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近江の黄金バッテリー健在! 16年ぶり近畿王者に!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
昨夏甲子園8強の近江が延長の死闘を制して近畿王者に。甲子園へ弾みが(筆者撮影)

 「まだいけるやろ。お前しかおらへん。打たれたらしゃあない」。降りしきる雨の中、マウンドに歩み寄った近江(滋賀)の主将・有馬諒(3年)は、1年秋からコンビを組んでいる林優樹(3年)の頭に手をやってそっと肩を抱いた(タイトル写真)。春の近畿王者を決める神戸国際大付(兵庫)との一戦は、4-4から延長にもつれこむ死闘となった。11回表に近江が3点を奪ったが、国際もあきらめない。1点を返し、2死満塁で前日の準決勝で2本塁打を放った3番・柴野琉生(3年)を打席に迎える。逆転サヨナラもありうる場面。一瞬、昨夏の悪夢が脳裏をよぎった。

悲劇のバッテリーが土壇場で力

 昨夏・甲子園の準々決勝・金足農(秋田)戦。1点リードし、内容的にもかなり押していたがダメ押し点が奪えず、迎えた9回裏。まさかの2ランスクイズを決められ、4強を逃した。有馬はホームプレート上で突っ伏したまま起き上がれず、林は泣き崩れた。2年生バッテリーの若さが出た。秋はこの林ー有馬の「黄金バッテリー」を軸に新チームが始動。県大会は難なく1位通過したが、肝心の近畿初戦で報徳学園(兵庫)に逆転負け。球審のストライクゾーンに苦しみ、8回で150球を投げた。救援する投手はおらず、主砲・北村恵吾(中大)の抜けた打線も沈黙。投打の課題が浮き彫りになった。この日の試合も、リードした直後に追いつかれる苦しい展開で、最後まで林に頼るしかなかった。それでも数々の修羅場をくぐりぬけてきた黄金バッテリーの経験が土壇場で生きた。

優勝が決まった瞬間、林はガッツポーズ。橿原公苑に絶叫がこだました。U18日本代表候補でもある林は、2年連続の夏の甲子園に弾みをつけた(筆者撮影)
優勝が決まった瞬間、林はガッツポーズ。橿原公苑に絶叫がこだました。U18日本代表候補でもある林は、2年連続の夏の甲子園に弾みをつけた(筆者撮影)

 「林は右打者の方が得意」という有馬の強気のリードで柴野を追い込むと、最後は「伝家の宝刀」チェンジアップを低めに要求。絶妙のコースで柴野を二飛に打ち取ると、林は渾身のガッツポーズで喜びを爆発させた。

打線強化の課題は克服

 前日の智弁学園(奈良)戦は、林が好投し、9回に3番・住谷湧也(3年)の逆転サヨナラ3ランでエースの奮闘に応えた。決勝は、連投のエースを打線が力強く援護。林を除く全員が計15安打を放ち、打線看板の国際に7-5で打ち勝った。春の近畿大会優勝は16年ぶりとなる。有馬は、「この大会では、甲子園で活躍した住谷はさらにいい働きをしたし、今まであまり結果が出ていなかった5番の板坂(豪太=3年)も頑張ってくれた」とエースを援護した打線を評価した。

甲子園最高打率記録保持者の打撃はやはり別格。この日も5安打で、ヒットならいつでも打てるような雰囲気。長打力もついて、高校通算17本塁打だ(筆者撮影)
甲子園最高打率記録保持者の打撃はやはり別格。この日も5安打で、ヒットならいつでも打てるような雰囲気。長打力もついて、高校通算17本塁打だ(筆者撮影)

 住谷は前日の逆転サヨナラ弾に続き、2試合連続アーチ。この日は5打数5安打で、近畿大会3試合で13打数10安打は、昨夏、歴代最高打率となった.769と全く同じ。板坂は、2度の満塁の好機にいずれも適時二塁打で5打点の大活躍だった。高いレベルの投手戦と打撃戦を勝ち切れたのは大きい。攻撃陣にメドは立ったが、もう一つの課題は解消し切れていない。

林に次ぐ投手は出現せず

 この日の林は11回を150球。前日の智弁学園(奈良)戦でも、128球で完投していて、さすがに疲労の色は隠せず、強打の国際に16安打を浴びて5点を失った。それでも、「9回が終わったときに、監督さん(多賀章仁監督=59)から、『体調はどうか』と声を掛けてもらったが、『最後までいきます』と。絶対、投げ切ろうと思っていた」とエースのプライドを見せた。「体も重かったが、粘りの投球ができた。夏は自分しかいない。もっと暑いし、連戦になるので」と晴れやかな表情で夏の本番を見据えた。

近畿大会優勝旗を手にした有馬。奈良市出身で、この日は家族も応援。「スタンドにいるのが見えた」と照れた(筆者撮影)
近畿大会優勝旗を手にした有馬。奈良市出身で、この日は家族も応援。「スタンドにいるのが見えた」と照れた(筆者撮影)

 有馬も、「夏を想定して、競り勝つ野球ができたのは収穫。ただ、林以外の投手が出てこないと」と課題を口にすると、表情が引き締まった。打線強化は成果が出ているが、エースにおんぶにだっこの状態はチームスタート時と変わらない。昨夏は、林以外に3人の力のある上級生がいて、豪華な陣容だった。今大会も1回戦で2人の控え投手が登板したが、結局は林の救援を仰ぐ羽目に。エースとの差は開く一方だ。

悲願の甲子園優勝へ

 春の滋賀大会は打線が低調だったが、レベルの高い近畿大会で結果が出て、多賀監督を喜ばせた。住谷は高校通算本塁打を17本まで伸ばしたが、うち11本が3月以降に放ったもので、打線の軸に成長しつつある。春以降の対外試合の内容を見る限り、力は昨年よりある。しかし、夏のタフなトーナメントを勝ち抜くには、林に次ぐ投手の出現は不可欠。悲願の甲子園優勝へ、残された時間は長くない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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