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ジダンとシメオネのどちらが「タイトルレース」を制するのか?試される指揮官の胆力とマネジメント力。

森田泰史スポーツライター
シメオネ監督とジダン監督(写真:ロイター/アフロ)

この試合の結果にリーガエスパニョーラの優勝の行方は大きく左右されるかもしれない。

それが大方の見方だった。リーガ第26節で、アトレティコ・マドリーとレアル・マドリーが激突。首位アトレティコと2位マドリーの勝ち点差は5ポイントだった。アトレティコの消化試合数が1試合少ない状況だが、マドリーとしてはここで勝てば首位を走るチームにプレッシャーを掛けられた。

そのマドリード・ダービーは引き分けに終わっている。

■中盤の攻防

今回のダービーにおけるポイントのひとつが、中盤の攻防だった。

トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カゼミーロ。ジネディーヌ・ジダン監督が「彼らはレアル・マドリーの歴史に名を刻むだろう。彼らの獲得したタイトルとキャリアに目を向けてほしい。その意味するところは大きい」と語る盤石の中盤だ。

なかでも、クロースは抜群の存在感を放つ。今季、ダービー前の段階で31試合出場(出場時間2381分)2得点7アシスト。パス本数2391本、ボール奪取数145回、デュエル勝数113回、そしてパス成功率93%と驚異の数字を誇っている。

そのクロースとマッチアップしたのがコケだ。30試合(出場時間2433分)1得点2アシストを記録していたコケは、今季よりポジショナルなMFとして進化を遂げた。パス本数1835本、パス成功率89%、ボール奪取数176回、デュエル勝数133回と数字の面では引けを取らない。

マドリード・ダービーの一戦
マドリード・ダービーの一戦写真:ロイター/アフロ

アトレティコとしては、重要だったのは如何にしてコケの周囲を固めるかだった。シーズン前半戦のダービーでは、コケのサポート役はエクトル・エレーラのみで、マドリーに中盤を制圧された。

今季、【3-1-4-2】をメインシステムとして使用してきたディエゴ・シメオネ監督だが、マドリー戦前に【4-4-2】の採用を検討していた。「2つのシステムで1週間のトレーニングをしてきた。マドリーとの試合でどういったプランを練るかは当日に決める」とシメオネ監督は前日会見で述べた。

■アトレティコの両翼

蓋を開けてみれば、アトレティコは【4−4−2】だった。シメオネ監督がシステムを決める上で考慮していたのがヤニック・フェレイラ・カラスコとキリアン・トリッピアーのコンディションだ。

カラスコは2018年2月にアトレティコから中国の大連に移籍した。2020年1月にレンタルで復帰したが、その時にはアトレティコがエディンソン・カバーニを狙っていながら獲得に失敗してターゲットをカラスコに切り替えたという経緯がある。それでもシメオネ監督の信頼を再び勝ち取り、2020年夏に2700万ユーロ(約34億円)の買い取りオプションが行使されカラスコの完全移籍が決まった。

アトレティコは2015年夏のアルダ・トゥランのバルセロナへの移籍以降、サイドアタッカーを探し続けてきた。ニコ・ガイタン、ジェルソン・マルティネス、ビトロ、ト・レマル...。サイド強化のために1億7000万ユーロ(約217億円)を投じた。

今季、【4-4-2】から【3-1-4-2】にシステムチェンジしたことで、カラスコのウィングバックとしてのポテンシャルが引き出された。思えば、ベルギー代表でロベルト・マルティネス監督の下で3バックを経験していた選手だ。ともあれ、カラスコの急成長はシメオネ監督にとって嬉しい誤算だった。

アトレティコのカラスコ
アトレティコのカラスコ写真:ロイター/アフロ

そして、トリッピアーである。

トリッピアーは昨年12月にスポーツ賭博に関与したとされFA(イングランドフットボール協会)から10週間の活動停止処分を受けた。

アトレティコはトリッピアー不在の間、リーガの10試合を7勝2分け1敗としていた。ただ、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のファーストレグでチェルシー敗れており、ビッグマッチを落としている。

シメオネ監督はカラスコ、シメ・ヴルサリコ、マルコス・ジョレンテ、アンヘル・コレアなど複数選手を右ウィングバックで試した。だが指揮官を納得させられる選手はいなかった。「試合に出られないプロの選手を想像してみてほしい。トリッピアーが多くの貢献をしてくれるのは明らかだ。クオリティを備え、選手としてのヒエラルキーを示せる。攻撃時に深みを与えてくれ、彼がいることでコンビネーションプレーが可能になる」とはシメオネ監督のトリッピアー評である。

コケ、カラスコ、トリッピアーを中心にシステムを変えながらマドリーを叩く。これがシメオネ監督の算段だった。そして、それは機能していたように見えた。

■マドリーの課題

一方、マドリーには課題があった。

ジダン監督が本格的に復帰したファーストシーズンでマドリーはリーガ優勝を果たした。しかしながら根本的な問題は解決していなかった。

2018年夏にユヴェントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドの残した穴は大きかった。

「クリスティアーノは代替不可能な選手だ。そこが問題なんだ。彼のような選手は、ほかに存在しない。補強は可能だ。だがクリスティアーノと同じことを求めるというのは、できない。彼はレアル・マドリーのユニフォームを身に着けて素晴らしい功績を残した。我々は彼と一緒に幸せな時間を過ごした。ただ、人生はそういうものだ」とはジダン監督の言葉だ。

ジダン監督とベンゼマ
ジダン監督とベンゼマ写真:ロイター/アフロ

ダービー前の段階で、マドリーは今季公式戦34試合57得点(1試合平均1.68得点)を記録。2019-20シーズン(51試合99得点/1試合平均1.94得点)、201819シーズン(57試合108得点/1試合平均1.89得点)と近年は1試合平均2得点を割っている。

C・ロナウド在籍時と比較すれば、違いは明らかだ。2017-18シーズン(62試合138得点/1試合平均2.39得点)、2016-17シーズン(60試合173得点/1試合平均2.88得点)、2015-16シーズン(52試合141得点/1試合平均2.71得点)であった。

■得点力の不足

今季のマドリーのゴールスコアラーはカリム・ベンゼマ(17得点)とカゼミーロ(6得点)だ。2番目がボランチの選手であるという事実が厳しい現実を物語る。

バイエルン・ミュンヘンではロベルト・レヴァンドフスキ(34得点)とトーマス・ミュラー(13得点)、チェルシーではタミー・エイブラハム(12得点)とティモ・ヴェルナー(10得点)、パリ・サンジェルマンではキリアン・ムバッペ(23得点)とモイーズ・キーン(15得点)、マンチェスター・シティではラヒーム・スターリング(13得点)とイルカイ・ギュンドアン(13得点)といった選手たちが得点を量産している。

今季のチャンピオンズリーグにおいてベスト16に進出しているチームで、マドリーに得点力で劣るのは2チームのみだ。

無観客のダービーに
無観客のダービーに写真:ロイター/アフロ

バルセロナがリーガの覇権を握っていた過去10年間で、アトレティコが優勝の可能性を残してシーズン後半戦のダービーマッチを迎えたのは一度だけだ。それは2013-14シーズンで、試合は2-2の引き分けに終わっている。なお、そのシーズン、アトレティコは戴冠に成功している。

一方、マドリーは2016-17シーズンと2019-20シーズンに似た状況でダービーマッチを迎えた。ただ、その際は勝ち点差が13ポイントと10ポイントあり、両者の差は大きく開いていた。

今回のマドリードダービー、結果はドローだった。だがリーガはまだ終わっていない。最後まで、ドラマは待っている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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