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あまりに強かった大阪桐蔭以外の?センバツ総括!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
桜の咲く中行われたセンバツ。大阪桐蔭の強さだけがクローズアップされた(筆者撮影)

 32校の中に1チームだけ規格外の存在があったセンバツ大会。大阪桐蔭はそれほどまでに強く、他を引き離していた。その段違いの強さに関してはすでに触れているので、今回は大阪桐蔭を除いて、今大会を総括してみたい。

選考会から大荒れだった今センバツ

 思い起こせば、1月28日の選考会から大荒れだった。東海地区準優勝の聖隷クリストファー(静岡)が選に漏れ、4強止まりの大垣日大(岐阜)が選出されたからだ。確かに驚きはしたが、選考会がどういうものかをわかっていれば「ない話ではない」というのが偽らざるところ。ただ、それに付随した選考委員の理由付けが火に油を注いだ。ネット全盛の弊害とも言うべきか「大垣日大は辞退すべき」などもってのほかで、「(聖隷を)33校目として選出すべき」など、開幕前まで収拾がつかない状態だった。一つ釘を刺すとすれば「明確な選考基準を設けるべき」という論調。それだと選考委員や選考会は不要になる。夏の選手権と違い、予選を持たないのがセンバツであり、あくまで招待試合であることをはっきりさせておきたい。

「代打」近江が感動の準優勝

 大会は、有力校に挙げられていた京都国際が直前のコロナ禍で出場を辞退したが、代わりに出場した近江滋賀勢初のセンバツ準優勝。その活躍ぶりと感動的なシーンの連続は、主役の大阪桐蔭を凌駕していた。「京都国際さんの思いも背負って」という多賀章仁監督(62)と、「嬉しいというよりいたたまれない気持ちがまさっていた」というエース・山田陽翔(3年=主将)の思いやりに満ちた発言も、ファンの心を打った。この近江が近畿のランク8位だから、いかに近畿勢が強いかを改めて印象付けた。もっとも、聖隷の陰に隠れて目立たなかったが、近江の落選も意外と言えば意外であった。4試合連続完投勝利の山田は決勝で力尽き、その酷使については否定的な意見も多かったようだが、これについては改めて考証したい。

佐々木は剛腕・米田に無安打

 今大会は3年生世代の層が薄く、「下級生カルテット」が昨秋から注目されていた。しかし、大阪桐蔭のエース・前田悠伍だけが別格で、あとの「強打3人衆」はインパクト十分とまでは言えなかった。特に花巻東(岩手)の佐々木麟太郎は両肩の手術明けで調整不足は明らか。全国屈指の市和歌山のエース・米田天翼(3年)に圧倒された。体にキレがなく、4打数無安打で、打てそうな気配すら感じられなかった。九州国際大付(福岡)の佐倉侠史朗は、クラーク国際(北海道)との初戦でサヨナラ犠飛を放ったが、決していい当たりではなく、センバツ3試合で11打数4安打2打点。長打はなく不発だった印象はぬぐえないが、広角に打てるうまさは見せた。

「強打3人衆」の本格化は夏以降か

 3人の中で、最も秋に近い打撃を見せたのが広陵(広島)の真鍋慧敦賀気比(福井)の好投手・上加世田頼希(3年)から3安打を放ち勝利に貢献すると、佐倉との直接対決となった九州国際大付戦では左腕・香西一希(3年)の巧みな投球術に的を絞れず、流し打ちの1安打のみ。強敵との2試合で7打数4安打と率は残した。期待された一発こそなかったが、逆方向へのいい当たりはあって、センスの片鱗をのぞかせた。3者ともマークがきつく、好投手と当たる不運もあって、真価を発揮するのは夏以降になりそうだ。まだ2年生。先は長い。

