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U-23日本代表の惨敗がA代表に及ぼす影響とは 深刻な事態に直面した森保体制の今後

元川悦子スポーツジャーナリスト
U-23日本代表を指揮する森保監督(左)と横内コーチ(右)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 サウジアラビア、シリア、カタールという中東諸国と3試合を戦って、1分2敗の勝ち点1でグループ最下位……。五輪本大会に参戦し、メダルを目指すU-23日本代表がこれほどまでの惨敗を喫したのは、Jリーグ発足以前に遡らなければ思い当たらない。96年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、そして2016年リオデジャネイロと、93年以降の日本はここまで確実にアジア予選を突破し、大舞台の切符を手にしてきたからだ。

Jリーグ発足後の日本は五輪予選に勝ち続けてきた

 山本昌邦監督(現解説者)率いるアテネ五輪代表が最終予選のUAEラウンドで集団下痢事件に見舞われたり、予想外に苦しんだ反町康治監督率いる北京五輪代表に対して当時の川淵三郎・日本サッカー協会会長(現相談役)が「ピチピチ感がない」と苦言を呈したり、ロンドン五輪代表を率いた関塚隆監督(現協会技術委員長)が中立地・ヨルダンでシリアにまさかの敗戦を喫して絶望感に打ちひしがれたりと、過去の代表にはさまざまな困難がつきまとった。けれども、最終的には地力の差を見せて何とか乗り越え、「アジアの強豪」の地位を守り続けてきた。

歴史に汚点を作った森保U-23日本代表

 森保一監督率いる今回のU-23日本代表はその歴史に汚点を作ったと言わざるを得ない。開催国枠ですでに出場権を手にしていようと、欧州組の主力が呼べなかろうと、国内組の多くがオフ明けでコンディションが悪かろうと、タイでの暑熱対策がうまくいかなかろうと、1次リーグ敗退という事実は変わらない。

「日本のユニフォームを着て出ている選手たちはアイデンティティを持って戦わなければいけないわけで、それが他の国と劣るようであっては困る。全てにおいて勝っていかなきゃいけないのは我々の宿命。それに対する責任を痛感しながらやらないといけない」

 田嶋幸三会長もこう強調していた通り、今回のチームがその重責を果たせなかった点は見逃せない。森保監督と選手たちには事実をしっかりと受け止めてほしい。

不安視される五輪世代のメンタル面

 東京五輪アジア最終予選を兼ねる今大会で惨敗したことは、単に五輪本大会に響くだけでなく、8月末から始まる2022年カタールワールドカップアジア最終予選にも影響する可能性も少なくない。

 現在のA代表の主力は長友佑都(ガラタサライ)や吉田麻也(サウサンプトン)を筆頭に何年も軸を担っているベテランが多い。大迫勇也(ブレーメン)や酒井宏樹(マルセイユ)らは過去2回、柴崎岳(ラコルーニャ)や原口元気(ハノーファー)、遠藤航(シュツットガルト)も1回、本大会を経験している既存戦力だ。そこに森保体制になってから南野拓実(リバプール)や中島翔哉(ポルト)、冨安健洋(ボローニャ)ら新顔が数人加わったものの、最終予選突入後はフレッシュな若手がさらに食い込んでこなければ、戦いは厳しくなる。

 その可能性を秘めた五輪世代が「アジアで勝った経験」を持たずにA代表に上がってくるのは非常に怖い。仮に再び中東勢中心のグループに入った時、上田綺世(鹿島)や杉岡大暉(鹿島)らA代表候補たちは強気のメンタリティを持って挑めるのか……。そこはやはり気がかりだ。

レフリングも逆風か?

 3試合連続でVARからPKを取られた今大会はレフリングに苦労したが、五輪世代の負けによって「日本は強豪ではない」と見なされれば判定がより厳しくなることも考えられる。世界の潮流を見れば、格上と格下が対戦した際、審判が格上有利に笛を吹くことは往々にしてある。2019年1月のアジアカップ(UAE)でも、準々決勝・ベトナム戦で堂安律(PSV)がVAR判定で得たPKを決めて1-0で逃げ切ったが、日本にはそういう追い風が吹くこともあった。けれども、今後は逆風が強まりかねない。加えて言えば、次のワールドカップ開催地はカタールだ。中東勢の鼻息は当然、荒くなる。それを踏まえても、今大会は上位進出に大きな意味があったのではないか。

最終予選も森保体制継続なのか?

 そのうえで、森保体制の今後に暗雲が立ち込めるという深刻な事態に直面している。監督解任論が高まる中、田嶋会長や関塚技術委員長は現体制の支持を表明しているが、最終予選で指揮官が采配を振っている保証はない。新たなチーム作りを余儀なくされることも十分にあり得る。後任候補の考え方次第では1年半の積み重ねが生かされなくなるだろうし、選手の序列も変わる可能性もある。チャンスが生まれてモチベーションが上がる選手もいる一方で、現在のコアメンバーにとっては不安だ。それがクラブでのパフォーマンスに響かなければいいが、先行きは何とも言いようがない。

 16日にタイでメディアに対応した森保監督は「3月のインターナショナルデーは五輪優先にすることも考えている」と発言したという。となれば、やはりA代表のマネージメントがどうなるのかは非常に興味深い点だ。技術委員長だった西野朗監督(現タイ代表)が緊急登板した2018年ロシアワールドカップ直前のように、今回も関塚技術委員長が采配を振うのか、それとも別の選択肢を採るのか。今後の動向は大いに気になる。

日本にとっての最重要命題はカタールワールドカップ出場と8強入り

 いずれにしても、日本サッカー界にとって最も重要なのはカタールワールドカップに出場し、これまで超えられなかったベスト8の壁をクリアすること。その1点に尽きる。自国開催の東京五輪の重要性もよく分かるが、五輪はあくまでU-23の世界大会であり、ワールドカップへの強化の一環だ。そこも再認識したうえで、A代表のレベルアップにつながるような改善策を協会には強く求めたい。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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