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「自己採点は50点」 復帰した上野由岐子 米国に惜敗も東京五輪に向けて手応え 

元川悦子スポーツジャーナリスト
9月1日のジャパンカップ決勝で1イニングを投げた上野由岐子(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

サウスポー・尾崎が奮闘した決勝

 8月30日から群馬県高崎市で行われていたソフトボール女子の国際大会「ジャパンカップ」。その決勝が1日に行われ、日本は宿敵・アメリカに挑んだが、2-3で惜敗。東京五輪金メダルを争う最大のライバルを倒すことができなかった。

 今回の日本は4月の日本リーグであごを骨折し、長期離脱を強いられていた上野由岐子(ビックカメラ高崎)がフル稼働できず、新エースと期待されていた藤田倭(太陽誘電)も直前に足の肉離れに見舞われて欠場。宇津木麗華監督が絶大な期待を寄せるピッチャー2本柱を使えない状態での戦いとなった。

 そこで予選リーグでは19歳の勝俣美咲(ビックカメラ高崎)や岡村奈々(日立)、濱村ゆかり(ビックカメラ高崎)らを登板させたが、大一番のファイナルではサウスポーの尾崎望良(太陽誘電)を先発に抜擢。彼女にタイトルを託した。

 ところが1回表、先頭打者にストレートの四球を与えたところでリズムが狂い、初回からいきなり3ランを浴びた。「初回が全てだった」と尾崎は振り返ったが、入りのリズムの悪さがその後に大きく響いたのは間違いない。日本も2回裏に山崎早紀(トヨタ自動車)が2ランを打って追い上げたが、打線が続かない。2回以降は立ち直った尾崎が粘りのピッチングを見せたが、打撃陣の援護射撃がなく、日本はそのまま2-3で敗戦。この大会でアメリカに2連敗し、2020年東京五輪に向けてさらなる底上げが求められる状況となった。

上野も1イニング・21球を投げ、復調へ

 しかしながら、明るい材料もあった。上野が4カ月ぶりに実戦の場に戻ってきたことは最も大きな出来事だろう。30日のチェコ戦で1イニング、31日のチャイニーズ・タイペイ戦で2イニングを投げた彼女は決勝・アメリカ戦でも7回表に1イニングだけ登板。最高115キロのスピードボールと変化球を使い分けながら21球を投げ切った。レフト前ヒットを許す場面もあったが「前日よりは周りを見れていたし、それなりに落ち着いて投げることができた」と前向きに捉えていた。現時点での自己採点を問われて「最初に30点って言っちゃったからなあ」と報道陣の笑いを誘った後、「1日10点ずつとして今日は50点かな」と多少なりとも手ごたえをのぞかせた。

「満足はしてますけど、納得はしてません。ただ、打たれ方も思ったよりボール球を振ってくれるんだなと。今まで感じていなかったことを感じられて今後の参考になりました。まだゲーム勘がないことも分かっていたけど、焦りはない。徐々にやっていけばいいと思います」と2008年北京五輪金メダルを知る生き証人は来年7月の本番までに調子を上げていけるという自信があるようだ。そんな大エースが完全復活してくれれば、ピッチャーの選手層は確実に厚くなる。今回のアメリカ戦で100球以上を6回にわたって投げた尾崎、若い勝俣、欠場した藤田らを対戦相手や状況によって使い分けられるようになれば、上野の負担も軽減されるし、宇津木監督の戦術の幅も広がる。そういう意味でも、上野が新たな一歩を踏み出したことは大きいと言っていいだろう。

アボット、オスターマン攻略という日本打撃陣に課された課題

 190センチの長身剛腕ピッチャー、モニカ・アボット(トヨタ自動車)と多彩な変化球を使い分けてくるキャット・オスターマンというアメリカ新旧エースの継投で2点に抑え込まれた打撃陣もさらなる奮起が必要だ。この日3打席ノーヒットに終わった3番打者でキャプテンの山田恵里(日立)は「アメリカに勝とうと思うなら先に点を取らないといけない。2008年北京五輪の決勝でも日本が先行して勝ち切ることができた。あの時のような戦い方をしなければいけない」と強調する。「得点も2点では足りない。最低3点を取らないといけない」と彼女は語っていて、打撃力向上の必要性を再認識した様子だ。

 山田自身も今季日本リーグでなかなかアボットを打てていないというが「どうすれば打てるかは自分なりに分かっている。それをやっていけば、必ず課題は克服できる」と自らに言い聞かせるように話していた。今回ヒットを打てなかった原田のどか(太陽誘電)や内藤実穂(ビックカメラ高崎)や渥美万奈(トヨタ自動車)らも同じような課題を抱えているはず。ヒットを打った4番打者の山本優(ビックカメラ高崎)や5番打者の山崎に依存した打線では、五輪本番でもいざという時に行き詰まりかねない。相手も対策を講じやすいだろう。どこからでも打てて点を取れる日本になることが、宿敵打破の絶対条件になりそうだ。

この敗戦をどう来年につなげるのか

 東京五輪前最後と言われたアメリカ戦からフィードバックできることは少なくない。この苦杯をどう来年につなげるのか。宇津木監督の戦術眼や采配力のブラッシュアップはもちろんのこと、選手個々の劇的な進化を楽しみに待ちたい。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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