なぜレアルはヴィニシウスへの”投資”を成功させられたのか?「58億円」と国家クラブとの仁義なき戦い。
今季、リーガエスパニョーラで優勝に最も近いチームかもしれない。
レアル・マドリーが好調だ。リーガ第15節終了時点で未消化1試合ながら首位をキープ。チャンピオンズリーグでは、1試合を残したところでスペイン勢としては唯一グループ突破を決めている。
「ここまでのパフォーマンスに満足すべきだ。もちろん、まだ改善の余地がある。しかし、ここまでは十分うまくやれている。チームの状態は良く、クリスマス休暇までこの調子で行けるはずだ。私は(就任当初より)選手たちのことを理解できている。経験、コミットミント、謙虚さ。そういったものがあり、雰囲気は非常に良い」とはカルロ・アンチェロッティ監督の言葉だ。
「このクラブの未来は新たなスタジアムと共にある。それは明白だ。現在、素晴らしいメンバーが揃っているが、それはさらによくなるだろう。補強に関して名前を挙げて話してはいない。今のメンバーはクオリティがあり、バランスが取れている」
■大型補強の見送り
この夏、大型補強を敢行しなかったマドリーとしては、及第点以上のスタートだ。
そう、マドリーは今季開幕前の段階でキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)獲得を検討していた。2022年夏まで契約を残すエムバペの“売り時”はこの夏のマーケットだった。フロレンティーノ・ペレス会長はそこに狙いを定めていた。
だがエムバペは来なかった。1億6000万ユーロ(約208億円)前後の移籍金でオファーを出したとされるマドリーだが、これにパリ側が首を縦に振らなかった。
マドリーと言えば、“銀河系軍団”で名を馳せたクラブである。ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、マイケル・オーウェン、デイビッド・ベッカム…。2000年から2006年にかけて、第一次ペレス政権でマドリーは大物選手を次々に獲得した。そして、2001−02シーズンには、チャンピオンズリーグ制覇を達成した。
2009年にマドリーの会長に復帰したペレスは、再びスタープレーヤーの確保に動いた。クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、カカー。マンチェスター・ユナイテッド、リヨン、ミランから主力選手を引き抜いた。
ただ、第二次政権におけるペレスは大型補強一辺倒ではなくなっていた。若い選手に投資をするという、ボルシア・ドルトムントやアヤックスのような方針を採り入れ始めていた。カゼミーロ、フェデリコ・バルベルデ、マルティン・ウーデゴール、ロドリゴ・ゴエス、エドゥアルド・カマヴィンガ、そういった選手がマドリーに加入した。
なかでも、特筆すべきはヴィニシウス・ジュニオールの獲得だ。
ヴィニシウスは2018年夏に移籍金4500万ユーロ(約58億円)で、マドリーに移籍した。当時フラメンゴでプレーしていた17歳の選手に、4500万ユーロを支払うという行為を、疑問視する者もいた。
マドリーは賭けに打って出た。そして、現状、その賭けに勝ったと言っていいだろう。
ヴィニシウスはキレのあるドリブルでマドリーの左サイドを支配している。それだけではない。課題とされてきた決定力にも磨きをかけ、今季は公式戦20試合11得点8アシストと爆発している。ガレス・ベイル(移籍金1億ユーロ/約130億円/2013年夏加入)、エデン・アザール(移籍金1億ユーロ/2019年夏加入)の存在感を消し去るほどの活躍を、ヴィニシウスは見せている。
■新たな3トップの可能性
「契約は全うする必要がある。我々はベストプレーヤーを獲得するために尽力する。しかし、移籍金を支払うためには資金がなければいけない。2億ユーロのオファーを出しても、選手を売却しないクラブがある。それが現状だ」とはペレス会長の弁である。
「契約満了の時期が(獲得には)ベターだろう。国家クラブの動きは狂気的で、彼らは選手を売ることを考えていない。だが私は戦う。外資に頼るのではなく資金の管理が報われると信じているからだ。ヨーロッパのトップ30のクラブが、すべて国家クラブになる未来が訪れるかもしれない。だがそれは欧州連合の理念とは異なる。私は会長に就任してから戦い続けている」
エムバペはパリSGと契約延長を行っていない。つまり、来年1月以降、契約期間が半年を切り他クラブとの自由交渉が可能になる。
マドリーはエムバペを諦めていない。今夏、バイエルン・ミュンヘンから獲得したダビド・アラバのように、フリートランスファーで選手を獲得して即戦力にする考えだ。
第二次政権で銀河系軍団の一員として加わったベンゼマ、若手への投資の一環で加入したヴィニシウス、国家クラブとの戦いの末に移籍する可能性があるエムバペ。この3トップが実現した時、レアル・マドリーに新たな機軸が生まれることになる。