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大阪桐蔭不在の準決勝を展望! 4分の3の確率で甲子園の優勝空白県解消へ

森本栄浩毎日放送アナウンサー
3大会連続4強進出の近江は、星野が山田を助ける好投。優勝のカギを握る(筆者撮影)

 甲子園は4強が決まった。準々決勝では、3度目の春夏連覇をめざした大阪桐蔭が、下関国際(山口)に9回、逆転負けを喫する大波乱があった。初日から前評判の高かったチームが次々に姿を消す大荒れの大会は、どんな結末が待っているのだろうか。

準決勝(20日)

 仙台育英(宮城)-聖光学院(福島)

 近江(滋賀)-下関国際(山口)

甲子園優勝なしは14県

 今春まで、春夏甲子園で優勝がないのは、東北6県を始め冬季の気候に恵まれない地域を中心に14県(青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島、山梨、新潟、富山、石川、滋賀、鳥取、島根、宮崎)。宮崎は寒冷地に相当しないが、レベルの高い近畿にある滋賀も甲子園で苦戦が続いてきた。準決勝進出4県のうち、優勝経験があるのは山口(下関商柳井)だけで、4分の3の確率で、甲子園優勝空白県が解消されることになる。

東北勢で最も優勝に近い宮城

 宮城は仙台育英が3度、東北が1度、決勝まで進出したがいずれも優勝を逃した。東北勢では最も優勝に近く、優勝未経験14県を見渡しても、近年の甲子園での戦績そのものは突出している。福島は1971(昭和46)年に磐城が決勝進出を果たしたが、桐蔭学園(神奈川)に0-1で惜敗した。近年は聖光学院がほぼ、代表の座を独占しているが4強入りは初めてで、同一大会での4勝も福島勢にとって初めてだった。

滋賀は歴史的背景も影響

 滋賀は長く京都に夏の代表の座を奪われて出場機会に恵まれなかった(京滋代表は京都46回、滋賀4回)歴史的背景もあり、高校野球文化の発展が遅れていた。現在の制度が続く限り、夏の甲子園出場回数全国最少は変わらない。2000年以降、近江の台頭で甲子園でも勝てる県にはなったが、21年前の近江の準優勝以外は、目立った成績は収めていない。昨年からの近江の3大会連続の4勝には、目を見張るものがある。

投手陣万全の仙台育英

 さて準決勝第1試合の東北勢同士の戦いは、仙台育英の投手陣の充実ぶりが際立つ。エース左腕・古川翼(3年)に若干の不安はあるが、愛工大名電(愛知)との準々決勝で先発し、5回1安打無失点と好投した左腕・斎藤蓉(3年)、長身右腕の高橋煌稀(2年)らが好調で心強い。高橋は鳥取商との2回戦で先発して5回を1安打無失点の快投を見せている。5人の力のある投手を擁し、それぞれが持ち味を発揮しているが、小刻みな継投は危険も伴う。須江航監督(39)の投手起用もポイントになるだろう。打線は長打力こそないが、橋本航河山田修也の2年生1、2番コンビは足も使え、攻撃に活気をもたらしている。

優勝経験校連続撃破の聖光

 対する聖光は春夏連続出場で、センバツ後の春の東北大会優勝校。福島大会で不振だったエース・佐山未来(3年)が本大会で完全復活した。左腕・小林剛介(3年)も状態はいい。強肩強打の捕手・山浅龍之介(3年)が投手陣を支え、遊撃手の1番打者・赤堀颯(3年=主将)とともに攻守両面でチームを引っ張る。3番・安田淳平(3年)、4番・三好元気(2年)には長打も期待でき、早い回に投手陣を援護したい。初戦の日大三(西東京)を2本塁打で逆転してから、横浜(神奈川)、敦賀気比(福井)という甲子園優勝経験校を連破した実力は本物で、準々決勝でも九州学院(熊本)を圧倒した。仙台育英より1試合多く、対戦相手も強豪続きだったが、投打とも春とは見違えるほど成長している。

古賀~仲井への必勝リレー確立する下関国際

 第2試合は、大阪桐蔭を破って勢いに乗る下関国際が、4強で地力随一の近江も飲み込むか。大阪桐蔭戦では、相手の攻撃を三重殺などでしのぎ、9回の逆転につなげた。先発左腕・古賀康誠(3年)から速球派右腕の仲井慎(3年)へつなぐ必勝パターンが確立されていて、7回までにリードを奪いたい。打線では、大阪桐蔭戦で逆転の決勝打を放った4番・賀谷勇斗(3年)ら上位打順の左打者に当たりが出ている。賀谷は昨春センバツでは下級生ながら主将も務めていた中心選手で、守備のミスを取り返す会心の一打だった。日程と対戦相手に恵まれたことはあるが、優勝候補の大本命を破って得た自信に勝るものはない。

星野快投の近江は山田に頼らず勝てるか

 近江は4強で唯一、大会前にA評価(スポーツ5紙)を並べたチームで、最速149キロ右腕の山田陽翔(3年=主将)をナインが支え、昨夏4強、今春準優勝に続く快進撃を見せている。ここまでの4試合はいずれも終盤まで競り合い、チームの疲労は色濃い。山田は高松商(香川)との準々決勝で右太ももの裏がつり、左腕・星野世那(3年=タイトル写真)の救援を仰いだ。星野が強打の浅野翔吾(3年=主将)を抑えて勝利を呼び込んだことで、チームの課題解消へ光が差した。センバツ後、山田に頼らないチーム作りを目標にしてきたが、準決勝ではその真価が問われる。体調不良で戦列を離れていた正遊撃手・横田悟(2年)の復帰がかなえば、さらに心強い。

まさか!大阪桐蔭の敗因は?

 大阪桐蔭の敗退は衝撃的だった。2回戦の19得点以降、攻撃がやや雑になっていた印象で、7回のバントエンドラン失敗からの三重殺、8回の好機での中心選手の連続三振など、とどめを刺せなかったのが響いた。エース・前田悠伍(2年)を中盤から救援させたが、リードを保っていたため、逃げ切れるという心のスキがあったかもしれない。また前田が先発していれば、打たれたとしても好調の川原嗣貴(3年)を投入するなど、違った展開になっていただろう。昨夏に続き、日程運に恵まれなかったこともあるが、川原を投げさせずに敗れたことは悔いが残る。これも、当時のエース・松浦慶斗(日本ハム)を起用せず敗れた昨年と重なる。

最強投打対決は浅野が山田に完勝

 投打の最強対決と期待された近江・山田と高松商・浅野の勝負は見ごたえがあった。最初の二塁打は泳ぎながらスライダーを左翼線へ運び、バックスクリーン弾は146キロ直球を打ち返した。3打席目の三遊間安打はスプリットかツーシームで、山田の決め球をことごとくとらえた申告敬遠もあって場内騒然となったが、そこから逆転した高松商の攻撃は見事。しかし立ち上がりから守る時間が長く、終盤に疲れが出て、失策が再逆転につながったのは惜しい。「完敗」と山田が潔く認めるほどの浅野の活躍を、高松商は生かしきれなかった。お互いにリスペクトし合っているようで、良きライバル関係はこれからも続く。

東北勢は12回、決勝で敗れる

 波乱の大会は残り3試合。甲子園の優勝空白県が解消されるか、とりわけ、107年前に秋田中(現秋田高)が敗れて以来、延べ12校が挑んで果たせなかった東北勢の甲子園優勝なるか、興味は尽きない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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