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異常に早いサクラの開花・千年暖冬

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
赤坂サカスの「三春桜」の様子(2020年3月9日・ウェザーマップ・高橋和也撮影)

三春桜とソメイヨシノ開花の関係

 赤坂サカスに、福島の三春桜の子孫樹があります。早咲きの枝垂れ桜であり、サカス付近で真っ先に春の訪れを主張する存在です。2012年(震災の翌年)から、TBSウェザーセンターではこの桜が咲いた日(五輪以上開花)を記録しています。

 そこで分かったことは、三春桜が咲いてから7〜8日もすれば、東京でソメイヨシノの開花の発表を迎えること。今年(2020年)は3月3日に三春桜が開花したので、きょう3月10日(火)から、ソメイヨシノも開花の秒読みに入ったと言えるでしょう。

 もう一つ、ソメイヨシノには「開花600℃の法則」があります。元日から平均気温を積算して、600℃となる頃に開花するというもの。今年の場合、きのう(9日)までで550℃を超えていて、600℃に達するのは13日(金)頃になりそうです。これまでに最も早く咲いたのは、2002年と2013年の3月16日ですから、予想通りにいけば今年は、ソメイヨシノの早咲き記録を更新する可能性が高いでしょう。

サクラ開花 今年はなぜ早い

 まず、〔休眠打破〕について、理解しておきましょう。春に咲く桜の花芽は、実は前の年、夏の段階ですでに作られています。ただし、それから花芽は休眠状態に入り、秋~冬に一定期間、低温(2℃〜7℃)に1か月程度さらされることで「目が覚めて」開花の準備に入リます。そして、目が覚めてから気温の高い状態が続けば、それだけ開花が早まるのです。

 今年の冬は、西日本を中心に大幅な暖冬となりました。もとから温暖な地域は低温の時期が短く、休眠打破が鈍くなり、花芽の成長も鈍いとみられます。目覚めが悪いので、いくら3月に暖かな日が続いても、必ずしも開花が早まるわけではありません。九州南部のソメイヨシノ開花は、平年並みと予想されています。

 東京など関東地方の冬の気温もかなり高くなりました。ただし、こちらは暖冬より3月の高温傾向の影響が大きいとみられ、平年よりも早い開花となりそうです。いえ、それどころか横浜や東京などは、統計がある1953年以降、最も早い開花となる可能性があります。

「千年暖冬」

 大阪府立大学の青野准教授は、過去の京都の桜の満開日から、3月の平均気温を推定しています。かつて、平安時代が暖かかったと言われていますが、西暦957年と958年の7.56℃、7.55℃や、915年〜917年の7.4℃台。これは、近年では1970年代あたりに相当し、現代はすでに「平安高温期」と呼ばれた中世の時代を超えて、有史以来の高温の時期に我々は生きていると言えるでしょう。

 京都の今冬の気温は、平年差プラス2℃でした。もし、この傾向が3月も続くとすれば、平均気温は10.4℃となり「平安高温期」よりも3℃以上も高くなります。と、ここまではホントかと思う結論なのですが、実は都市化によるヒートアイランド現象の上乗せ分があります。

 西暦900年頃の京都、3月の平均気温はおよそ6℃でした。10℃ともなると、それより4℃も高くなることになるわけです。うちヒートアイランド分が3分の2程度あると考えられていますが、つまり、1.4℃が地球温暖化による昇温分、それも結局、人間の活動要因が大きいとされます。

 結論を言えば、現在は「平安高温期」など人為的要素が少ない(自然変動による)高温時期よりも気温が高いのです。現在起きている暖冬・暖春は自然要因と人為的要因が作り出した世紀の記録であり、この冬の暖冬は少なくとも「1000年以上現れていなかった」と言えるのではないでしょうか。サクラの開花を異常に早めた今年の大暖冬は「千年暖冬」が平常化する転換点なのかも知れません。

[[image:image01|center| そう遠くない将来、サクラがこれほど綺麗に咲きそろわない地域が増える可能性も (2018年3月 ウェザーマップ・高橋和也撮影)]

ソメイヨシノの未来

 昭和時代まで、桜の早咲き名所だった九州南部地方。こちらでは、近年現れることが多い顕著な暖冬の場合、休眠打破が順調に行われていないケースが考えられます。近年〔サクラ開花一番乗り〕が九州北部や四国、関東南部へと移ってしまい、九州南部は意外なほどスロースタートな年が多くなっています。しかも、目覚めの悪さが影響してか、満開になるまで日数がかかることも多くなっています。

 鹿児島県の種子島は。かつては、ここも早咲き記録を生み出す土地でしたが、すっかり様子が変わりました。2007年は開花が4月1日、満開になったのは4月25日で、だらだら花が開くせいで3週間以上もかかったのです。途中から先に咲いた花が散り、葉っぱの方が目立ってしまい、満開が観測できない年までありました。

 こうした状況に注目していましたが、2007年秋に気象庁の組織改革により種子島測候所は無人化され、天気の実況や桜の開花など、人の手が必要である観測は行われなくなりました。その後、2010年までに全国25あまりの測候所が廃止されています。もちろん、多くの地点で、ソメイヨシノの観測記録も途絶えてしまいました。

 近年は、東京や周辺の都市で、サクラの早咲きが目立つようになっています。しかし、やがて東京のソメイヨシノは現在の九州南部のようになかなか咲かず、満開にもなりにくくなる事態が訪れる可能性があります。そして、あと数十年もすれば、東北地方や北海道が、本当の意味でサクラの名所になっていくかもしれません。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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