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今センバツ、近畿勢が巻き返す

森本栄浩毎日放送アナウンサー

昨年は、春夏とも近畿勢の不振が目立った。センバツでは大阪桐蔭だけが初戦突破したものの、8強に近畿勢の名がなく、夏も桐蔭と西脇工(兵庫)の2校が初戦突破しただけ。とりわけ春は地元チームの活躍が観客動員に直結するだけに、安閑とはしていられない。昨年もセンバツに関してはかなり活躍が期待されていた。実際、完敗したチームはなく、紙一重での勝負弱さが出てしまったようだ。今大会の近畿勢は昨春に続く出場が3校、夏に続く出場も1校ある。昨年の甲子園ではそのいずれもが初戦敗退という苦い経験をしていて、今大会は確実に巻き返してくるはずだ。(文中表記は新学年)

龍谷大平安は実に70回目の出場

近畿大会で11年ぶりに優勝した龍谷大平安(京都)は、春夏通算70回目という節目を迎える。夏優勝3回を誇る古豪も、センバツに関しては決勝進出すらない。昨春は、初戦で早稲田実(東京)に逆転負けを喫した。新チームはなかなか主戦投手が決まらず、京都決勝で好投した左腕が故障と、不安を抱えての近畿臨戦だった。救世主となったのが左腕の高橋奎二(2年)。

「明るい性格で前向き」と原田監督が期待する高橋奎が古豪復活のカギを握る
「明るい性格で前向き」と原田監督が期待する高橋奎が古豪復活のカギを握る

右足を大きく上げ、細身の身体をいっぱい使って投げ込む。原田英彦監督(53)が、「ストライクはいくらでも取れるんですが、ピッチングのコツを覚えたのが大きい」と言うことで、初戦の近江(滋賀)との試合で先発に抜擢された。雨でグラウンド状態はよくなかったが、守備力の高い野手陣を信頼して丁寧に投げたのが奏功。あわや完封という快投で期待に応えた。本番でも主戦格となる。右腕中田竜次(3年)は右の本格派で高橋とはタイプが違い、強打の智弁学園(奈良)で好救援して自信をつけた。「打てるチーム」と原田監督が自信を持つ打線はつながりが良い。先頭の徳本健太朗(3年)は13盗塁(13試合)の俊足で、出塁すれば相手バッテリーは確実に消耗させられる。下位も長打力があり、守備力も含めた総合力は昨年を大きく上回っていて、「70回はすごい数字。改めて先輩方に感謝しています。節目の年に優勝しかない。選手にも常に(優勝を)意識させています」と原田監督も力が入っている。

伝統の強打線復活 智弁和歌山

昨年は春夏ともに甲子園を逃し、「夏にあれだけ練習したのはいつ以来やろ」と高嶋仁監督(67)が話すほど、秋の近畿大会で智弁和歌山は気合が入っていた。初戦の市川(兵庫)をコールドで圧倒すると、準々決勝では初の甲子園に燃える奈良大付も一蹴。続く報徳学園(兵庫)にも猛打を浴びせて3試合連続のコールド勝ちを収めた。近畿4試合全てで2ケタ安打を記録した打線の迫力は、全盛期を彷彿とさせる。「好球を逃さず、チャンスでたたみ掛けられるようになってきた」と高嶋監督も手応えを口にする。平安同様、投手が課題と見られていたが、秋は県大会から惜しげもなく投手を送り込んだ。公式戦に登板した投手は7人。交代機と見るや躊躇せず投入できる陣容は、他校から見ればうらやましい限りだ。

秋に背番号1を背負った東妻は球威で好救援を見せた
秋に背番号1を背負った東妻は球威で好救援を見せた

主に右腕の中野嶺(2年)と東妻(あづま)勇輔(3年)が近畿大会では力を発揮したが、故障していた左腕の斎藤祐太(2年)が復帰すればさらに心強い。リードする捕手の西山統麻(2年)は、その非凡な打撃も含めドラフト候補に挙がってくる逸材で、浮沈のカギを握る。秋は和歌山大会で苦戦が続きチーム力は安定していなかったが、近畿大会ではすっかりモデルチェンジするなど、選手の質の高さは変わらない。投手の軸はまだ決まっていないと思われるが、調子のいい投手から起用できるなど質、量とも豊富なだけに、ベテラン高嶋監督の手腕も注目される。投打に渡ってスケールアップした今チームは、昨年不出場のうっ憤を晴らすかのように暴れまくるだろう。

堅実 履正社は勢いに乗れるか

4年連続となる履正社(大阪)は堅実な野球が持ち味。苦しい試合でも負ける雰囲気を出さなかった。豊富な練習量に裏打ちされた守備力が若い投手陣を支え、優勝を狙う。投手陣はオール2年生トリオ。主戦は171センチの右腕、溝田悠人で、大崩れしない安定感が魅力。キレのいい縦横のスライダーとチェンジアップを駆使して、ピンチでは狙って三振も取れる。

