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トラック自動運転レベル4相当で実証実験開始 工場などの場内搬送で早期実用化目指す

森田富士夫物流ジャーナリスト
トラックによる自動運転レベル4相当の場内無人搬送実証実験(筆者撮影)

 自動運転トラックによる場内搬送の実用化に向けた実証実験が始まった。実験に取り組むのはボルテックスセイグン(本社・安中市)と群馬大学で、同社の本社物流センターの敷地内で「完全無人トラックによる場内自動搬送サービス」の早期実用化に向けた実証実験を2月19日からスタートした。

 日本では同じ商用車でもトラックよりバスの方が自動運転の実証実験が先行している。だが、生産性の向上やドライバー不足の解消、そして物流サービスの安定的確保のためにはトラックの自動運転の実用化が方策の1つだ。

 国土交通省やNX総合研究所の資料によると、2020年度の国内貨物輸送量の91.6%はトラック輸送(営業用61.7%、自家用29.9%)で、鉄道、内航海運、国内航空といった他の輸送機関と比べて圧倒的に比率が高い。だが、トラック運送業界ではドライバーの労働時間短縮や全産業なみの賃金水準の実現などが大きな課題で、ドライバー不足にも直面している。このようなことから自動運転トラックの実用化などに関心が高まっている。

 トラックよりバスの方が自動運転の実証実験が先行している理由は、路線バスは①専用レーンなど道路の左側を走行すればよい、②走行中のバスは他の車が避けて通る、③停留所が決まっているのでパターン化しやすく停車位置が少しずれても人間が自分で乗降する、④路線バスの運転は基本的には前進走行、などである。一方、トラックは①走行中の車線変更がバスより複雑、②トラックは他の車がバスのような特別扱いをしない、③工場や倉庫、物流センターなどの場内には荷物などの障害物がある、④場内では作業中のフォークリフトや人がいる、⑤荷物の積込みや荷下し場所には他のトラックもいる。

 このようにトラックの自動運転にはバスよりも複雑な条件がある。また、バスとは違う位置にセンサーを取り付ける必要などもある。だが、基本的には「バスもトラックも技術的なハードルは同じ。ただ社会的なルールで条件が違ってくる」(群馬大学・太田直哉教授)という。

 そのような中で、今回の実証実験は公道でなく物流センター敷地内において「完全無人トラックによる場内自動搬送サービス」を目指してスタートした。

自動運転装置を搭載した4tトラックを2台導入し、物流センター内の約1Kmの距離を積込み・荷下しをしながら自動運転レベル4相当で実証実験

 実証実験を始めた物流センターの敷地内には低床倉庫2棟、一般品倉庫、高床倉庫、冷蔵倉庫2棟、冷蔵自動倉庫、ラック倉庫2棟、特設倉庫その他が建っている。その中には保管だけでなく国内や海外に出荷する荷物の梱包作業などを行う倉庫もある。そのため荷物の保管倉庫から、国内出荷や輸出用の梱包などを行う棟への場内移送がある。今回の実証実験は、これら敷地内の倉庫間の荷物の移動を、完全無人トラックによって自動搬送するという取り組みだ。

 そのため日本モビリティが開発した自動運転装置を搭載した4tトラックを2台導入。日本モビリティは、自動運転の社会実装を目指す研究をしてきた群馬大学の小木津武樹准教授のノウハウを用いて設立したベンチャー企業で、「無人移動サービス導入パッケージ」を開発した。様々な企業と業務提携してパッケージの高度化の研究開発を進め、無人移動サービスを導入できる環境整備などに取り組んでいる。

 自動運転の実装化に向けた研究の一環として、群馬大学と相鉄グループが提携して2020年10月に横浜市のよこはま動物園ズーラシアと里山ガーデン間の約900mで行った実証実験は、一般公道で大型バスによる営業運行(貸切形態の営業運行)をした日本で初めての試みだった。運転席に人を配さないで遠隔監視・操作した実証実験としても注目された。「一般道路なので関係行政機関の許可がなければできない。国の『お墨付き』という点ではエポックメーキングですが、遠隔操作でも人間がモニターしているので自動運転のレベル2です」(太田教授)。

