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前田のすごさを再認識させられた! 課題が多かった大阪桐蔭の初戦を振り返る

森本栄浩毎日放送アナウンサー
大阪桐蔭はエース・前田の力投で初戦突破。2度目の春連覇への課題とは?(筆者撮影)

 センバツは3日目に大阪桐蔭広陵(広島)の優勝候補が登場し、持ち味を発揮して初戦を突破した。史上初の2度目のセンバツ連覇を狙う大阪桐蔭は、最速148キロのエース・前田悠伍(3年・主将=タイトル写真)が、敦賀気比(福井)から14三振を奪う力投で完投したが、攻撃陣は3得点(スコアは3-1)にとどまり、秋からの課題が解消されたとは言い難い内容だった。

立ち上がりから真っすぐが走らなかった前田

 前田は開幕前の練習試合で真っすぐが走らず、調整遅れが聞こえていた。その噂通り、立ち上がりの直球は130キロ台中盤がほとんどで、速球狙いの気比の打者にいい当たりを連発された。初回だけで17球を要し、6回まで毎回走者を背負う姿は、相手を全く寄せ付けなかった昨春とは別人にさえ思えるほどだった。それでも前田は、最後まで相手に主導権を渡さなかった。むしろ中盤以降に球威が出始めると奪三振の数も増え、本来の躍動感を取り戻した。その姿には「さすが」という言葉しか出てこない

投手としての要素をすべて兼ね備える

 難敵相手に8安打1失点(自責0)で134球の完投だった。「真っすぐはあまり良くなかったが、チェンジアップが良く、取りたいところで三振が取れた」と振り返り、引き出しの多さを証明した前田。彼の長所は、真っすぐだけでなく、チェンジアップやスライダー、ツーシームでも三振が取れるところにある。球の質はすべてが一級品で、真っすぐの調子に左右されないことも並みの投手とは全く違う。駆け引きや間合い、展開を読む力、牽制やフィールディングなど、投手として必要な要素はすべて兼ね備え、一昨年秋に初めて前田を取材した際、西谷浩一監督(53)が「とにかくピッチングができる。今、教えることは特にない」と絶賛したことを鮮明に覚えている。

西谷監督が初戦のエースに与えた点は?

 その際に西谷監督が課題に挙げていたのが、球数や連投からくるスタミナ面での不安だった。この日は7回で120球に達し、西谷監督は前田に「へばってきたか?」と声をかけるつもりだったと言う。しかしベンチで目が合った瞬間、前田の方から「最後までいけます」と先手を打ってきたことを明かした。このあたりの阿吽の呼吸も、西谷監督が前田に寄せる信頼の大きさを表している。最速は142キロにとどまったが、100球を超えてから140キロ台が出るようになってきた。「(6回に入る前の)グラウンド整備が終わってからは、力を抜いて速い球を投げることを意識した」という修正能力にも恐れ入る。西谷監督はエースに「80点」を与えた。

「仕留め切れていない」と野手には不満

 前田に関する質問にはポジティブな答えがポンポンと出てくる西谷監督も、試合内容そのものには満足していない。前田を十分に援護できなかったからだ。2点先制直後の失点は失策絡みからだったし、2-1の7回に1点を追加してなおも無死2、3塁から上位打者が凡退し、「仕留め切れていない」と野手陣へ矛先が向いた。「前田頼みからの脱却」は秋からの課題だ。7回に突き放していれば、8、9回に控え投手を登板させることも可能だった。

辛勝スタートは昨年と重なるが…

 この日の苦闘は、奇しくもスコアが同じ3-1で鳴門(徳島)に辛勝し、その後、優勝へ急カーブを描いた昨年と重なる。次戦に起用される野手は打順も含め、調整期間の調子で見極めることになるだろう。「投手は全員、ブルペンに行かせた。投げたくてうずうずしているはず」と西谷監督が期待を寄せる控え投手陣が、どれだけ前田との差を埋められたかもはっきりするだろう。直前に二松学舎大付(東京)に5-0で勝った広陵が、控え投手を試運転させる余裕を見せたのとは対照的だった。その一方で「残りも全部投げるつもりで準備している」と話す前田が、ますます頼もしく映った。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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