関東の若い監督が躍進

 準決勝で敗れた関東の2校は、いずれも若い監督が選手を伸びやかに動かしていた。浦和学院(埼玉)の森大(もり・だい)監督と、国学院久我山(東京)の尾崎直輝監督で、同じ31歳。森監督は、父の士(おさむ)さん(57)からバトンを受けたばかりだったが、豪快に振り切る打撃で本塁打を量産した。伝統の投手を軸にした堅守は士さんから継承し、合理的な練習で攻撃力をアップさせた。エース・宮城誇南(3年)の調子を見極め、他の投手で挑んで近江に屈したが、大阪桐蔭とも戦わせてみたかった。久我山は尾崎監督の「全員で1点を取りに行くスタイル」が浸透し、犠打と長打を絡めて巧みな試合運びを見せた。投手起用も柔軟で、大敗した大阪桐蔭戦も、最後まで諦めない敢闘精神は立派だった。

相変わらず層が厚い近畿勢

 決勝カードがそうであったように、昨夏に続き、近畿勢が強かった。市和歌山は米田の活躍で花巻東、明秀日立(茨城)の地区王者を倒したし、金光大阪は、エース・古川温生(3年)が大きく成長していた。タイブレークにもつれ込んだ木更津総合(千葉)戦は敗色濃厚だったが、諦めずに連続押し出しで逆転サヨナラ。8強に沸く選手たちの歓喜の涙は尊い。両校とも近畿対決に敗れて行く手を阻まれたが、延長で初陣を飾った和歌山東を含め7校中5校が初戦突破。相変わらず近畿勢は層が厚い。

退任する監督の試合を実況

 星稜(石川)は、天理(奈良)との初戦で主力投手が負傷したものの、2回戦で大垣日大に快勝し、退任する林和成監督(46)に8強をプレゼントした。

星稜の林監督はセンバツを最後に勇退。奥川恭伸(ヤクルト)を擁しての夏準優勝など、数多くの名勝負を演じた(筆者撮影)
星稜の林監督はセンバツを最後に勇退。奥川恭伸(ヤクルト)を擁しての夏準優勝など、数多くの名勝負を演じた(筆者撮影)

 実況していても胸が熱くなるくらい、選手たちの思いがひしひしと伝わってきて、師弟の結びつきの強さが感じられた。同じく今大会で監督を退く東洋大姫路(兵庫)の藤田明彦監督(65)は、高知に惜敗。試合後「2点を返した時にはこみ上げるものがあった」という話を聞き、最後まで熱い人だったと思った。藤田さんには大会前から取材させていただき、50年にわたる野球人生を教えてもらった。幸運にも実況の機会に恵まれたことを伝えると「嬉しいなあ」と喜んでいただけた。藤田さんに負けないくらい「熱い実況」ができたと自負している。

京都国際の森下には可能性が

 さて、戦いはもう夏に向かっている。前回も触れているが「打倒大阪桐蔭」を果たすチームが出現するか。今大会に出たチームでは、山田が万全な状態の近江と打力で迫る浦和学院は投手も多彩。この両校が可能性を感じさせる。

昨夏4強の京都国際はエース・森下が健在の夏に懸ける。近江・山田との熱い友情も話題になった(筆者撮影)
昨夏4強の京都国際はエース・森下が健在の夏に懸ける。近江・山田との熱い友情も話題になった(筆者撮影)

 まずは大阪桐蔭打線の勢いを止めないとどうしようもないのだが、出場辞退の京都国際は、エース・森下瑠大(3年)が本来の投球をすれば、3点くらいに抑える力がある。夏に対戦を見たいものだ。

「負けからのスタート」が甲子園

 春は調整が難しく、エンジンがかかる前に姿を消すチームも少なくない。木更津総合にタイブレークで敗れた山梨学院はもっと見たいチームだったし、九州国際大付に延長で敗れたクラークもしかり。エース・冨田遼弥(3年)が大阪桐蔭打線の前に立ちはだかった鳴門(徳島)は、練習試合もできず1-3の惜敗。これはもう不運としか言いようがない。大阪桐蔭の西谷浩一監督(52)が優勝インタビューで「夏に近江高校さんに負けて、チームがスタートした」と話した。負けからはい上がるのが甲子園。甲子園は待っている。たくましくなった彼らを。また夏に会おう!

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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