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台風21号の謎 なぜ目が大きいのに強いのか

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
台湾上陸2時間前の台風21号の赤外線画像。NOAA

与那国島で81.1mを記録

「台風銀座」と呼ばれる沖縄県でも、とりわけすごい強風が観測されました。

昨日(28日)与那国島では、台風21号により、観測史上最高記録となる、81.1mの最大瞬間風速が吹きました。これは第二宮古島台風(1966年)の85.3m、第二室戸台風(1961年)の84.5mに次ぐ、国内第3位の強風の記録(山を除く)です。この風の中、死者が一人も出なかったことは幸いと言えるでしょう。

目が大きくて完璧な円形フォルムの21号

台風21号。気象庁
台風21号。気象庁

ところで昨日の台風21号を衛星画像で見ると、その巨大な目と、完璧な円形に驚きます。

通常台風の目は、直径30〜40キロ程度ですが、21号の目は一時100キロもあり、東京都や大阪府などをすっぽり包んでしまうほどの大きさでした。

また、一般的な台風は台風の外側に螺旋状の雲(スパイラルバンド)が取り巻いていることが多く、縦や横に長く広がっていますが、台風21号は、ほぼ円形です。

目が大きいに、なぜ勢力が強いのか

一般的に、台風の目は、小さくて明瞭であればあるほど、強いとされます。それは、中心気圧が低いほど、掃除機のように中心に雲を吸い込むからです。逆に目が大きくなるということは、台風が弱まってきたことの証です。

しかし、台風21号は、勢力が弱まるどころか、強まるごとに段々と目が大きくなっていきました。他にも、このような例があるのでしょうか。

ハリケーンIsabel。NOAA
ハリケーンIsabel。NOAA

2003年のハリケーンIsabelは、まさに同じような形状を持っていました。カテゴリー5(最大風速75m)まで発達し、アメリカ東部を襲ったハリケーンです。

また、2011年のハリケーンKennethもまたそれの一例と言えます。

このようにまれに、円形で、かつ大きな目を持つハリケーンが発生することがあります。これらは、アメリカでは「環状ハリケーン(annular hurricane)」と呼ばれ、およそ4%の確率で発生しているようです。(環状ハリケーンについてのPDF資料はこちら

環状ハリケーンは、一般的に勢力が強く、またその強い勢力のままで長時間存在し、弱まるのがゆっくりという特徴があります。さらに海水温が比較的低いところ(25〜28.5度)で発生するようです。

さらに、片山由紀子気象予報士も書いているように、台風の中心には、メソ渦という発達した雲の塊がありました。ことによると、この渦が台風の目の中の空気を吸い込み、どんどん目を大きくしていったのかもしれません。

今回の21号も、「環状台風」ではないかと考えられます。ただ日本ではあまり耳にしない言葉ですので、研究はあまり進んでいないようです。

台風21号の今後

台風21号の予想進路。気象庁
台風21号の予想進路。気象庁

21号は、今日(29日)中国福建省に上陸する模様です。明日朝には熱帯低気圧に弱まる見込みですが、問題はその後です。別の低気圧と一体になって、1日から2日にかけて、日本列島に嵐をもたらす可能性もあります。低気圧になった後も目が離せません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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