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雨が降り続いている場合、いつ逃げるのか 熱海豪雨から考える避難のタイミングと"土砂崩れ3倍の法則"

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
降り始めから8月13日(金)夕方までの総雨量 (出典:ウェザーマップ)

 広島県(広島市)では一時、特別警報が発表されるなど、九州や西日本の各地で西日本豪雨を思い起こさせるような豪雨となっています。

 気象庁は13日(金)午前10時、緊急会見を開き「広島県ではこれまでに経験したことのないような大雨となっている。土砂災害警戒区域や浸水想定区域などでは何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高く、また今後週末にかけては、西日本に限らず、北陸、岐阜長野まで大雨が波及し、東日本から西日本でところによって大雨特別警報を発表する可能性がある」と最大級の警戒を呼びかけました。

 そんななか、「ずっと雨が降り続いている場合、どのタイミングで避難をすればよいのだろうか?」という御質問を受けました。

 もちろん、ケースバイケースで単純な答えがあるわけではありませんが、ただひとつはっきりしているのは、「最後は自分で決めるしかない」ということです。

 少し話を広げれば、日本の防災は行政主導で進められてきたため、「逃げる」という本来なら本能に根ざした行動も、行政からの避難勧告を待つなどして、逆に逃げ遅れてしまうことがあるのです。

 しかし自分の身に迫る危険は、誰よりも自分が一番良く分かっているわけですから、いつもと違うなと思ったら、ためらわずすぐに自分の判断で逃げるべきなのです。気象庁や自治体の情報を待つ必要はありません。

 そのうえでいくつかの判断材料を示せば、まず自分がどこにいるのかを確認することがもっとも重要なことです。とくに土砂災害の起こりやすい地域に住んでいらっしゃる方は、無駄足になったとしても、ふだんから避難行動を心掛ける必要があります。

熱海豪雨から検証する避難行動のタイミング

6月30日~7月3日15時までの網代における時間雨量と積算雨量の推移 (スタッフ作成)
6月30日~7月3日15時までの網代における時間雨量と積算雨量の推移 (スタッフ作成)

 災害は相対的なものです。誤解を恐れずに言えば、大雨特別警報が出ていたとしても、自分が高台の強固な建物の中にいるのであれば、ほとんど影響は無いでしょう。ところが、ハザードマップなどで土砂災害の危険性があるところに住んでいるのなら、雨の降り方には気をつけていなければなりません。

 この場合、一般論でいえば24時間雨量が200ミリを超えると、災害リスクが急に高まってきます。

 では具体的に、今年7月3日午前10時半ごろに起きた「熱海の土石流」で検証してみましょう。(上図参照)

 熱海に近い網代の雨量で見てみると、網代の72時間雨量は400ミリを越えましたが、積算雨量が200ミリを超えたのは、7月2日午前のことです。その後、いったん小康状態になったものの、日付が変わると同時に急激に雨の量が増えていって大災害となってしまいました。

 今回は「盛り土」という人災の側面もありますが、7月2日朝の段階で大雨が続くとの予想でしたから、そのあと大災害が起こるまでの24時間、どのタイミングでも避難をされたらと悔やまれます。

 改めて、最初の質問にもどりますが、「避難行動のタイミング」は、自分のいまいる場所(地形)や予報などの相対的な状況によって決まります。身近な信頼できる人と相談し、最後は自分で判断するということが大切でしょう。

西日本豪雨に匹敵する「長時間豪雨型」

8月13日(金)午後0時の気圧配置と雲の様子
8月13日(金)午後0時の気圧配置と雲の様子

 8月11日頃から始まった今回の豪雨は、この72時間(3日間)で500ミリを超える雨量になっています。今後も同じような場所に前線が停滞し、少なくとも3日間くらいは大雨が続く見込みです。

 今回の大雨の特徴は、3年前(2018年)の西日本豪雨のように、広い範囲で長い時間にわたって大雨が予想されることです。

 雨による災害は、短い時間に激しく降る「一発豪雨型」と、長い時間、場合によっては一週間以上もダラダラと続く「長時間豪雨型」とがあります。大きな災害は、たいていこの長時間豪雨型で、今年の7月3日に起きた熱海の土石流もダラダラと降り続く雨によって、引き起こされました。

土砂崩れ3倍の法則

 過去の土砂災害を検証した資料によると、土砂崩れは25度を超えるような斜面で発生することが多く、標高の2倍から3倍、場合によっては5倍くらいの長さまで到達するとされています。

 熱海の土砂崩れも、標高400メートルの高さから、土砂は2000メートル先まで達しました。実に5倍です。

 ご自分のお住まいのすぐそばまで山や崖が迫っている場合は、これまで崩れなかったとしても、今回は崩れるかもしれないとして、早めの避難に勝るものはありません。

今後の予想雨量

<14日18時までの24時間に予想される雨量(多い所で)>

  九州北部地方、東海地方      300ミリ

  四国地方、近畿地方、関東甲信地方 250ミリ

  九州南部、中国地方、北陸地方   200ミリ

  東北地方             120ミリ

 その後、15日18時までの24時間に予想される雨量は、多い所で、

  九州南部、九州北部地方、四国地方、

  近畿地方、東海地方、関東甲信地方 200から300ミリ

  中国地方、北陸地方        100から200ミリ

  東北地方              50から100ミリ

(8月13日(金)17時 気象庁発表 大雨情報より)

 西日本は断続的に激しい雨が降っており、線状降水帯が発生しやすい状況も続きます。特別警報が発表されてから避難するのではすでに手遅れです。

 ご自分の住まいの周辺の特徴や、天候の状況、予報など自ら入手し、行政の指示に頼るだけではなく、自ら判断・行動することが大事です。

注)豪雨と大雨は明確な定義があるわけではありませんが、一般的に「大雨」は予想に対して使用され、その結果、被害をもたらすような雨になると「豪雨」と表現されることが多いようです。

参考

気象庁発表 「平成 30 年 7 月豪雨」の大雨の特徴とその要因について

線状降水帯発生のしくみ(動画)

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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