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センバツ21世紀枠とは

森本栄浩毎日放送アナウンサー

いよいよ第86回センバツの出場校が決定する。昨夏の決勝を戦った前橋育英(群馬)と延岡学園(宮崎)、安楽投手擁する済美(愛媛)などは秋の地区大会にすら進めず、改めて新チーム始動の難しさを実感させられた。それだけ「目玉」のチームや注目選手の少ない大会になりそうで、しいて挙げれば話題は池田(徳島)の復活ぐらいか。となればおのずと、21世紀枠の3校の活躍に期待が集まる。

センバツはいわゆる招待試合で、出場校は主催者の思惑が反映されてもかまわない。しかし40年ほど前から、秋の地区大会が「予選化」してしまい、一定の成績を収めたチームは確実に選ばれるようになってしまった。秋の地区大会が終了した段階で、出場校はほとんど予想できるし、代わり映えしない顔ぶれの大会もあった。選びたい学校があっても選べない。地区大会の成績最重視が足かせになってしまった結果である。そこで登場したのが21世紀枠。初年度(2001年)に出場した宜野座(沖縄)がベスト4に進出し、数々の新機軸でセンバツを盛り上げてきた主催の毎日新聞の面目躍如となった。特殊なこの枠をかいつまんで言うと、実力であと一歩及ばないものの、続けて好成績を収めている甲子園未経験校やかつての名門校。また気候や部員不足などの困難な環境を克服して努力しているチームにチャンスを与えようというもので、おおむね公立校が選ばれている。今年で14回目となるが、さすがにふさわしい学校が減ってきて、推薦要件(成績や甲子園空白期間)を緩和して候補校の裾野を広げているのが現状である。

今大会の候補

今大会の候補9校は以下の通りで、うち3校が出場する。

北海道-天塩

東北-角館(秋田)

関東・東京-小山台(東京)

東海-伊勢(三重)

北信越-長野西

以上東日本ブロックから1校。

近畿-海南(和歌山)

中国-大東(島根)

四国-坂出(香川)

九州-大島(鹿児島)

以上西日本から1校。さらに地区にとらわれずもう1校を選出。

選考は、作家やジャーナリストを含む「特別選考委員」によって行われ、当日のプレゼンテーションが最大のよりどころとなる。と言うより、「プレゼン次第」と言ったほうが正しく、その意味では9校の立ち位置はまったくの横一線である。以前は、北海道を除き、年ごとの持ち回りで各地区の理事がプレゼンをしていたため、委員からの質問に明確に答えられないといった重大な問題があった。例えば、近畿で推薦されているのは和歌山の学校だが、今回は京都の順番だから京都の理事がやる、といった具合。それが昨年から、当該県の理事が行えるようになって(厳密には、持ち回りもかまわないが昨年は全校当該県理事)、その問題が解消されただけでなく、思わぬ「隠し球」のような話題が温存されている可能性もある。今回は震災禍に遭った学校もないので、例年以上の混戦と言える。9校全て公立で、海南以外は甲子園未経験。逆に海南は、センバツ16回、夏4回出場で戦前から活躍してきた古豪。合併した大成の実績(春2回出場)も継承しているため、出場叶えば27年ぶりとなるが、「海南」として出場したのは昭和39年春夏が最後だから、50年ぶり、「半世紀ぶりの甲子園」と表現した方がしっくりくる。

選考の推移

振り返ってみると、導入直後は2校選出で、文武両道の名門と困難克服の地域密着型がそれぞれ選ばれていた。当初の数年間は、実力よりも「ご褒美」的意味合いの濃い選考が行われていたように感じる。大会前の甲子園練習で修学旅行のような振る舞いをしたチームや、大会直後に退部した選手もいた。選ばれた時点ですでに達成感があった証拠で、これは選んだ側の責任である。全国大会のレベルにそぐわないとの反省からか、最近は実力も重視するようになってきた。実力を測るとすれば、秋の成績しかない。以前は地区大会に出ていないチームも多く、戦力は二の次だったようだが、近年は秋の実績が重視される傾向にある。好投手、強豪撃破などは特に大きなポイントになるだろう。ある意味、「せっかく甲子園に出たのに、ボロ負けしたらかわいそう」という主催者の親心とも解釈できなくはない。

21世紀枠の価値

もうひとつ、これは私見であるが、この枠で選ばれたチームは、ある程度の責任も負わされていると感じる。当初、出場校が「その後実力で再度甲子園に戻ってくることを期待する」という理念があった。初年度の宜野座はその夏に出て、その後センバツにも帰ってきた。最高の結果である。鵡川(北海道)、華陵(山口)も実力で甲子園を勝ち取った。

近年、最も21世紀枠にふさわしかったと言われるのが09年の彦根東。
近年、最も21世紀枠にふさわしかったと言われるのが09年の彦根東。

近年の山形中央、昨夏出場の彦根東(滋賀)は特に優秀で、21世紀枠で出場後も、毎年、甲子園を狙える位置にいる。つまり、出場校の「行く末」も問われるのが21世紀枠なのである。この部分をプレゼンだけで読み取るのは極めて難しい。日頃の取り組みや、ここ数年の実績、地元の評価などがヒントになると思われるが、選ばれたチームは出場に満足することなく、勝利にこだわって欲しい。地元の小中学生が、その学校で甲子園をめざしたいと思えるような感動を与えて欲しい。全国4千校からわずか32校しか甲子園に出られないのである。選ぶ側はもちろん、選ばれるチームも責任は決して軽くはない。私はそこに21世紀枠の価値を見出している。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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