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高校野球文化が破壊されている! 延長即タイブレークに思う勝敗決着のあり方

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今年の春夏甲子園では9試合もタイブレークが行われ、優勝争いを左右した(筆者撮影)

 甲子園の高校野球は、このところの急激な変化に翻弄され、100年以上かけて築き上げてきた文化が壊れ始めているように感じている。いまさら「根性論」を持ち出す気はないが、あまりにも「国際化」と「時代」を意識し過ぎているのではないかとさえ思ってしまう。

今春からは事実上「延長なし」に

 タイブレークの導入は、高校野球文化を根底から揺るがす大変革であった。5年前の2018年に甲子園でも適用が始まり、当初は延長12回を終えて両校無得点または同点の場合、13回からタイブレークに突入した。それが今春センバツから、9回で決着がつかなければ即タイブレークとなり、事実上の「延長戦なし」へ移行した。当然、甲子園大会に準ずるはずなので、夏の地方大会や秋の地区大会など、甲子園に直結する都道府県単位の試合でも、同様の適用となる。

試合を早く終わらせるためだけのルール

 改めてルールを詳しく述べる必要もないが、あらかじめ人工的に走者を置いて攻撃し、点を入りやすくするもので、単に試合を早く終わらせることだけが目的のルールである。試合内容によっては、あまりにもあっけなく、一様に勝者も敗者も後味が悪い。特にこれはサヨナラ負けした場合、失策や押し出しなどでの結末だと、非情にさえ感じる。設定は同じだが、10回に迎える打順はまちまちであり、運に左右されることも多い。まだ12回まで戦っての突入なら、選手の健康管理や故障防止の観点から止むを得ない時代の流れとも解釈できるが、さすがに10回からは拙速な気がしてならない。

タイブレークは4年で6試合だったが今年だけで9試合

 実際に、今センバツでは、この夏の決勝カードとなった慶応(神奈川)と仙台育英(宮城)の2回戦(初戦)を始め、3試合で適用され、報徳学園(兵庫)は、東邦(愛知)と仙台育英にタイブレーク勝ちして準優勝まで駆け上がった。夏は初日からタイブレークがあり、計6試合。わずか1年、2大会で、9試合がこのルールによって勝敗を決めさせられた。タイブレーク導入から去年までの5年間(20年は中止なので実質4年間)で、タイブレークは6試合しかなかったことを考えると、この9試合の多くが、12回まで戦っていれば、完全決着を見たと考えるのが自然だろう。

「先攻後攻」「打順」全ては運次第

 このタイブレークが高校野球の文化にそぐわないのは、あまりに運が勝敗を左右するからに他ならない。ちなみに今年のタイブレーク9試合で先攻チームの勝利は2試合、後攻チーム勝利が7試合で、結果からも後攻有利は明らかだ。また、終盤で接戦になった場合、タイブレークを意識した戦い方も要求されるようになった。「まずは同点狙い」から「一気に逆転を狙う」という意識の変化である。球威がありフィールディングのうまいタイブレーク用の投手や、バント専門の控え選手を準備しているチームもあると聞く。特に先攻チームは打順によって作戦が変わってくるので、先攻後攻よりも「打順の方が気になる」と話す監督もいたが、これも時の「運」である。

「完全決着」が高校野球のはずなのに

 高校野球におけるトーナメントは、長く「完全決着」で勝敗を決めてきた。延長で決着がつかない場合は「再試合」を行い、勝負がつくまで戦いは続く。それによって、後世まで語り継がれるような「名勝負」が高校球史を彩ってきた。現在のルールでは、もはやこうした「死闘」は皆無に近く、むしろ、9回までの熱戦が水泡に帰すようなあっけない幕切れになることも少なくない。「後味が悪い」というのは、試合を早く終わらせるためだけのこのルールの最大の欠点で、高校野球にそぐわない。現場が、「できればタイブレークを避けたい」と思うのは当然だろう。

運で負けた時に掛ける言葉があるか?

 戦う選手は、その時代に即したルールで全力を尽くせばいい。しかし、現場の指導者から聞こえてくるのは「タイブレークは、新しい試合が始まる感覚」という、これまで想像もしなかった現象への「戸惑い」とも取れる言葉である。特にキャリアの長い指導者には、高校野球を支えてきたという自負がある。負けた時、選手に掛ける言葉には、苦楽をともにしてきた者同士だからこそ分かり合える重みがあるはずだ。それが運だけで明暗が分かれてしまっては、掛ける言葉を探すのも大変だろうと察する。

「日本の高校野球文化=甲子園」は世界で唯一無二

 100年を超える高校野球の文化は国際化の波にのまれ、ここ数年で大きく変貌した。先人たちが築いてきた「完全決着」は崩壊し、合理的な米国に迎合することで、独自の文化を失いつつある。大会期間中、国民はテレビやラジオ、ネットで、甲子園に一喜一憂する。これだけの「スポーツ文化」は世界中、どこを探しても見当たらない。今一度、残すべき「大事なもの」を見つめ直すべきではないだろうか。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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