2年生トリオの一角、溝田は低めに変化球を集め、安定感で群を抜く
2年生トリオの一角、溝田は低めに変化球を集め、安定感で群を抜く

「調子が悪くても悪いなりの投球ができる。途中から良くなることもあるし、粘り強く投げられる」と岡田龍生監督(52)も信頼する。永谷暢章は188センチで右腕から繰り出す速球が武器の大器。本城円も190センチの大型左腕で、将来性は十分。ただ龍谷大平安戦で制球難から崩れたように、大きな試合で起用するには勇気がいる。本番でも調子の波がない溝田が軸になるだろう。遊撃手の吉田有輝(3年)は動きがよく、三田松聖(兵庫)戦では安打性の打球を処理し失点を食い止めた。外野では中堅手の立石哲士(3年)の守備範囲が広い。秋の段階からどこよりも安定した試合運びを見せたが、実力の割に甲子園での成績は4強が最高と物足りない。個人的にはこの「堅実さ」が災いしているのではないかと思っている。海南(和歌山)戦は相手主戦の速球に手を焼き、昨春の岩国商(山口)戦の悪夢が脳裏によみがえるような展開だったが、大事な戦局での守備力で辛くも勝った。「大阪大会が出来過ぎでした」と岡田監督が振り返ったように、大阪桐蔭を5回コールドの13-1で粉砕した打線は、本来ならばもっと爆発力があるはず。甲子園では「勢い」のあるチームが一気に駆け抜けた例はこれまでから多々あった。これまでと違った野球で勝てれば、一皮むけるだろう。波に乗れば優勝を狙える力を持ったチームだ。

智弁学園のスラッガーから目が離せない

8強敗退ながら近畿4番目に選出された智弁学園は、世代最強スラッガーの呼び声高い岡本和真(3年)に注目が集まる。

岡本は抜群の長打力で甲子園アーチに思いを馳せる。「風格が出てきた」と小坂監督
岡本は抜群の長打力で甲子園アーチに思いを馳せる。「風格が出てきた」と小坂監督

高校通算56本塁打(公式戦13本)の長打力だけでなく、野手の間を抜く巧みな技術も備えていて、まともな勝負は避けたほうが賢明だ。となると前後を打つ選手の役割が重要になってくる。龍谷大平安は岡本と勝負せず、打線を分断した。5番の吉田高彰(3年)が意地を見せて一矢報いたが、全体としては打線の沈黙が響いて1-2での敗戦。試合後、「課題がはっきりしました」と小坂将商監督(36)は、打線全体のレベルアップを誓った。ただ、「投手と守りは粘れたのでよかった」(小坂監督)というように、公式7試合で3失策は光る。主戦の左腕、尾田恭平(3年)は走者を許してからの投球に真価を発揮する実戦派。さらに岡本もマウンドに上がる。平安戦で見たが、近畿大会で投げた右腕では最もいい球を投げていた。「糸井さん(オリックス)のような三拍子揃った選手になりたい。打つだけでなく投げても守っても貢献したい」と意欲を見せる。学校のある五條市の五條東中出身で、小坂監督は、「前理事長(故藤田照清氏)から『地元の選手を大事にしなさい』と言われていましたので、皆さんからすごく応援してもらえますし、大事に育てたい」と親心を口にするが、それだけに特別扱いは一切せず、厳しい指導をしている。注目選手がいて、ワンマンチームと思われがちだが、投攻守全てにわたって高いレベルでまとまる好チームだ。

全員野球で上位を狙う報徳学園

2年連続の報徳学園は試合巧者だ。秋の兵庫大会は実力のある神戸国際大付や東洋大姫路が4強を前に敗退するなど波乱続きだったが、隙を見せず優勝。近畿でも関大北陽(大阪)、福知山成美(京都)に競り勝つなどここ一番に強い。「当初は本当に弱いチームで、ここまでやれるとは思わなかった。夏の練習の成果」と永田裕治監督(50)も急成長を認める。主戦の右腕、中村誠(3年)は170センチとそれほど大きくないが、威力のある球を投げる。甲子園の懸かった成美戦こそ完封したが、前日の北陽戦と翌週の智弁和歌山戦で打ち込まれたように、調子の波が大きい。控えの田中和馬(3年)も同タイプの本格派で、永田監督は継投を視野に入れる。どうしようもなくなったときは捕手の岸田行倫(3年)が急遽、マウンドに上がることも。岸田は昨春から唯一のレギュラーで、センバツでは遊撃手だった。打っても4番という万能選手だが、永田監督が評価しているのは技量だけではない。「岸田は誰よりも根性がある。切羽詰ったときは岸田に任せる」と精神面でのたくましさを買っているのだ。昨春は、初戦となった2回戦で常葉菊川(静岡)に惜敗。最後は走塁ミスもあって、名門らしからぬ幕切れだった。

