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甲子園より世界一を優先? これからどうする?二択迫られるU18世代

森本栄浩毎日放送アナウンサー
U18世代にとって甲子園直後の世界大会には大きな課題が残る(18年9月筆者撮影)

 米・フロリダ州で開催されたU18野球ワールドカップで日本代表は健闘し、銅メダルを獲得した。甲子園疲れが残る中、不安定なチーム状態だったが、最終戦となった韓国との3位決定戦は会心の試合で、最後にめざすべき姿を見せた。U18世代は今後、甲子園直後の世界大会で感じた代表の重みを、どう生かしていけばいいのだろうか。

最終戦で精神力、分析力、技術力の高さ発揮

 優勝の米国、2位のチャイニーズタイペイ(台湾)と4位の韓国が日本とともに優勝を争うと予想されていたが、米国戦は雨によるサスペンデッド(継続試合)となって、翌日に逆転サヨナラ負けした。そのまま試合が続行されていたら勝っていた可能性が高い。台湾には完敗したが、同条件とはいえあまりに球審のレベルが低く、再戦があればいい試合ができただろう。米国にサヨナラ負けした同日、韓国に快勝したが、気持ちの切り替えの早さや、前回対戦での反省を踏まえての相手投手の攻略、要所での堅守など、日本の精神力、分析力、技術力の高さが随所に出ていた。もう少し大会が長ければ、もっとチームが成長したはずだ。

夏の甲子園不出場は二人だけ

 今回の日本代表は投打とも小粒で、例年通り、夏の甲子園で活躍した選手を中心に選出された。今夏の甲子園に出ていないのは、センバツに出場した4番の内海優太(広島・広陵)と、甲子園未経験の正遊撃手・光弘帆高(大阪・履正社)の二人だけ。内海の打撃面での貢献は言うまでもなく、光弘は持ち前の守備力で存在感を発揮していた。彼らが代表チーム結成前にどのような声かけをされていたかわからないが、夏の地方大会敗退後も代表に向けた準備をしていたことは間違いない。

甲子園出場組は消耗の差が出る

 しかし、甲子園組は明暗が分かれた。エースと期待された主将の山田陽翔(滋賀・近江)は直球が走らず、甲子園の疲れが残っていたことは明らかだった。1番として打線を牽引した浅野翔吾(香川・高松商)も、スーパーラウンドに入ってから攻守に精彩を欠いた。決勝を戦った仙台育英(宮城)と下関国際(山口)からは一人ずつ選出されたが、直前に二人とも体調不良で代表を辞退している。一方で、川原嗣貴松尾汐恩の大阪桐蔭バッテリーは絶好調。特に川原は、異国で自己最速を更新するなど、甲子園をはるかに上回る投球内容だった。甲子園では初戦敗退に終わった生盛亜優太(沖縄・興南)は直球とスライダーのコンビネーションが冴え、本職は捕手の野田海人(福岡・九州国際大付)も安定した投球を披露していた。甲子園で消耗が少なかった選手ほど、好結果を残したように思う。

夏の甲子園より代表を優先させられるか

 この結果は何を物語るか、ここからが本題になる。以前にも述べたが、10数年前までは夏の大会後に、甲子園で活躍した選手で日本代表チームを結成して、海外遠征することが慣例化していた。選手にとっては親善試合という名の「卒業旅行」で、勝敗は二の次である。U18世代の世界大会が夏の甲子園と重なっていたため、世界との真剣勝負の機会がなかったのだが、これが9月にズレたため、参加できるようになった次第。世界のトップを自負する日本野球の威信も懸かっているため、下手な試合はできない。かと言って、最大の目標である「夏の甲子園」よりも代表チームを優先させられるのか。U18世代を預かる高野連にとっては、実に悩ましい二択である。

夏の甲子園が代表の足かせに?

 結論から言うと、現状は「甲子園を優先させつつも、あわよくば世界一を獲る」方針だ。その根拠は、チーム編成を見ればすぐわかる。今回のメンバー20人中18人は、夏の甲子園に出場した選手であった。首脳陣も、代表の馬淵史郎監督(66=高知・明徳義塾)を始めコーチ陣(アシスタントコーチ除く)も全員が現役監督で、選手ともども以前の名残が色濃い。その結果、チームとしての準備期間がライバルに比べて極めて短く、甲子園を上回るパフォーマンスを発揮できた選手の方が少なかった。内海と光弘が万全の状態だったことを考えると、夏の甲子園の存在が代表チームの足かせになっていたと言われても、否定はできまい。

世界一狙うならチーム編成を根本から再考

 来季も馬淵氏の代表監督続投が決まったようである。現在の高校球界現役監督を見渡しても、その眼力の確かさや選手の適性に合わせた采配で、右に出る者はいない。しかし、年間を通して全国の有望選手を調査し、チーム編成を考えられる人材を、専任コーチとして登用できないものかと思う。これと併せて、メンバーの半分は夏の甲子園出場選手以外から選んでもらいたい。彼らにとって、代表チーム結成まで1か月はある。この間に合宿をすれば、チームプレーはかなりスキルアップできるはずだ。真剣に世界一を狙うならば、チーム編成を根本から考え直す必要がある

華やかな甲子園と世界の壁を短期間で体験

 これはあくまで「二兎を追って二兎とも得る」発想に立っての提案で、U18世代にとって「甲子園」を上回るものなど存在しない。逆に言えば、制約が多い中、選手たちは全力を出し切り、世界3位という十分な成果を得た。華やかな甲子園と、肌で感じた世界の壁。短期間に得難い経験をした選手たちにとって、野球人生はまだ始まったばかりだ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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