収を!

――長崎には玉田圭司選手を筆頭に、徳永悠平選手、角田誠選手といった日の丸を背負った経験のあるベテランがいます。彼らのもたらすものも大きいのでは?

「それはありますね。玉田や俊輔(中村=横浜FC)、ヤット(遠藤保仁=G大阪)、憲剛(中村=川崎)、引退したウッチーもそうですけど、卓越した国際経験のある選手からもっと学ぶ環境を作ることがJリーグ全体で必要だと僕は思います。彼らのことを『昔、代表だった選手』『歳を取った選手』と若手は見るかもしれないけど、盗むものは絶対にあるんです。

 それは国際経験だったり、数ある修羅場をくぐった経験だったりする。修羅場って簡単に言いますけど、そんなに簡単にはくぐれない。『どうやって代表になったんですか』『代表ってどんなところですか』とウチの若手にはもっと玉田にどんどん聞いてほしいんです。そういう貪欲さを持つべきだし、クラブ側ももっと世界に目を向けないといけない。フロントも含めてインターナショナルな視点を持ち、日常的に代表の話ができるような環境にならないといけない。僕はそう強く感じています」

今こそ日本サッカー界全体で大きな夢を持て!

――コロナ禍で今はどのクラブも経営面に目が行っていますが、そういう時期だからこそ夢を持つことが大事ですよね。

「ホントにそう思います。日本サッカーが強くなるという夢や目標をJリーグのクラブが発信していくべきなんです。コロナ禍の今こそ、僕らは前向きにならなきゃいけない。それはベガルタ仙台を率いていた2011年に東日本大震災に遭った時も感じたこと。今までより大きな夢を掲げられるようなサッカー界にできるように、これからも現場で頑張っていきます」

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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