福知山成美を1-0で振り切り、4強入りを決めた報徳は全員野球に注目
福知山成美を1-0で振り切り、4強入りを決めた報徳は全員野球に注目

秋も近畿大会の直前、「たるんでいたんで大雨の中でもムチャクチャ練習しました」と永田監督がチーム全体に緊張感を持たせた。飛びぬけた選手はいないが、精神面ではこれまで以上にたくましい。同校はスター選手のいない今チームような時に甲子園で好成績を収めている。

福知山成美は打線の奮起に期待

昨夏に続く出場となった福知山成美は、夏の雪辱に燃える。初戦で沖縄尚学に僅差負け。今大会での再戦もありうる。夏春連続出場の立役者は左腕エースの石原丈路(3年)。

石原は多彩な変化球でPL、報徳と強豪相手に好投した
石原は多彩な変化球でPL、報徳と強豪相手に好投した

182センチの長身からタイミングの取りづらいフォームで多彩な変化球を投げる。球威はそれほどでもないが、打たれ強く、PL学園(大阪)に2失点完投。田所孝二監督(54)は、「制球力があるし、走者を出してから凌げる。立ち上がりに調子が出ていなくても工夫して投げられる」と評する。連投となった翌日の報徳学園戦でも4安打1失点に抑えた。「これだけの内容で連投できたのは収穫」(田所監督)と不安視されていたスタミナ面も心配ない。ただチーム打率は.258と低調。旧チームから主力だった3番の木村典嗣(3年)が近畿2試合で8打数無安打。報徳戦の最後には代打を送られるほどの不振で、「夏にあれだけ打ったのに、どうなったんかと思いますよ」と田所監督もため息を漏らした。本番での名誉挽回が待たれる。ディフェンスは堅い。石原が粘りの投球を見せるため、7試合で5失策。特に内野は遊撃の西田友紀(3年)が1失策だけと守備は鉄壁だ。報徳との試合は両校4安打無失策の締まった内容で、「よく練習試合もしていて手の内がわかっていますから予想通りの展開。緊張感があって点は少なかった(1-0で報徳の勝ち)ですが、お互い守りもよかった」と田所監督は納得の表情だった。PLとの試合も序盤に突き放せなかったが、追いつかれた直後の相手投手交代機を逃さなかった。試合運びに安定感があって、僅差の試合で力を発揮するのが今チームの特徴。それだけに打線が復調すれば上位も十分狙える。

戦前から活躍する名門 海南

21世紀枠で出場する海南は、本格右腕の岡本真幸(3年)が古豪復活の期待を背負う。180センチの恵まれた身体から140キロを超える力強い速球で履正社を6安打2点(自責1)に抑え込んだ。

「将来は大学に行って、速球で押せる投手になりたい」と岡本
「将来は大学に行って、速球で押せる投手になりたい」と岡本

安打のほとんどが詰まった当たりで、本人も自信を深めたはず。「初回に4番の中山君(翔太=3年)から三振を取って、いけそうな気がしました」と笑顔を見せた。中山には同点打を浴びたが、詰まって右翼前方に落ちた当たりで投げ負けたわけではない。リリース時の押し込みがよく、手元で伸びていたような詰まり方だった。「インコースもどんどん攻めていたし、これまでで最高の投球」と森本直寿監督(54)も絶賛していた。公式戦は6勝3敗で、負けは智弁和歌山に2敗と履正社に1敗。いずれの試合も安打数で相手を上回り、岡本の投球内容のよさが数字にも表れている。彼の好投が今回の選出につながったことは間違いない。今後は、四死球を減らすことと変化球の精度が上がってくれば奪三振も増えるはずだ。攻撃面では森本監督が、「まだまだ非力」というように全体のパワーアップは急務だ。つながりもいまひとつで、安打数の割に得点が少ないのは気になる。履正社戦では、4番の林克明(3年)が溝田の変化球に翻弄され、相手失策による1得点に終わった。守備でも同点のきっかけが外野の落球によるものだったように、狭いグラウンドで思うような練習ができなかったハンディはある。しかし、下位の池下侑多朗(3年)が小技を連発して好機を演出するなど、個々の選手に必死さが見られた。戦前のセンバツで4強2回を誇る名門で、「海南」としては、半世紀に渡る空白をついに解消して甲子園の舞台に立つ。21世紀枠にふさわしい実にさわやかなチーム。スタンドに詰め掛けたオールドファンの歓喜する姿が目に浮かぶ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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