Yahoo!ニュース

レアル・マドリーの新時代が到来。幻影を追ったマドリディスモと築かれた歴史。

森田泰史スポーツライター
2得点を挙げたC・ロナウドはレアル・マドリーの伝説になるはずだ(写真:ロイター/アフロ)

カーディフのピッチに、笑顔がはじけた。ユニフォームをセカンドの紫からファーストの白に変える。駆け付けた300以上のメディアの注目を一身に浴びながら、レアル・マドリーの選手たちは歓喜に浸った。

現地時間3日にチャンピオンズリーグ(CL)決勝が行われ、レアル・マドリーが4-1でユヴェントスを下して優勝を飾った。前人未到の連覇。CLの歴史に新たな歴史が刻まれた瞬間だ。

■序盤はユヴェントスのペース

序盤、試合を優勢に進めていたのはユヴェントスだった。6分には、ピアニッチのミドルシュートがGKケイロール・ナバスの好守を強いる。守備面ではバルザーリとキエッリーニがマークを受け渡しながら、クリスティアーノ・ロナウドとベンゼマをフリーにさせない。ボヌッチがカバーに入り、最も危険なバイタルエリア付近では常に2対3の状況をつくった。

D・アウベスは高い位置を取ってマルセロの上がりを抑え、攻撃に転じればディバラが果敢にドリブルを仕掛けてカセミロやセルヒオ・ラモスにファールをもらい、イエローカードを誘発しようとした。20分のC・ロナウドの先制点は誤算だったが、27分にマンジュキッチのスーパーゴールで帳消しにする。

スペイン王者はふつふつとフラストレーションを溜め込んでいた。

■勝敗を分けたセカンドボールと圧倒的な攻撃力

ユヴェントスを率いるアッレグリ監督は、前日会見で「イスコはチームの規律を乱すことがある」と語っていた。中盤で自由に動き回る背番号22を、マドリーのウィークポイントだと見ていたのである。

だが実際に相手トップ下の弱点を突いたのはジダン監督の方だった。ディバラがミドルゾーンでポジションを失っているところを鋭く突いた。モドリッチ、クロース、カセミロが悉くセカンドボールを拾う。加えてベンゼマがサイドに落ちて、マルセロの上がりを引き出した。マドリーの攻撃に厚みが出始める。

61分にカセミロが挙げた勝ち越し点は、セカンドボールを直接叩いたものだった。64分のC・ロナウドの得点は、相手の中途半端なクリアをモドリッチが拾い、カルバハルとのパス交換から送ったクロスによって生まれた。

今季のCLで1試合平均失点数0,25としていたユヴェントスを、マドリーは蹂躙した。12試合で3失点しか喫していなかったチームから、1試合で4ゴールを奪って見せた。それも、試合の大半の時間を看板3トップ“BBC”を欠いてプレーしていて、である。ベンチスタートのベイルが登場したのは、77分だった。

マドリーは決勝トーナメントに入り、ナポリ戦(2試合で6得点)、バイエルン・ミュンヘン戦(2試合で6得点)、アトレティコ・マドリー戦(2試合で4得点)、ユヴェントス戦(1試合で4得点)と得点を量産した。

今季公式戦60試合で、ノーゴールに終わった試合は存在しない。昨季から数えれば、65試合連続得点記録が更新され続けている。

■新たな時代の到来

「決勝は良いプレーを披露する場所ではなく、勝ち取られるべきものだ」。これがスペインの通説だ。

マドリーは15度目の決勝で12度目の優勝に輝いた。この36年間、一度も決勝で敗れていない。ユヴェントスが9度進出した決勝で7度準優勝に終わっていることを顧みれば、その偉業はより色濃く映し出される。だがマドリーも1966年から1998年まで32年間欧州の頂点から遠ざかっていた。呪縛を解き放った98年のファイナル、その相手がユヴェントスだったのは何かの偶然だろうか。

過去を見れば、1956年からチャンピオンズカップ(CLの前身)5連覇を達成した。故アルフレッド・ディステファノ氏をエースとした当時のチームを、その幻影を、マドリディスモはついに断ち切れるかもしれない。史上初CL連覇には、それだけの価値がある。

新たな時代の到来。その中心にいるのは、C・ロナウドだ。ポルトガル代表FWは今大会の得点数を12得点に伸ばし、自身6度目となる大会得点王を獲得した。史上最多のCL得点王獲得回数を記録した彼は、5度目のバロンドールを手中に収めることが確実視されている。フットボールの寵児であるメッシに並び、まさに時代を象徴する選手として歴史を築いている。

ジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)に率いられたバルセロナが2008年からの4年間で2度CLを制覇した時期に、この新たな時代を予感した者は少なかっただろう。ミラン(7回)、バルセロナ(5回)、バイエルン(5回)、リヴァプール(5回)とヨーロッパの名門クラブを凌駕するデュオデシモ(12回目の優勝)で、レアル・マドリーは欧州の覇権を白く染め上げたのである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事