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なぜレアルは”V字回復”できたのか?シティ、チェルシー、パリSG...大型補強とビッグイヤーの行方。

森田泰史スポーツライター
ボールをコントロールするクロース(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

今季のチャンピオンズリーグのベスト4に進出するチームが、決まった。

 レアル・マドリー、チェルシー、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマン。スペインとフランスから1チームずつ、そしてイングランドから2チームだ。

グアルディオラ監督とシティの選手たち
グアルディオラ監督とシティの選手たち写真:代表撮影/ロイター/アフロ

  バイエルン・ミュンヘンとリヴァプールの敗退は周囲を驚かせた。無論、パリSGとマドリーが過小評価されていたわけではない。だがバイエルンとリヴァプールは近年最も安定した成績を残してきたチームだ。

 バイエルンは2019-20シーズン、6冠を達成した。健全経営を行っており、欧州の模範となっているクラブだ。だが今季はハンス=ディーター・フリック監督とスポーツディレクターを務めるハサン・サリハミジッチの間に意見の相違が生じていた。

この夏のチアゴ・アルカンタラ放出に加え、バイエルンはダビド・アラバとジェローム・ボアテングの契約延長を行わなかった。

 リヴァプールはフィルヒル・ファン・ダイクの負傷離脱が響いた。現在、世界最高のセンターバックと称される選手だ。彼の不在が痛手となったのは間違いない。ファン・ダイクに限らず、ジョエル・マティップ、ジョー・ゴメスらが次々に負傷離脱を余儀なくされた。今冬の移籍市場でナット・フィリップスとオザン・カバクを獲得したものの、欧州のトップレベルでプレーするのは容易ではなかった。

ゴールを喜ぶチルウェル
ゴールを喜ぶチルウェル写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 残った4チーム、変化を好転させたのはチェルシーだろう。今季途中にフランク・ランパード前監督を解任。クラブの象徴的存在を切り、トーマス・トゥヘル監督を招聘した。

 チェルシーは今夏、最大級の大型補強を敢行したクラブのひとつだ。

ティモ・ヴェルナー、カイ・ハフェルツ、ハキミ・ジャシュ、ベン・チルウェル、エドゥアルド・メンディらの獲得に2億4700万ユーロ(約316億円)を費やしている。

 トゥヘルの就任で【3-4-2-1】のシステムが採用され、選手の適性と配置に拘った采配で堅固さが取り戻された。

優勝を目指すネイマール(右)
優勝を目指すネイマール(右)写真:ロイター/アフロ

 パリSGとシティはクラブ史上初のチャンピオンズリーグ制覇を目指す。

 パリSGは昨季初めて決勝進出を果たした。しかしながらファイナルでバイエルンに敗れ、涙を呑んだ。2011年にカタール・スポーツ・インベストメント (QSI)がクラブを買収してから、毎年のようにビッグプレーヤーを獲得してきた。現在、攻撃を牽引するのはネイマールとキリアン・エンバペの”4億ユーロ(約514億円)”コンビである。この2人のアタッカーのポテンシャルは先のバイエルン戦で証明されたばかりだ。

 シティは2016年夏にジョゼップ・グアルディオラ監督が就任。それから5シーズン目で、初めてチャンピオンズリーグのベスト4に勝ち進んだ。「この大会は非常に美しい。しかし一方で、とてもアンフェアな大会だ」とはグアルディオラ監督の言葉だ。「国内のリーグ戦とカップ戦のために11カ月働き、チャンピオンズリーグで準々決勝敗退に終われば、失敗の烙印を押される。今日の試合(ドルトムントとのセカンドレグ)で我々はハンドによりPKを獲得した。2018-19シーズンには、準々決勝でトッテナムの(フェルナンド・)ジョレンテのハンドがあったが、笛を吹いてもらえなかった。そういうシチュエーションで試合が決まってしまう大会なんだ」

■マドリーのV字回復

 一方、スペイン勢唯一の生き残りであるマドリーは”V字回復”を見せて欧州の4強に名を連ねている。

 今年1月に行われたスペイン・スーパーカップでアスレティック・ビルバオに敗れ、コパ・デル・レイでは2部B(実質3部)のアルコヤーノに屈した。リーガエスパニョーラ第21節でレバンテ相手に惜敗した際には、「3タイトルを2週間で投げ出した」と批判された。事実、そう思ったマドリディスタは少なくなかったはずだ。

だが、そこからジネディーヌ・ジダン監督のチームは急上昇する。チャンピオンズリーグでアタランタとリヴァプールを下し、リーガにおいては先のクラシコでバルセロナを破り、レバンテ戦以降の9試合を7勝2分けとして首位アトレティコ・マドリーに勝ち点1差まで肉薄している。

 その要因は守備力の向上にある。マドリーは直近14試合で8失点。1試合平均0.57失点という数字を残している。セルヒオ・ラモス、ラファエル・ヴァラン、ダニ・カルバハル、ルーカス・バスケスらが離脱していく中で、マドリーは守備を改善した。その意味は大きい。

 「我々はシーズンの最後まで正面を向いて戦う。それに値するはずだ。私は決して諦めない。選手たちも同じだよ。『あなたをクビにしたい』と言いたいなら、私と顔を突き合わせて言ってくれ。コソコソ隠れたりしないでね」

 「なぜ私が怒っているのか?その理由を質問するなんて、まるでジョークだ。悪い試合をするたびに、(解任に関する)質問を受ける。メディアのこういった扱いが正当だとは思えない。昨シーズン、我々はリーガで優勝した。そこをリスペクトして欲しい。もし、目標を達成できなかったら、その時の責任は第一に私にある」

これはレバンテ戦後のジダン監督の言葉だ。

この夏はコロナ禍でマドリーでさえレンタルバックを除けば補強選手はゼロだった。

シティ、チェルシー、パリSG、マドリー。4強は出揃った。舞台は整った。彼らはビッグイヤー獲得への目論見を、それぞれに抱えている。

指示を出すジダン監督
指示を出すジダン監督写真:ロイター/アフロ

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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