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台風1号「確率0.7%」極めて稀な海域で発生 台風発生場所に異変か

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
台風1号の衛星画像(2022年4月12日) 出典ウェザーマップ

 4月8日09時、カロリン諸島近海で台風1号が発生しました。

 台風は4月ごろから発生数が増えてくるので、この時期の発生はほぼ例年並みと言っていいでしょう。問題は、その発生場所です。

極めて低緯度で発生

 カロリン諸島というのはグアム島の南、約600キロにあり、台風の発生海域としては、あまりなじみのない地名です。それもそのはず、今回の台風は北緯4.5度という極めて低い緯度で発生したのです。

台風1号発生時の衛星画像 出典ウェザーマップ
台風1号発生時の衛星画像 出典ウェザーマップ

 台風は地球の自転の影響で、渦を巻く力を得ます。したがってその影響を受けない赤道付近では、渦を巻く力(コリオリの力)が弱いので、赤道(北緯0度)から北緯5度くらいの範囲は、台風が発生しにくいのです。

 今回の台風は北緯4.5度(赤道の北・約450キロ)で発生しましたから、渦を巻く力の小さい場所で発生した異例の台風だということがわかります。

わずか0.7%

 では、どれくらい異例なのでしょう。1951年から2021年までに発生したすべての台風は合計で1856個。それに対して北緯5度未満で発生したものは13個しかありません(今回の台風1号で14個目)。わずか0.7%です。

 台風が発生するためには海水温が高いことなども必要ですから、諸々の条件を考えると赤道付近で台風が発生する年には、何か特別な理由があるのではと考えられます。

 台風の発生数は1年ごとにカウントされますが、実際は海水温の暖まり方にズレがあるので、台風シーズンは年をまたぐこともあります。

 そこで、低緯度(北緯0度~5度未満)で発生した台風を10年ごとに区切って数えてみました。

統計開始1951年以降10年ごとの低緯度発生台風の推移 スタッフ作成
統計開始1951年以降10年ごとの低緯度発生台風の推移 スタッフ作成

 するとなんと、近年では台風が発生しにくい海域でも、台風が発生しやすくなっているのではないかと、疑えるのです。

 1950年代にも多い時代があったので、これが周期なのか単なる偶然なのかは不明ですが、台風の変化は、気候変動の可能性も否定できません。

統計開始1951年以降、北緯5度未満で発生した台風の一覧 スタッフ作成
統計開始1951年以降、北緯5度未満で発生した台風の一覧 スタッフ作成

 続いて過去に低緯度で台風が発生した年には、どんなことがあったのか調べてみました。特筆すべきは2019年でしょう。この年の台風2号は北緯4.5度で発生し、今回の台風1号とほぼ同じ緯度でした。

 そしてその2019年秋に、まだ記憶に新しい東日本台風と、千葉で大停電を引き起こした房総半島台風がやってきたのです。

台風1号の影響は

4月13日(水)午前6時発表 進路予想図 出典ウェザーマップ
4月13日(水)午前6時発表 進路予想図 出典ウェザーマップ

 当面、台風1号は発達しながら北上を続け、15日(金)~16日(土)にかけて、強い勢力で小笠原諸島へ接近し、暴風や猛烈なしけとなる恐れがあります。4月に小笠原や伊豆諸島に接近する台風は平年にすると0.1個。前回は、2005年の台風3号でした。頻繁に通るイメージのある小笠原でも、4月の台風の接近は17年ぶりのことなのです。

 今年はまだ台風シーズンが始まったばかりですが、大きな目で見ると異例な海域で台風が発生したことは、太平洋全体の気圧配置や気候変動の何らかのシグナルかもしれません。現段階ではまだ確定的なことは言えませんが、これから発生する台風は例年と違う動き方をするのか、見届ける必要があります。

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参考

デジタル台風

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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