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子どものゲーム依存・スマホ依存の回復支援の現場から 「時間を減らす」だけが選択肢ではない

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:アフロ)

ゲーム依存について社会的な関心を集める一方、当初はゲームにハマっている子どもを心配するあまり、子どものゲームを否定し、過剰な制限をかけることも多く見受けられました。しかし、専門家や当事者などが中心となってゲーム依存に関する啓発を積極的に行う中で、必ずしも「ゲームは悪」ではなく「ゲームとどう上手に付き合っていくかを親と子で共同して考えていく」という方向に考え方がシフトしつつあるように感じます。

使用を減らすことの難しさ

子どものゲーム依存やスマホ依存が心配される状況になると、親や周囲の大人は「どうしたら子どものゲームやスマホの使用を減らせるか」ということを真っ先に考えるでしょう。

でも一旦、子どもが置かれている状況を想像してみてほしいのです。使用時間や頻度のコントロールがすでに効かなくなっている状態で、親から「使用を減らせ」と言われても、実現は難しいのではないでしょうか。またゲームやスマホの使用が、ストレスや不安を一時的にでも緩和する手段になっている場合、それを減らすよう働きかけることは、想像を超える苦痛やさらなる不安・恐怖を伴わせてしまう場合もあります。

つまり、最初から使用を減らすことを回復の目標とするのは、そのハードルの高さゆえに挫折を生みやすく、場合によっては子ども自身の心を守る術を奪ってしまうことにもなりかねないのです。

今の生活の問題を減らすことを考える

こうした点から、ゲーム依存の回復支援では、使用時間や頻度を減らすことを必ずしも最初から目的としません。

相談支援の現場では、当事者である子どもが来談する際に親に説得されて渋々ながら一緒に来るというケースは少なくありません。「ゲームを減らすつもりはない」「むしろもっとやりたい」と訴えることもあります。

そのようなとき親や支援者がゲームの悪影響など正論を述べて「ゲームを減らすこと」を目標としようとすると、子どもとの信頼関係は築けないばかりか、支援者に対して不信を感じてしまい、支援は継続しなくなってしまうのです。

現時点では、ゲームをプレイすることやスマホで動画やSNSをみることをすぐには減らせないとしたら、まず子どもの生活がどうしたらより良いものになるのかを考えることが重要であると考えます。

つまり、ゲームやスマホの過剰使用により生じてしまった問題や困り事、例えば、家族との不和、学業不振、睡眠リズムの乱れなどを軽減あるいは改善することに焦点を当てることから始めます。

こうした考え方は依存症の分野で成果を上げている「ハームリダクション(Harm Reduction)」と呼ばれるアプローチを取り入れています。ハームリダクションは、薬物の使用やリスクのある行動をただちに停止することを直接の目標とせず、それらの使用や行動によってもたらされた「ハーム=害」を低減することを目的とするものです。

「減らす」だけではない選択肢

ゲームやスマホの過剰使用によって生じた悪影響や問題を減らすことを目指して、スモールステップで取り組むことで、子ども自身にとってより良い行動に変えていくことに成功しやすくなります。例えば、ゲームのやり過ぎで筋力が低下している場合には簡単なストレッチや散歩をしてみるなど、些細にみえることでもそこから新しい余暇の発見や現実の他者とのつながりが持てることもあります。

そして子どもの場合は特に家族や学校の先生といった子どもを取り巻く大人の協力が欠かせません。家族との関係が悪化している場合には、親子で肯定的なコミュニケーションが増えるようサポートすることで、親子での会話が増え、外出ができるようになったり、ゲーム以外の余暇活動を家族で試してみることもできるようになるケースもあります。このようなプロセスの結果として、ゲームの使用も減っていくのです。

また、ゲームやスマホの使用時間や使用頻度が減ることだけでなく、問題なく使用できるという状態にはさまざまな選択肢があります。

・スマホゲームだと高額課金をしてしまうけれど、家庭用ゲーム機でアクションゲームをするのは特に支障が出ない。

・知らない相手とシューティングゲームをプレイすると興奮して暴力的な言動が生じやすくなるが、学校の友達だと割と落ち着いて楽しくプレイできる。

・配信動画を見始めるとだらだらと止まらないが、例えばNetflixなどで好きな番組を選んで見れば数本で満足できる。

このようにそれぞれのケースによって、問題の出にくいインターネットサービスやコンテンツの種類が見つかることもあります。

最後に

当事者の子どもや家族は、過去に様々な試みをしてきた結果、どうせゲームやスマホを使うのを減らせない、やめられないと絶望的な気持ちになっていることが少なくありません。

しかし、それでも回復をあきらめる必要はありません。まず何から始めるか、どのような選択肢があるのか見えないときは、第三者の力を借りてみてほしいと思います。まず相談するという行動も回復に向けた第一歩であり、その後の人生にとっても大切な選択肢になっていきます。

〈参考文献〉

パット・デニング&ジーニー・リトル(著)松本俊彦(監修)高野 歩・古藤吾郎・新田慎一郎(監訳)(2022)ハームリダクション実践ガイドー薬物とアルコールのある暮らしー 金剛出版

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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