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なぜシティは補強に”551億円”以上を投じたのか?デ・ブライネ、ディアス、アケ...ペップの野心

森田泰史スポーツライター
シティの選手たちとグアルディオラ監督(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

今季、最も安定した強さを示しているチームのひとつが、マンチェスター・シティだろう。

ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるシティは、すでに2020-21シーズンのプレミアリーグの優勝を決めている。またチャンピオンズリーグでは、悲願のビッグイヤー獲得を目指して、決勝でチェルシーと対戦する

シティ対ドルトムントの一戦
シティ対ドルトムントの一戦写真:ロイター/アフロ

シティの「巨大プロジェクト」が始まったのは、2008年9月だ。アラブ首長国連邦の投資グループであるアブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)がシティの買収に成功した。

2008年夏には、レアル・マドリーから移籍金4200万ユーロでロビーニョを獲得。それが最初のビッグプレーヤー獲得だった。

■シティの資金力

「このチームは、直近の4年間で勝ち続けてきた。なぜかと言えば、トップクラスの選手がいるからだ。ミドルクラスの選手を擁して、タイトルをひとつ獲得することはできるだろう。だが、多くのタイトルを確保したければ、素晴らしい選手が必要だ。そのためには、お金が要る。それが私の考えだ」とはジョゼップ・グアルディオラ監督の言葉である。

「直近の30年から40年を顧みれば、シティはずっと欧州のトップにいたわけではない。だから我々が何をしているかというのは注目を浴びる。高い位置に登り詰めるためには、多くの投資を行わなければならない。マンチェスター・ユナイテッド、バルセロナ、レアル・マドリーといったクラブが勝ち続けていたのは、補強に資金を投じていたからだ」

「その点で、そういったエリートのクラブと我々に違いがあるとは思わない。この世界は、そういうものだ。それを受け入れないといけない。我々はベストの仕事をするだけだ」

筆者作成
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シティは近年、守備の補強に力を入れてきた。昨年夏には、ルベン・ディアス(移籍金固定額6800万ユーロ)とナタン・アケ(移籍金4530万ユーロ)を獲得。2016年から2020年にかけて守備の補強に4億2430万ユーロ(約551億円)を投じている。

ただ、シティのこの10年の補強においては、中盤の選手に投じられた資金は全体の26%である。ケヴィン・デ・ブライネ(移籍金7600万ユーロ)、ベルナルド・シウバ(移籍金5000万ユーロ)と高額を支払い獲得した選手もいるが、グアルディオラ監督のチームで意外な事実だ。

「グアルディオラの指導で、僕が輝くようになったかは分からない。でも、彼は僕を最適なポジションに置いてくれた。サイドでパスを受けて、多くボールに触れるようになった。本当に快適にプレーできていた。そして、グアルディオラはすべての面でトレーニングを行う監督だ。GKからFWまで、すべてだ。そうしてチームは強くなっていったんだ」と語るのは昨年夏までグアルディオラ監督の下でプレーしたダビド・シルバである。

■バルセロナ時代の失敗 

GKからFWまで、すべてだ。

D・シルバが述べたように、グアルディオラ監督はピッチに立つ11選手に気を配る。チャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグのパリ・サンジェルマン戦では、GKエデルソン・モラ―レスのロングパスにオレクサンドル・ジンチェンコが飛び出し、そこからリャド・マフレズの決勝点が生まれた。

後方からチームを構築する。それがグアルディオラ監督のアイデアだろう。しかし、そのプランは決して簡単ではない。現に、グアルディオラ監督でさえ、失敗した過去がある。

2009年夏、バルセロナを率いていたグアルディオラ監督はシャフタール・ドネツクのある選手に目を付けた。ドミトロ・チグリンスキー、当時22歳のウクライナ人センターバックだった。

バルセロナはチグリンスキーの獲得に際して移籍金2500万ユーロを支払った。あの頃、センターバックの選手、それも無名の選手に支払う額としては、破格の値段だった。「センターバックの選手として、チグリンスキーのようなプレーをする選手を見つけるのは難しい。我々のプレースタイルから、彼のようなプレーヤーが必要だ。ボールを保持した時に、何をすべきかを彼は分かっている」と当時グアルディオラ監督が話していた。

バルセロナとしては、当時、ダニ・アウベス(移籍金3500万ユーロ)に次ぐDF史上2番目の高額選手だった。しかしながら、公式戦14試合に出場したあと、チグリンスキーはわずか1年でバルセロナを去っている。

「(自分に付けられた)あの値段はプレッシャーになった。非常に高額だったからね。適応と学習のための時間を確保できなかった。即戦力として、期待されていたんだ。もっと低い移籍金で移籍していたら、話は違ったと思う。それほど注目されず、将来を見据えた補強だと言われていたかもしれない」

チグリンスキーがそう明かしている。高額な移籍金を支払うのは、大きなリスクだ。

そのリスクを、グアルディオラ監督は冒してきた。そして、適応と学習の時間を短縮するため、彼はプレーモデルを確立していった。その答えが、もうすぐ出ようとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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