【ブラジル代表】ネイマール。サッカー王国に現れた新たな希望。
ピッチ内外で注目を集める。それは当然ながら、期待の裏返しだ。
融通無碍に変わるタッチ、滑らかな動き、変幻自在なドリブル。ネイマールのフットボールは歓喜に満ち、実に洒落ている。だからこそ、多くの人を魅了するのかもしれない。
■ネイマールをめぐる狂想曲
ネイマールをめぐっては、ある2クラブが激しい争奪戦を繰り広げてきた。レアル・マドリーとバルセロナ、言わずと知れたスペインの「2強」である。
元々、ネイマール獲得に近かったのはマドリーだ。ネイマールは14歳でマドリーのカンテラ入団寸前に迫っていた。2011年夏には、メディカルチェックまでパスして、プレ合意に至っていたという。だがサントスは簡単にネイマールを手放さなかった。結局マドリーへの移籍は破談に終わり、2011年11月にネイマールはサントスと契約延長。2014年ブラジル・ワールドカップまで、サントスに残留するという取り決めだった。
しかしながら2011年12月に契機が訪れる。クラブ・ワールドカップに参加したサントスは、決勝でバルセロナと対戦して、0-4と完敗した。力の差をまざまざと見せ付けられたネイマールは、試合後にジョゼップ・グアルディオラ監督に「バルサに行きたい」と漏らした。
その1年半後に、バルセロナがついにネイマール獲得に動く。獲得オペレーションに費やされた額は、1億3000万ユーロ(約169億円)に上るといわれている。代償は高くつき、当時会長を務めていたサンドロ・ロセイが裁判にかけられ、バルセロナは思わぬ騒動に巻き込まれた。
話はここで終わらない。昨年夏、パリ・サンジェルマンがネイマールに触手を伸ばした。契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)という、前代未聞の金額が支払われて移籍が成立。「裏切り者」「金の亡者」というレッテルを貼られながらネイマールはバルセロナを後にしたのだ。
■王の継承者
ブラジルで、いや、フットボール界で、「王様」といえばペレのことである。
ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ...。ペレと比較された選手は、これまでもいた。だがしかし、ネイマールこそが王の正当なる継承者なのだと、人々は謳う。
2003年にサントスの下部組織に入団したネイマールは2009年3月7日にトップデビューを飾った。2010年には、サントスでリベルタドーレスカップを制覇した。サントスにとって、ペレが在籍していた1962年以来のリベルタドーレス杯優勝だった。ネイマールが「ペレの再来」と言われ始めたのは、その頃だろうか。
前回のワールドカップでは、好調を維持していたが、準々決勝のコロンビア戦で激しいタックルを喰らい、大会を棒に振った。脊柱の骨折。選手生命を左右しかねない重傷だった。
そして、ネイマールを欠いたブラジルは準決勝でドイツに1-7と大敗した。ショッキングな結果を突きつけられ、優勝の夢が絶たれた。マラカナンの悲劇を超える、ミネイロンの惨劇。国民は予期していなかった敗退に涙を流した。
ネイマールがいれば、結果は変わっていたかもしれない。少なくとも、あれほど屈辱的な敗戦とはならなかったはずだ。
■新たな試練
再出発を図ったブラジルは、2016年のリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した。PK戦までもつれ込んだ決勝のドイツ戦、最後のキッカーを務めて成功させたのはネイマールだった。
ブラジルにとって史上初の金メダルを獲得したことで、ネイマールへの信頼度はまた高まった。だがワールドカップには魔物が存在するのか、今大会を前に再びネイマールを負傷が襲う。
2月25日に行われたリーグアン第27節マルセイユ戦で、右足の第5中足骨にひびが入り、右足首に捻挫を負った。「状態は80%程度だ」。先日の国際親善試合クロアチア戦で実戦復帰して得点を記録したものの、ネイマールは試合後に不安を吐露している。
負傷を乗り越えて、ワールドカップのトロフィーを獲得するーー。その時、大衆は真の意味でネイマールを認めるに違いない。ブラジルのエースナンバーを背負う男が、世界の頂を目指して挑む。