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気象庁に問いたい。動物季節観測の完全廃止は、気象業務法の精神に反するのではないだろうか

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
彼岸花にとまる「アキアカネ」 撮影 高橋和也氏

 本日(11月10日11時)、気象関係者にとっては大きなニュースが気象庁から発表されました。気象庁は「来年(令和3年)1月より生物季節観測を見直す。」というのです。それも、動物観測を完全に廃止するとのことで、率直に言って、そこまで予算に困っているのか!という思いです。

 今年の秋から気象庁はホームページに広告をつけるなど(現在は停止中)、予算緊縮で台所事情が厳しくなっていることは容易に想像がついていました。しかし、今回行われる「生物季節観測の見直し」は、動物季節観測の全廃を前提としており、これは大きな社会的問題をはらんでいると思われます。

生物季節観測とは何か

 生物季節観測には、身近な動物を観測する”動物季節観測”と植物を観測する”植物季節観測”の二種類があります。いずれも、季節の進み具合や長期的な気候の変動を把握するなども視野に入れた重要な観測です。

 観測の方法そのものは、ある意味原始的な方法で、観測者(気象庁職員)が実際に眼で見て、動植物の現象を確認した日を記録します。逆に言うと人間の眼、それも熟練をある程度必要とするので人件費がかかります。この生物季節観測はアメリカのスミソニアン研究所の方法に倣って、気象庁では1953年から行われています。観測項目は2020年10月現在、植物34種(桜や梅の開花など)動物23種(アブラゼミやウグイスの初鳴きなど)です。

現在行われている生物季節観測の項目 網掛けは廃止されるもの。今後は6種9現象のみになる。 出典 気象庁HP(スタッフ加工)
現在行われている生物季節観測の項目 網掛けは廃止されるもの。今後は6種9現象のみになる。 出典 気象庁HP(スタッフ加工)

 現在も気象官署によって観測する項目は違いますが、観測機器だけではとらえられない季節の変化や、自然界の異変をキャッチしようとするのが目的であることは論を俟ちません。

 そして今回、その生物季節観測の見直しが発表されましたが、その内容は見直しというより大幅な削減で、特に動物季節観測にいたっては全て廃止という、信じ難い内容になっているのです。

 動物季節観測の廃止に関して、気象庁の見解は「対象を見つけることが困難となっており、また観測できたとしても結果にばらつきが大きく、気候の長期変化や季節の遅れ進み等を知ることが困難・・・・」としています。

 確かにトカゲや二ホンアマガエルなど、種目によっては都市化の進んだ地域では、観測困難なものもあるでしょう。実際、2011年の平年値見直しの時には、東京や大阪など大都市では、ホタルやトノサマガエル等の初見日が除外されました。とはいえ、出現を目視する必要の無いセミ類やウグイスの初鳴きなどは、果たして「対象を見つけることが困難」と言えるのでしょうか。さらに言えば、観測とは観測できなかった事を確認するというのも立派な観測と言えるでしょう。

 またクマゼミなどは、対象を見つけることが困難どころか、数十年前は首都圏に居なかったものが近年は北関東にまで生息が広がっています。セミの分布は気候変動や温暖化の指標として極めて重要な資料で、この観測を止めてしまうというのは先人の築いた努力の放棄と言えるでしょう。

気象業務法の精神

「気象に携わる者は、気象業務法を守らなければならない。」

 その業務法の体系を見ると、第一章が総則、そして第二章が観測で、第三章が予報及び警報です。つまり予報よりも、縁の下の力持ちである観測の方が重要であるというのが、気象業務法の精神です。観測が無ければ予報も警報も出せないのだから、これは至極当然のことと言えるでしょう。したがって生物季節観測といえども観測の変更は、慎重に慎重を重ねて行われなければなりません。

 気象業務法の第一章・第一条には

この法律は、気象業務に関する基本的制度を定めることによつて、気象業務の健全な発達を図り、もつて災害の予防、交通の安全の確保、産業の興隆等公共の福祉の増進に寄与するとともに、気象業務に関する国際的協力を行うことを目的とする。

出典:e-Gov「気象業務法」昭和二十七年法律第百六十五号

と記述されています。

 生物季節観測の成果は、日々の天気予報や警報にすぐに反映するわけではないので重要度が軽んじられる向きもあるかも知れません。ですが長期的な視点に立てば、動・植物の変化や季節の移ろいを気象官署が記録するというのは、産業の興隆や公共の福祉に貢献することは間違いないでしょう。

 近年の気象庁の方針を見ている者としては、気象庁が「防災」を最優先にしている事はよくわかります。それはそれで正しいと思います。しかし、生物季節観測を二次的な観測として疎かにするなら、それは気象業務法が述べている公共の福祉という精神に反しているのではないでしょうか。

 あえていうなら気象業務は「防災」だけのために有るのではではなく、日本文化そのものを守るためにもあるべきでしょう。

「気象庁に疑問を訊いてみた」

(今日13時に気象庁担当者に疑問点をおたずねしました。概略)

問 なぜ動物観測をなくすのでしょうか?

答 観測動物がいなくなっている。加えて動物の出現が季節の変化を表していない。例えば水戸の例を見ると、ウグイスの初鳴きは2000年くらいまでは、暖かい年には早く鳴いたりしていたが現在は温暖化のせいか、むしろ遅く鳴く。トノサマガエルも30年くらい前までは気温との関連があったが、今はそうした傾向もみられず、ばらつきが大きい。

問 そうしたばらつきが大きくなっている事を観測するのも、観測ではないのでしょうか?

答 観測の目的が違う。植物のように温暖化に連動して変化があるのなら良いが、動物は気候変化の指標にいまや成りにくくなっている。

問 クマゼミなどの生息分布は北へ広がっており、現在進行形の重要な観測指標ではないのでしょうか?

答 クマゼミの観測場所は7か所しかないので、もともと北の地域ではやっていない。

問 生物観測の縮小は予算削減が理由なのでは?

答 それは違う。

問 観測は気象業務法上、最も重要な項目ではないのでしょうか?

答 それは、そうです。

問 もう動物観測が復活することはないのですか?

答 ニーズが高まったり状況が変われば復活もあると思う。

 私は見直し自体を否定する者ではありませんが、”動物季節観測完全廃止”はやりすぎだろうと考えています。せめて昆虫類や鳥類の観測は残すなどの配慮を、気象庁に再検討していただくようお願いしたいです。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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