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なぜスペインはW杯予選で厳しい戦いが続いているのか?得点力と”ボール保持率”の矛盾。

森田泰史スポーツライター
L・エンリケ監督と指示を聞くスペインの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

ラ・ロハにとって、厳しい戦いが続いている。

ラ・ロハの愛称で親しまれるスペイン代表は、このインターナショナルウィークに行われたカタール・ワールドカップの欧州予選で3試合を2勝1敗と切り抜けた。ただ、黒星を喫したのが予選突破を争う直接的なライバルであるスウェーデン代表で、ラ・ロハには暗雲が立ち込めている。

スウェーデンに敗れたスペイン
スウェーデンに敗れたスペイン写真:ロイター/アフロ

「すべてのプロフェッショナルは結果に依存する。我々はジェットコースターに乗るような人生を送らなければいけない」と語るのはルイス・エンリケ監督だ。

「もはや我々に余裕はない。ギリシャ戦のバカげたPKで引き分けたところから、我々は厳しい状況に立たされている。すべての試合で勝たなければいけない」

■ポゼッションで試合を支配

先のEURO2020で、スペインはベスト4まで勝ち進んだ。

その大会でスペインの1試合平均ポゼッション率は66.8%だった。参加チームの中で1位の数字である。ドイツ(59.3%)、オランダ(54.8%)、イタリア(53.6%)、ポルトガル(53.5%)と60%を超えているのはスペインのみであった。

ただ、このチームの課題は決定力にある。ボールは保持できる。が、点が取れない。それがラ・ロハが抱える宿命的な問題だ。

ストライカータイプでいえば、L・エンリケ監督は今回アルバロ・モラタ、ジェラール・モレノ、アベル・ルイスを招集している。

彼らは決して得点力のないFWではない。しかし、所属クラブでは圧倒的なポゼッションを誇るチームでプレーしているわけではない。そのスタイルの違いが、代表戦で思うようにゴールが生まれない遠因になっている。

■期待される爆発

その中で期待されるのが、ウィングやインサイドハーフの選手の爆発だ。

その筆頭はフェラン・トーレスだろう。

今夏、ハリー・ケインやクリスティアーノ・ロナウドの獲得に動いていたマンチェスター ・ユナイテッドだが、最終的にはゴールゲッターを確保できなかった。そのような状況でジョゼップ・グアルディオラ監督はF・トーレスに関して「トップの位置で素晴らしい動きができる。彼のフリーランは(ジェイミー・)ヴァーディのようだ。まだ若いが、シティは彼を良い値段で獲得するために必要な努力をした。シティでCFの定位置を奪取するかもしれない」と述ている。

F・トーレスは元々、アスリート能力が高い選手だ。それに加え、戦術理解度を高め、コンバートで新たな動きを覚えれば、覚醒する可能性がある。

ボールをコントロールするジョレンテ
ボールをコントロールするジョレンテ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そして、インサイドハーフのカルロス・ソレールとマルコス・ジョレンテだ。

EURO2020では、コケとペドリ・ゴンサレスが不動のインサイドハーフだった。試合のコントロールという点では、申し分ない選手たちである。先述したポゼッション率(66.8%)やパス成功率(89.3%)の高さはペドリとコケの存在があったからこそ成り立った。

一方、ソレールは得点力がある。フル代表デビューから2試合で2得点。2列目から飛び出してゴールを陥れるというのを見事に体現した。

ジョレンテは、L・エンリケ監督の下でサイドバックとして起用されてきた。ただ、先のジョージア戦でインサイドハーフに起用されて2アシストを記録すると、試合後に「インサイドハーフが最も快適にプレーできるポジションだ。昨シーズン、僕のキャリアにおけるベストシーズンで、プレーしていたポジションだからね」と話した。彼の最適ポジションがインサイドハーフであるのは明らかだ。

歴史的に見ても、ダビド・シルバ(代表戦125試合35得点)、アンドレス・イニエスタ(131試合13得点)、シャビ・エルナンデス(133試合13得点)、セスク・ファブレガス(110試合15得点)、サンティ・カソルラ(81試合15得点)とスペインの中盤にはそれほど得点力がある選手がいなかった。

セルヒオ・カナーレス、ダニ・パレホ、サウール・ニゲス、イスコ、ファビアン・ルイス、ダニ・セバージョス、ダニ・オルモ…。L・エンリケ監督はこれまで多くの選手をインサイドハーフで試してきた。

しかしながら、ソレールやジョレンテの存在は大きい。彼らを生かせるかどうかが、今後のスペインの結果を左右するかもしれない。

EURO2020では準決勝でイタリアに敗れる
EURO2020では準決勝でイタリアに敗れる写真:Maurizio Borsari/アフロ

EURO2020でベスト4という戦績は、過去主要3大会で上位進出できずに躓いていたスペインとしては、及第点以上のものだった。

だが新型コロナウィルスの影響でEURO2020の開催が一年遅れ、気付けば次のワールドカップが迫っている。欧州予選は各グループの1位がストレートインで本大会の切符を獲得するが、2位ではプレーオフへと回ることになる。プレーオフも、準決勝、決勝と2度勝たなければカタールの舞台には辿り着けない。

スペインでさえ、安泰ではない。厳然たる現実が、目の前に立ちはだかっている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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