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廃部危機!? あのPLが見られなくなるのか

森本栄浩毎日放送アナウンサー
名門PL学園野球部の輝かしい歴史にピリオドが打たれるのか。運命の近畿大会は目前だ

数々の有名プロ野球選手を輩出し、天下に轟く「PL学園」。高校野球界の象徴とも言うべき名門が廃部の危機にさらされている。10月11日、サンケイスポーツに衝撃的な見出しが躍った。夕刊では全国紙も追随した。名門野球部に、一体何があったというのか?

異例の監督不在長期化

事の発端は、監督不在が1年半以上続いていることによる。昨年4月、不祥事(上級生による暴行)の責任をとる形で、前監督が辞任。その後はOBの深瀬猛氏(45)がコーチとして連日、指導に当たっている。しかし、あくまでもコーチにすぎず、公式戦でベンチに入ることは許されない。ゲームプランはコーチが立てるが、控えの選手を中心に、サインを出す者やブルペンに指示を出す者など役割を決めて試合に臨む。始まってしまえば、ベンチの選手たちだけで戦況を見極めることになる。昨秋、PLは大阪2位で近畿大会に出場。福知山成美(京都)に2-3で初戦惜敗(タイトル写真参照)した。内容的には互角で、投手交代機やスクイズ敢行のタイミングなど、ベテラン監督でも迷うほどの緊迫した場面がいくつもあった。試合後、深瀬氏は、「スクイズをやっていい場面もあった」と振り返ったが、敗戦を選手の責任にはできない。今夏も同様の状況で、全国優勝の大阪桐蔭に次ぐ府準優勝。全国レベルの力を持ちながら甲子園に届かなかった結果に、保護者の不満は大きかったと聞く。

単純でない監督問題

立派なコーチがしっかり指導しているにもかかわらず、どうしてこれだけ長く監督不在が続いているのか?「深瀬さんが監督になればいい」と誰もが思うだろう。しかし、PLの監督問題はそれほど単純なものではない。この件に関して、PLは一切の取材を拒絶しているため、推測を交えて記すが、歴代監督は職員(PL教団職員)か学園の教諭に限られていた。学園はPL(パーフェクトリバティー)教団という宗教法人が設立したもので、野球という華やかな一面からは想像できないほど、部活動や学校教育の根底部分は宗教色が濃い。深瀬氏は会社経営の傍ら、時間を作って指導に当たっているが、ひとりのOBであっても、学園及び教団から見ればあくまで「部外者」になる。報酬も得ていないはずだ。現状、学園にも教団にもふさわしい人物がいないというのが真相ではないかと思う。現在はプロ野球経験者でも、簡単な講習を受けるだけで高校野球の監督になれる。全国どこの高校よりも多くのプロ選手を輩出し、野球界を支えてきたPLに監督がいないとは、何とも皮肉な話ではないか。

新入部員不在なら存続は?

学園は保護者に対し、「監督適任者不在のまま十分な指導ができず、学園の教育方針に反すると判断し、新年度野球部員の受け入れを停止することにしました」という旨の文書を郵送した。

野球経験のない正井校長は、昨秋の近畿大会でも監督としてベンチで選手を見守った
野球経験のない正井校長は、昨秋の近畿大会でも監督としてベンチで選手を見守った

理事長とともに、野球部監督も兼ねる正井一真校長(67)の連名で送付されたものだ。現在の2年生と1年生が卒業してしまえば、部の存続は危うくなる。再来年度については「白紙」を強調しているようだが、よほどの好転がない限りは再開は難しいと見る。高校野球は3学年揃って、チームとして成立する。2学年だけの秋の新チームはセンバツで花開くが、1年間の集大成は夏の選手権だ。1年生が活気をもたらすチームは劇的に強くなる。その意味では、PLが4月から劇的に強くなることはない。さらに、一旦、部員が不在になれば、再起は極めて困難で、最悪「廃部」もあり得る。したがって、2学年揃って臨める次のセンバツが、事実上最後の甲子園チャンスと言っても過言ではない。新チームは、近年、大阪桐蔭と2強を形成する履正社を破るなど進撃を続け、大阪2位で近畿大会出場を決めた。

「永遠の学園」は近畿大会に全てを懸ける

14日、近畿大会(18日から、京都わかさ)の組み合わせ抽選が行われ、PLは開幕試合で近江(滋賀1位)と対戦することになった。甲子園での格ははるかに劣るが、直近の夏の選手権で完封勝ちを収めている145キロ右腕小川良憲(2年)ら多くの甲子園経験者を擁する今チームの近江は、かなり手強い。新入部員受け入れ停止のニュースが、近畿出場決定後だったタイミングも非常に悪かった。選手に影響がないはずがなかろう。甲子園通算37回出場して、96勝は中京大中京(愛知)に次ぐ歴代2位タイ(龍谷大平安=京都も96勝)。

マウンドで祈る高校時代の前田健太。今でもおなじみの光景だ。05年10月23日大阪・舞洲
マウンドで祈る高校時代の前田健太。今でもおなじみの光景だ。05年10月23日大阪・舞洲

甲子園では、大事な局面で選手が胸に手を当て、「お祈り」をする姿が見られた。相手チームはこの姿に動揺し、しばしば「奇跡の逆転」を許した。若いOBで最も活躍している広島の前田健太(26)は、今もマウンドで必ずこの仕草をしている。統制のとれた鮮やかな人文字での応援、「PL GAKUEN」の珍しい二段文字のユニフォーム、同校が高校球界に与えた影響は計り知れない。近江との初戦は、同校の歴史が大きく変わる可能性を秘めている。敗戦は、即「センバツアウト」を意味する。ファンはPLが、校歌の最後のフレーズ「永遠(とわ)の学園」であることを信じている。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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