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シメオネ・アトレティコの第二章が幕開け。グリーズマン、ロドリと主力を引き抜かれて。

森田泰史スポーツライター
選手に指示を送るシメオネ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

アトレティコ・マドリーに、大きな変化が訪れようとしている。

ディエゴ・ゴディン、フアンフラン・トーレス、ルカ・エルナンデス、アントワーヌ・グリーズマン...。毎年のように主力を引き抜かれてきたアトレティコだが、この夏の選手の入れ替えは例年以上だ。

加えて、契約解除金7000万ユーロ(約84億円)が支払われ、ロドリゴ・エルナンデスの退団が決定している。「ロドリ」の愛称で親しまれる希代のボランチを、マンチェスター・シティが射止めた。

34歳を迎えたフェルナンジーニョの後釜を探していたジョゼップ・グアルディオラ監督は、22歳のロドリがその適役だと考えた。グアルディオラ監督は、2013年夏にバルセロナからチアゴ・アルカンタラを、2014年夏にレアル・マドリーからシャビ・アロンソをバイエルン・ミュンヘンに引き入れて自らの指揮下に置いた過去がある。中盤の構成に強い拘りがある指揮官に、今回、ロドリが選ばれた格好だ。

■砕かれた夢

アトレティコにとって、ルカとロドリの退団は痛手だったはずだ。彼らはアトレティコのカンテラーノだからである。

アトレティコは近年、30歳以上の選手に対して単年契約で契約延長を行うというクラブ方針を掲げてきた。一方で、カンテラーノの重宝と若手選手の育成に注力してきた。コケ、トーマス・パーティー、サウール・ニゲスが主力になり、フランシスコ・ハビエル・モンテロ、ボルハ・ガルセス、ビクトル・モジェホらがトップチームの扉を叩き始めている。

一方で、グリーズマン(年俸2000万ユーロ/約24億円)、ヤン・オブラク(年俸1000万ユーロ/約12億円)、ディエゴ・シメオネ監督(年俸2400万ユーロ/約29億円)というプロジェクトの「核」になる者を繋ぎ止めるため、アトレティコはそれなりの代償を支払ってきた。その影響で組織のパワーバランスは崩れかけていた。

本拠地ワンダ・メトロポリターノでチャンピオンズリーグ制覇を成し遂げるという夢は儚くも破れた。ある意味で既定路線だったグリーズマンのバルセロナ移籍は現実になろうとしている。

■若き才能

そのグリーズマンの後釜として、アトレティコが目を付けたのがジョアン・フェリックスだ。

19歳のジョアン・フェリックスは、2018-19シーズンにベンフィカで公式戦20得点11アシストを記録した。ポルトガルA代表に招集され、この夏の注目株の一人となった。

ポルトガルの若き才能を引き入れるため、アトレティコは彼の契約解除金1億2000万ユーロ(約145億円)を支払う覚悟だった。だが、ベンフィカはジョアン・フェリックスの放出に難色を示していた。契約解除金を支払えば移籍は成立するが、それではアトレティコとベンフィカのクラブ間の関係が悪化する。最終的には、アトレティコが折れる形で、その額に上乗せして1億2600万ユーロ(約152億円)を移籍金として支払うことでクラブ間合意に達した。

昨年夏、アトレティコはトマ・レマル獲得に移籍金7500万ユーロを支払った。それを上回り、ジョアン・フェリックスの移籍金はクラブレコードになった。それだけではない。ジョアン・フェリックスにはグリーズマンが着けていた「7番」が与えられ、年俸700万ユーロ(約8億円)の7年契約という、破格の待遇で19歳のアタッカーを迎え入れている。

■M・ジョレンテの加入

そして、ロドリの代役には、マルコス・ジョレンテが選ばれた。

ジョレンテの叔父であるヘント、父親であるパコ・ジョレンテ、祖父であるラモン・グロッソは、いずれもアトレティコでプレーした。ヘントは1985年から1987年の間にアトレティコに在籍。グロッソは1963-64シーズンにレンタルでアトレティコに加入した。アトレティコとの縁が深い家系だ。

ジョレンテがブレイクしたのは、アラベスにレンタル加入した2016-17シーズンだ。期待のカンテラーノに武者修行をさせるという、レアル・マドリーの意図が見て取れた。マウリシオ・ペジェグリーノ監督(現レガネス)の信頼を得たジョレンテは47試合中38試合に出場。そのシーズン、ジョレンテのボール奪取数は335回で、リーガで9番目のボール奪取数を記録している。

アラベスでの活躍でマドリー復帰が決まった。だがジネディーヌ・ジダン監督の下では、チャンスがなかった。出場可能だった5580分のうち、プレーしたのは1093分。出場率は僅か19.5%だった。

フレン・ロペテギ政権においては、ジョレンテは1試合の出場にとどまった。サンティアゴ・ソラーリの昇任で全体の57%のプレータイムを確保するところまで巻き返したが、ジダン監督の再就任でまたもベンチに追いやられた。その中でジョレンテはアトレティコ移籍を決断。アトレティコは移籍金4000万ユーロ(約48億円)を支払うことになる。

また、アトレティコはエクトル・エレーラをフリートランスファーで獲得した。M・ジョレンテと使い分けながら、ロドリの穴を埋める算段だ。

2015-16シーズンのチャンピオンズリーグ決勝でスタメンに名を連ねたゴディン、フアンフラン、グリーズマンがチームを去る。中核を担ってきた選手たちの移籍で、組織の再構築を強いられるのは間違いない。シメオネ・アトレティコの第二章が幕を開けようとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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