 それに対して今回の実証実験はトラックで、一般公道ではなく物流センターの敷地内ではあるが、技術的には自動運転レベル4相当で行われる。

トラックは完全無人で場内搬送、積込みや荷下しはフォークリフトでフォークの作業者がタブレットでトラックの動作を指定

 警察庁は道路交通法を改正する方向で検討している。改正の焦点の1つは自動運転の許可制度だ。現在、道交法で認めているのはレベル3まで。レベル3は特定の条件下ではシステムが操作するが、緊急時にはドライバーが対応できる状態だ。レベル4になると、特定の条件下ならすべてシステムが運転操作をしてもよい。

 それに対して今回の実証実験は技術的にはレベル4相当で行う。実証実験を始めるに当たっては、自動運転トラックが想定される基本機能を有しているかどうかを群馬大学が事前に検証した。基本性能の検証は、①運用システムの基本走行機能=速度や加速度および走行軌道が安全に想定された動作をするか、②トラックの緊急停止機能=緊急停止は障害物を検知するセンサーによるものと非常停止ボタンによるもの、さらにタブレットによる3つがあり、いずれも正しく作動して安全性が担保できるかどうか、③タブレット機能=タブレット操作によって想定された機能が正しく行えるかどうか(タブレット操作には3番目の緊急停止機能も含まれる)の3つである。

 無人トラックへの荷物の積込み、荷下しは有人のフォークリフトで行う。荷役作業が終わったらフォークの作業者がタブレットでトラックに次の動作を指定し、それに従ってトラックは次の場所に荷物を運ぶ。指定された場所に運ばれた荷物は、やはり有人のフォークリフトで積込みあるいは荷下しをする。そしてフォークの作業者がタブレットで次に運ぶ場所を指定する、というもの。物流センター内の移動距離は一巡で約1Kmになる。

 この実証実験を続けて改善点などを検証し、改良を進めて「完全無人トラックによる場内自動搬送サービス」の実用化を目指す。

無人トラックと自動フォークリフトの組み合わせで場内物流を効率化、同時にフォーク事故削減で安全性の向上を図る

 自動搬送車は、一定の領域において自動走行し荷物など人間以外の物品の搬送をする機能を持つ車両で、道交法で定められた道路では使用しないものをいう。公道ではなく、限られた場内で使用する自動運転トラックである(ただし実証実験のために導入した自動運転トラック2台は営業用ナンバーを取得している)。ボルテックスセイグンではこの場内使用の自動運転トラックの実用化を進め、同時に自動フォークリフトを組み合わせることで場内搬送の完全自動化を実現する計画だ。

 同社ではすでに無人フォークリフトを導入し、2020年2月から無人エリアにおいて実用化した。現在、自動フォークリフトによる出入庫最適動線抽出機能を特許出願中である。この自動フォークリフトは、レーザー誘導システムにより自車位置を把握して自動運転するもので、精度は誤差の範囲が1cm以内と高い。逆に荷物を積み込んでいてトラックの荷台が5mm以上下がると自動的に止まってしまうなど、実用面では課題もある。そこでAIによって応用力を高めるとともに、屋外や有人エリアでも使用できるようにメーカーと改良を進めている。

 このように、「将来的には自動フォークによる荷役作業と自動搬送車(自動運転トラック)を結合した自律型自動搬送システムの実用化を視野においている。大きな工場などでは自動搬送車両があるが、それらは通路地面に磁気誘導棒を埋設して、その上を走るという固定された動作範囲内の自動搬送である。当社ではフリーロケーションの場内自動搬送車を実用化して無人フォークと組み合わせ、場内物流を効率化して労働力不足に対応する。また物流現場でのフォークリフトによる事故を無くすように、無人フォークで安全性の向上も図りたい」(ボルテックスセイグン・武井宏社長)としている。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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