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高校日本代表「侍ジャパン」完敗! その敗因は?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
高校侍ジャパンが韓国に続いて台湾にも敗れ、優勝を逃した。その敗因は?(筆者撮影)

 高校世代のアジアナンバーワンを決める「第12回 U18アジア野球選手権大会」が宮崎市で開かれ、日本代表「侍ジャパン」は、一次ラウンドのライバル・韓国戦に続き、スーパーラウンド初戦で、格下とみられていた台湾にも敗れ、決勝進出を逃した。甲子園直後で、選手の疲労やチーム編成の遅れなどの要因はあるだろうが、あまりにも打てなさすぎた。

韓国に敗戦も 決勝での再戦を想定

 一次ラウンドの韓国戦は、ある程度苦戦するだろうと思われていた。それまで2試合の相手投手レベルがひどすぎて、打線の状態を正確に測れず、韓国の強力投手陣と激突することになったためだ。果たして韓国の先発左腕に5回まで2安打無得点と抑えられた。立ち上がりに先発の吉田輝星(秋田・金足農)が、韓国4番に3ランを打たれていたため、中盤まで主導権を握れなかった。ようやく6回に代わった右投手から1点を返したものの、8回途中から出てきた長身横手投げの速球派投手には手が出ず、3-1で逃げ切られた。日本投手陣も吉田の1球の失投をとらえられただけで、韓国打線には合計3安打(日本は5安打)しか許していない。決勝で韓国との再戦があると仮定していれば、結果は想定内で、相手投手の力量は肌で感じられたはずだ。試合後、主将の中川卓也(大阪桐蔭)は、「絶対に負けるという相手ではない。チャンスで1本出なかっただけ」と敗戦を前向きにとらえていた。実際に韓国も日本の投手を打ったわけではなく、内容的にも完敗という印象ではなかった。

台湾戦、同点で吉田投入

 その思惑が、まさかの形で崩れ去った。一次ラウンドで日本と別グループだった台湾は、同グループの中国に1-0で辛勝していて、投手のレベルは高いが打線は韓国よりかなり下とみられていた。この日の台湾の先発も、韓国同様、技巧派左腕。韓国の投手よりもまとまった印象で、走者を置いて仕掛けやすいタイプだ。永田裕治監督(54)は、それまで4番だった藤原恭大(大阪桐蔭)を1番にし、小園海斗(兵庫・報徳学園)を2番に据えた。昨年も下級生ながら「ジャパン」のユニフォームに袖を通し、ここまでチームを牽引してきた2人に勢いをつけてもらおうという意図がうかがえる。先発の柿木蓮(大阪桐蔭)が2回に3安打を浴びて先制されるが、ライト・根尾昂(大阪桐蔭)の好返球で最少失点に食い止め、4回、反撃に出た。小園がバント安打で出塁すると、この日4番に起用された野尻幸輝(千葉・木更津総合)の右中間飛球を外野手が譲り合って二塁打となり、一気にチャンスが拡大した。続く中川の犠飛で同点とし、満を持して吉田が4回のマウンドに上がった。

吉田いきなり失点で、台湾にも苦杯

 吉田は韓国戦同様、入りが悪かった。同点もつかの間、下位打者に小技も駆使されて2点を失ってしまう。この日の吉田は5回を投げて4安打しか許さなかったが、失点した回に3安打を集中され、課題を克服できなかった。それ以上に問題なのは打線だ。同じ左腕に5回以降、すべて三者凡退と完全に沈黙した。低めに制球されていたとは言え、140キロを超える速球とスライダーのコンビネーションに飛球アウトが12を数えた。球数制限がある大会で、「簡単にアウトにならないような攻撃をしないと」と話す永田監督の言葉とは裏腹に、わずか102球で完投(2安打)を許したのだった。一次ラウンドの成績が持ち越されるため、日本は2敗となり、2勝の韓国、台湾が決勝進出を決め、日本は3位決定戦に回ることが決まった。韓国戦と同じ1-3のスコアも内容的には完敗で、韓国との再戦はおろか、まさかの結果に選手はうなだれるしかなかった。

打線を組み替え、左打者が並ぶ

 敗因はいくつかあるだろう。甲子園直後で疲労もあったはずだ。チームとして熟成する前に、大会に入ったのも力を発揮することなく敗れた原因の一つだろう。しかし、あえてここはチーム構成に触れてみたい。この日は打線を組み替えたが、先頭の藤原から、小園、根尾、野尻、中川、蛭間(拓哉=埼玉・浦和学院)まで6人の左打者が続く。一次ラウンドでは1番・小園のあとに奈良間大己(静岡・常葉大菊川)を入れて左右の1、2番コンビだったが、この時も中軸は大阪桐蔭の中川、藤原、根尾に打たせていた。つまり、大会を通して右打者がきわめて少ない打線だったと言えるのだ。甲子園期間中、チーム編成に苦慮していた永田監督に尋ねたことがあった。球数制限のある今大会は、「根尾のように投手もできるいわゆる『二刀流』を入れたい。投手はいくらいてもいい」と話していた。この日の4番の野尻は、第1戦で先発起用され、「投げても打っても信頼できる」(永田監督)と、根尾に劣らぬ存在感を示していた。しかし根尾も野尻も「右投げ左打ち」だったのだ。

左打者に偏ったチーム構成

 左が多いと言っても、今大会の出場選手で将来、プロで4番を打てるような選手は見当たらない。藤原にしても1番が最も適しているし、根尾も1~3番タイプだ。ましてや、右は奈良間、日置航(東京・日大三)、峯圭汰(長崎・創成館)と捕手の小泉航平(大阪桐蔭)しかおらず、いずれも好打者タイプで、いわゆる「スラッガー」ではない。韓国や台湾が迷わず左腕を先発させたのは、客観的に見ても理にかなっている。メンバー発表当初から、右の強打者がいない印象を持っていたが、ここまで打てないと、「やはり」と思わざるを得ない。

近江・北村か徳栄・野村の選出はなかったか?

 今夏の甲子園で、右の強打者は不在だったか?4試合すべてで打点を挙げ、智弁和歌山戦で2本塁打の北村恵吾(滋賀・近江)と、昨夏の優勝に貢献し、今大会は投手としても活躍した野村佑希(埼玉・花咲徳栄)は、チームの4番として十分な働きをしていた。個人的には、北村か野村はメンバーに入っているだろうと思っていたし、体も大きな彼らが中軸に座っていれば、相手投手にプレッシャーをかけられたのではないか。守備位置が他選手とかぶったり(北村は三塁か一塁、野村は一塁だが、大会ではDH起用も可能)、投手を多くするための人数的な制約があったかもしれないが、右の強打者を一人でも入れていたら、という思いは拭えない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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