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新戦力でチーム激変!  センバツ今年の傾向

森本栄浩毎日放送アナウンサー
センバツが開幕。新戦力でチーム力アップが今年の傾向になりそうだ(筆者撮影)

 センバツが始まった。仙台育英(宮城)の島貫丞主将(3年)の選手宣誓は3分12秒にも及び、おそらく甲子園史上最長だっただろう。2年分の思いを乗せたメッセージは、感動的だった。そして試合も白熱し、序盤戦からヒートアップしている。

いつもと違うセンバツ

 感染症対策として、観客の上限設定や、選手、チーム関係者へのPCR検査実施、試合後のリモート取材など、様々なプロセスがいつもと全く違い、多くの制約がある中、戦い方にも大きな変化があることに気づかされた。それは、新戦力の台頭と監督の思い切った采配だ。

センバツは秋の延長線上か

 高校野球では、しばしば「スーパー1年生」などと呼ばれる新入生の加入で、劇的にチームが強くなることがある。しかしそれは夏の大会に限ったことで、センバツは秋の延長線上にある大会という位置づけだ。したがって、秋と同じメンバーで戦うチームが、圧倒的に多い。しかし、今年はその傾向に変化が出ている。

公式戦初出場並べた神戸国際大付

 開幕試合は、神戸国際大付(兵庫)と北海(北海道)の好カードになった。前日、神戸国際の青木尚龍監督(56)に電話を入れると、「秋には出ていない右打者を使う」と言われた。昨秋は左投手に苦戦することが多く、北海の好左腕・木村大成(3年)との対戦が決まってから、右打者の調子を見極めていたようだ。実際にスタメンを見ると、秋にはベンチ外だった板垣翔馬(2年)と山里宝(2年)が名を連ね、松尾優仁(2年)とともに3人の公式戦初出場選手が起用されていた。

エース降板も急成長2年生が救う

 試合は神戸国際のエース・阪上翔也(3年)のヒジの状態が思わしくなく、2回途中で左腕の楠本晴紀(2年)が早々とマウンドに上がることになった。楠本も秋の近畿大会はベンチ外で、今大会のベンチ入りは当落線上だった。それが「木村対策」としてシート打撃などで登板するうちに、短期間で何かをつかんだのだろう。「今、一番調子がいいので、阪上がダメなら楠本」と青木監督は早期登板を示唆していた。いきなり押し出し四球(自責は阪上)は与えたが、下級生左腕は中盤を締め、相手に流れを渡さなかった。

準備期間長く思い切った起用

 中盤まで木村を全く打てなかった打線も、5回に板垣がチーム初安打を放って勢いをつけると、9回には松尾が安打で同点機を演出するなど、初出場選手が全員、期待に応えた。こうして、秋とは別チームのように変貌した神戸国際は、中盤までの劣勢を一気に覆し、延長でサヨナラ勝ちした。この奇策ともいえる選手起用には伏線があった。それは抽選会が早く終わっていたため、準備期間が長かったことである。

仙台育英や天理も初出場選手活躍

 「今大会はいつもより情報が多い」と話すのは、仙台育英の須江航監督(37)だ。コロナ対策のために、抽選会は例年より20日ほど前倒しされ、2月23日に終わっている。相手を研究する時間はたっぷりあった。神戸国際の相手が、右の好投手だったら、この日に活躍した選手たちはどうだっただろう。こうした傾向は、神戸国際に限ったことではない。1-0で明徳義塾(高知)に勝った仙台育英で、決勝打を放った遠藤太胡(2年)も公式戦初出場だったし、宮崎商を破った天理(奈良)に、先制点をもたらした木下和輔(3年)は、昨秋、ベンチにも入っていなかった。

東海大相模は直前までベンチ外が先発好投

 これまでのセンバツではありえなかった初戦の同地区対決でも、駆け引きがあった。関東大会準々決勝で当たった東海大相模(神奈川)と東海大甲府(山梨)は、情報が多いどころではなく、実際に対戦しているので、お互いの力量を選手たちが体感している。相模の門馬敬冶監督(51)は、開幕直前までベンチ外だった右腕の石川永稀(3年)を先発マウンドに送った。これには甲府の村中秀人監督(62)も、「まさかと思った」と驚きを隠せず、甲府打線は7回までわずか3安打と沈黙。試合は、門馬監督の「3回までもってくれれば」という願いを大きく裏切る?石川の踏ん張りで、延長の末、相模が関東大会の借りを返した。

選手の頑張りを見極める監督の力量

 高校生は急激に伸びる。それを見極め、チーム力を向上させるのは監督の力量だ。選手たちは皆、甲子園でのプレーを夢見て冬場の厳しい練習を乗り越えてきた。天理の木下は、「打力が持ち味なので、冬場にしっかり振り込んで、絶対にベンチ入りしようと思っていた。勝ちに貢献できて嬉しい」と話した。「練習試合でも調子がよかったから」と、起用した中村良二監督(52)の目に狂いはなく、師弟ともに次戦以降も乗っていける最高の結果になった。

選手たちが例年より伸びたこの冬

 それにしても、準備期間が長かったことだけで、ここまで思い切った起用ができるものだろうか。振り返ると、今の選手たちは、一番伸びる春から夏にかけて、試合はおろか練習すらできない状況が続いた。一番伸びたのが、この冬だったのではないか。コロナ禍という未曽有の事態にあって、これまでの概念が通用しない世の中になった。皮肉にも、この成功例は、コロナがもたらしたと言えなくもないような気がする。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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