Yahoo!ニュース

あまりに異例だった今夏の甲子園! 問題山積。まずは「継続試合」導入から

森本栄浩毎日放送アナウンサー
夏の甲子園は智弁和歌山が優勝。同時に、大きな問題も浮き彫りになった(筆者撮影)

 とにかく、異例なことだらけの大会だった。7度の順延が史上最多なら、優勝した智弁和歌山は、わずか4勝(不戦勝除く)で頂点へ。準優勝の智弁学園(奈良)が5勝したのに、という「逆転現象」が起こった。コロナと長雨にさらされ、多くの問題も浮き彫りになった大会は、ルール変更待ったなしの印象を与え、これからの高校野球のあり方に一石を投じる。

フラットな状態でやらせたかった準決勝、決勝

 智弁和歌山の優勝にケチをつけるつもりは毛頭ないが、準決勝、決勝を見ていて感じたのは、「フラットな状態で戦っていたら、もっと接戦になったのではないか」ということである。近江(滋賀)は、今大会出場校で最も日程的に不利な5日目での1回戦登場になった。おまけにノーゲームにさらされ、準決勝までに戦ったイニングは41回。智弁和歌山は不戦勝があってわずか18回で、消耗度の差は歴然としていた。1点を追う5回裏、近江がバント併殺で流れを手放すと、6回表に2死から智弁和歌山が突き放す。その裏から急に近江の攻撃が淡白になった。それまできわどい球をよく見極めていたが、ボールになる変化球の空振りが目立つ。体力が限界に達していて、気力がついていかなかったように映った。

智弁和歌山は完璧な試合を続けた

 決勝も、準決勝とよく似た展開だった。初回に智弁和歌山が4点を先制し、智弁学園が2点差に追い上げる。しばらく膠着状態が続いたのも準決勝と同じだ。智弁学園が4回の同点機を逃すと、6回表に失策絡みで1点を失う。そこからは堰を切ったように智弁和歌山が得点した。最終的に7点の大差がついたが、これは実力差ではない。猛暑がぶり返した大会終盤で、2試合分の消耗の差が、近江にとっても智弁学園にとっても全てだった。ただし、同条件でも勝敗が逆になったとまでは言わない。それほどまでに智弁和歌山は攻守とも完成度が高く、抜群に強かった。4試合で相手にリードを許した場面はない。県大会の市和歌山との決勝から甲子園まで、全てが完璧な試合だった。

「球数制限」で投手起用に迷い

 今大会は、不公平さにおいても異例だった。日程の有利不利が、終盤の試合内容に直結した。その伏線は、「球数制限」にある。大会の序盤から順延が続いて、3日あった休養日が1日に減少し、指導者は投手の球数制限を意識せざるをえなくなった。2回戦で近江に敗れた大阪桐蔭が、投手交代をためらったのも、球数制限が影響している。決勝戦から逆算して起用を考えるのだが、2回戦を迎える段階で、7日間で5試合を強いられることが決まっていて、大阪桐蔭ほどの強豪でも、やりくりに四苦八苦していた。

近江の山田は546球

 今大会を最も盛り上げたのが近江だ。大阪桐蔭戦の「金星」のあとも強豪を連破し、実力が本物であることを証明した。エース・山田陽翔(2年)は投打にわたる活躍で、筆者は今大会のMVPは山田だと思っている。それはさておき、山田はノーゲームでの投球も含め、6試合で546球を投げた。「一週間500球以内」ルールには抵触しないが、抑えの岩佐直哉(3年)の状態が思わしくなく、もし一週間ルールに当てはめれば、決勝では85球しか投げられなかった。抽選が終わった段階で、影響を受けるチームがはっきりしているので、特定のチームが、最初から不利になるルールである。さらに、影響を回避するために設定した休養日を消滅させてしまえば、ルールの不備を自らバラしているようなものだ。

センバツで「継続試合」導入へ舵を切るか

 さらに近江にとって不利だったのは、ノーゲームがあったことである。試合はしたことになっていないが、投げたことにはなるという矛盾が露呈し、批判が集中した。高野連の小倉好正事務局長(63)が、「継続試合=サスペンデッド」導入に含みを持たせる発言をしたことから、動きが加速しそうなのは大歓迎である。そもそも、タイブレークを導入する際にも議論があり、興行面の課題(1回で試合が終わる可能性もある)から棚上げされていた経緯がある。しかし、「選手ファースト」こそがルールの根幹にあるべきだし、興行的にも、満員のスタンドはしばらく望めそうもない。雨の影響が必ずあるセンバツを前に、「継続試合」導入に向けて舵を切ってほしい。

個人差大きく、条件が違っても同じルールで縛る

 あと「一週間500球」ルールについても触れたい。今大会で最も多く投げた近江の山田は、敗れた試合の5回に、自己最速タイの146キロをマークした。現在の彼の体調はわからないが、少なくとも、試合中に異変を感じさせるような様子はなかった。一方、先輩の岩佐は、山田の3分の1ほどの194球しか投げていないが、ヒジに変調をきたし、準決勝での登板を回避した。これだけの個人差があるのに、一律でこのルールを当てはめるのはどうかと思う。物理的な数字で縛るなら、休養日の確保など、条件が同じでないといけない

低反発金属バットはどうなる?

 もう一つは、打撃優位の時代、投手を守る手段として、「低反発金属バット」をいち早く導入してもらいたい。すでに検討段階とは聞いているが、アメリカでは10年前から木製と同程度しか飛ばない金属バットを使っていると聞く。また、国際大会におけるU18世代の苦戦の原因が、木製バットへの対応力不足であることは明らかで、将来、プロをめざすような選手なら、魔法のバット(従来の金属バット)で飛距離を伸ばすより、飛ばないバットで技術を磨いた方がいい。野球は相手より多く得点したチームが勝つ。しかし、0点に抑えれば負けることはない。投手を守ることを真剣に考えさせられた大会でもあった。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事