栃木県・足利の山火事 北風フェーンが延焼拡大の要因か 次の雨は3月2日頃

イメージ画像(写真:ロイター/アフロ)

 2月21日に栃木県足利市で山火事が発生して丸5日がたちました。まだ鎮火の目処は立っていません。

 この山火事に油を注いだのが”北風フェーン”と呼ばれる、乾燥した空気です。北風フェーンは通常のフェーン現象と違って冷たい空気なので気温は上がりません。しかし、日本海側の山間部に雪や雨を降らせたあとの空気なので、ひとしお乾燥して太平洋側にやってきます。火の勢いが強まった23日~24日は、気温は低いのに乾燥した強風が吹きました。

 今回の山火事の直接の原因は、ハイキングコースにある休憩所からの出火との報道がありますが、一般に山火事のほとんどは人災です。そしてその小さな人為ミスから、延焼が拡大して大被害につながるかは気象条件に大きく左右されます。

山火事の原因は2T・2K(たき火、たばこ、強風、乾燥)

出典 林野庁HP
出典 林野庁HP

 上記は林野火災の出火原因の割合です。これを見ると、落雷などの自然発火はごく稀で、犯罪である放火も含め、大半がたき火火入れ(畑の雑草や枯草などを焼くこと、野焼きともいう)、たばこの不始末など人為的要因であることがわかります。

出典 林野庁HP
出典 林野庁HP

 続いて、月別発生件数です。発生件数のおよそ7割が冬から春に集中しています。この理由には

①春先は行楽や山菜採りなど、人が山に入る機会が増える

②農作業による枯草焼きなどが山林に飛び火する

③冬は森林内に落ち葉が積もって燃えやすい状態にあること

④強風が吹きやすい。特に太平洋側は乾燥した状態が続く

などがあげられます。

 このうち④について、実際に強風と乾燥について調べると、東京の場合、下記のようなグラフになります。

東京における強風が吹いた日の月別日数(平年値)出典 気象庁 (スタッフ作成)
東京における強風が吹いた日の月別日数(平年値)出典 気象庁 (スタッフ作成)

東京地方に発表された乾燥注意報の月別発表日数(平年値)出典 気象庁 (スタッフ作成)
東京地方に発表された乾燥注意報の月別発表日数(平年値)出典 気象庁 (スタッフ作成)

 このように、数字からみても強風、乾燥とも冬から春が顕著であることがわかります。これは、大陸からの冷たい季節風が日本海を通り山でぶつかって雪や雨を落とし、太平洋側に乾いた風となって吹いてくる、いわゆる「北風フェーン」となるためです。また、2月から3月は春一番に代表されるように、冬の冷たい空気と春の暖かい空気がぶつかって低気圧が発達しやすくなります。そうなると各地に強風をもたらしますから、この時期山火事は日本全国どこでも起こり得る災害と言えるでしょう。

強風と乾燥が延焼を拡大させた

栃木県佐野市(足利市に最も近い風速観測地点)の最大瞬間風速と天気図 出典 気象庁(スタッフ作成)
栃木県佐野市(足利市に最も近い風速観測地点)の最大瞬間風速と天気図 出典 気象庁(スタッフ作成)

 上の図は、山火事発生後3日目と4日目、23日と24日の天気図です。

 発生当日から2日目までは、それほど強い風は吹いていませんでしたが、23日~24日にかけては冬型の気圧配置となり、足利市付近では瞬間的に16m/s以上の強い風が吹いて、一時、栃木県内には強風注意報も出ました。消火活動のためのヘリコプターも強風で飛べなかったとのこと。恐らくこの2日間で延焼が拡大したのでしょう。また、足利市に近い観測地点である宇都宮の最小湿度は23日が19%、24日は21%。いずれも北風フェーンの影響と考えられます。

 実は、火災発生前の2月16日から、乾燥注意報が連続して出ていました。(現在も継続中)

乾燥注意報は「火災注意報」

 そもそも、乾燥注意報とは何なのでしょう。テレビからは「乾燥注意報が出ています。お肌の乾燥にご注意ください~」とか「インフルエンザなど風邪のウィルスが~」なんてフレーズがよく聞こえてきますが、本来は「火の取り扱いに注意することを目的」とした防災情報です。その歴史を紐解くと、昭和24年(1949年)まで遡ります。当時の中央気象台が、市町村が発表する火災警報の根拠となるべく、以下のような状態にあった場合、火災気象通報として都道府県知事を通じて市町村向けに発表されるようになりました。

【火災警報発令条件について(昭和24年3月25日 中央気象台長 国家消防庁管理局長宛)】

1実効湿度60%以下、湿度40%を下り、最大風速7mを超える見込みのとき

2平均風速10m以上の風が1時間以上連続して吹く見込みのとき

(降雨、降雪中は通報しないこともある) 

出典 消防消第34号・気業第197号 火災気象通報の運用の見直し

 その後、昭和25年(1950年)7月1日に「異常乾燥注意報」という名目で“空気が異常に乾燥し、火災の危険が大きいと予想される場合”に一般に使用されるようになりました(昭和63年(1988年)に「乾燥注意報」に変更)。東京地方に限って言えば、現在の定義になったのは、昭和42年(1967年)で、最小湿度25%以下、実効湿度50%以下になると予想された場合に発表されます。

 この聞きなれない「実効湿度」というのが実は、火災の危険性を考えるにあたって大変重要なもので、木材が含む水分量がどのくらいかを判断する目安となります。当日の平均湿度に加え、前日、前々日など数日前からの平均湿度を加味して計算され、この結果が60~50%以下だと火災が発生しやすいとされているのです。

今後の雨の行方

 上記は直近で住民避難勧告等が発令された大規模な山火事と、その期間中、鎮火までに降った雨の量です。いずれの場合も消火活動が行われていましたから、必ずしも雨だけが鎮火の要因ではないと思いますが、平成29年(2017年)の大規模火災に関しては、5月13日~15日までの3日間で降った98ミリの雨量が残り火の鎮火に寄与したと言われています。今回の足利市の延焼面積は現在100ヘクタール以上、東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせたくらいの広さに及びます。過去の火災と照らし合わせると、少なくとも30~40ミリの降水量が望まれます。

足利市の16日予報 出典 ウェザーマップ
足利市の16日予報 出典 ウェザーマップ

 今後の雨の予想をみると、次に雨が降るのは3月2日と6日頃に予想されています。過去の大規模な山火事は鎮火に10日間前後は要していますので、当面、まとまった雨が降らないとすると、完全鎮火にはまだ4~5日はかかるのかも知れません。

参考

林野庁HP

「2017年 東北山林火災における岩手県釜石市・宮城県栗原市の被害概要」自然災害科学124 Vol.36,No.4より