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ヨーロッパ南東部の海にクラゲ異常発生 背景に熱波と少雨

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
クラゲのイメージイラスト(提供:shiori/イメージマート)

「海月」に「水母」と、美しい漢字を持つクラゲですが、いまヨーロッパ南東部の海にはクラゲの大群が現れ、それはそれはゾッとする光景が広がっています。

その恐ろしげな事態が起きているのが、黒海北部の内海「アゾフ海」です。水深は平均13メートルと、世界でもっとも浅い海であり、多種多様な海洋生物の棲み処でもあります。

このアゾフ海に面するクリミア半島の海岸に、いま数千匹のクラゲの死骸が打ち上げられているそうです。さらに海の中には、下の動画のように無数のクラゲが密状態になってプカプカ泳いでいて、海水浴客も後ずさりする状況です。

なぜ大量発生?

いったいなぜ、クラゲが大量発生しているのでしょうか。

ロシアの海洋生物学者がロイターに語ったところによると、今夏の少雨と熱波によって、海に流れ込む川の水量が減り、結果的に海水の塩分濃度が上昇、それがクラゲの異常繁殖に繋がった可能性があるそうです。クラゲは温かく、塩分濃度が高い場所を好みます。

さらに、通常はアゾフ海よりも黒海の方がずいぶん塩分濃度が高いそうなのですが、今は40年毎にやってくる自然のサイクルで、その差が小さくなっているようです。このため、クラゲが黒海からやって来ていることも一因であると、ウクライナのメディアは伝えています。

ヨーロッパ南部では記録的な山火事が連日報道されていますが、厳しい暑さや干ばつの影響は海の生物にも及んでいるようです。

フラミンゴの大量死に「海の鼻水」

天候がもたらした海の異変と言えば、今夏はトルコのトゥズ湖で、フラミンゴが大量死するという悲しい出来事が起きています。

トゥズ湖は「トルコのウユニ」とも呼ばれる、世界遺産ボリビアのウユニ塩湖を彷彿とさせる美しい湖ですが、ふ化したてのフラミンゴの赤ちゃんが5000匹も命を落としたり、多数の親鳥が死んでしまったりして、干上がった湖にフラミンゴの死体が点々と転がっている状態です。

また春には、下の写真のような「海の鼻水」と呼ばれる現象がトルコのマルマラ海で起きました。プランクトンの増殖で、多くの海洋生物が死にました。

こうした目をそむけたくなったり、鼻を抑えたくなるような異変には、天候の影響もあることながら、水質汚染や農業用の灌漑が背景にあると言われています。快適な生活を求め行った開発が、海洋生物に迷惑をかけ、さらに人間の首を絞めてしまっている、そんな悲しい連鎖が起きてしまっています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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