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なぜか発達しない今年の台風 〜不気味な海面水温〜

森朗気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属
今年7月12日に先島諸島に接近した台風7号

台風は、海面水温が高いほど発達しやすいと言われている。そして今年は、記録的に海面水温が高い。しかし、実際にはそれほど発達した台風は見当たらない。

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過去(1951〜2010年)の台風の最低気圧の分布を調べてみると、約80%の台風が980hPaを下回り、半数以上が940hPa以下まで発達している。ところが、今年の台風は、980hPaを下回ったのは、7号、11号、12号の3つだけ。率にすると、わずか20%しかない。

7号と11号は925hPaまで下がったが、過去のデータによれば、40%の台風が930hPa以下まで下がっているので、特に多いとは言えない。それどころか、今年の台風は、ほぼ半分が最低気圧990hPa以上となっていて、海面水温の高さに反して、例年に比べても発達していない。

なぜ、海面水温が高いにも関わらず、台風が発達しないのか。今年の夏は、太平洋高気圧に加えて、チベット高気圧も日本付近に張り出しているので、上昇気流が抑制されているのかとも思ったが、太平洋高気圧の強さは、熱帯の対流活動が活発なことと対応しているので、これは矛盾する。

背の高い太平洋高気圧、さらに上空のチベット高気圧のせいで、上空まで気温が高く、大気の上層まで安定しているので、台風が発達しにくい、とも考えたが、上空の気温を数値で見る限り、それほど顕著に気温が上がっている様子も見当たらない。

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ひょっとすると、あまりに対流活動が活発なために、積乱雲が発生しすぎて、台風として組織されにくいのかもしれない。

台風は、何千個もの積乱雲の集合体で、全体的にも渦を巻いているが、その中には大小さまざまな渦がいくつも存在していて、渦の多重構造になっている。遊園地のコーヒーカップのような構造をイメージすればいいだろう。多くの積乱雲が乱立すると、強い渦が増えて、かえって特定の渦が卓越しにくくなるのではないか、というストーリーなどを想像しているが、どうにも決め手が見つからない。

日本の南海上の海面水温は30℃前後。海面水温としてはほぼ上限とも言われている温度だ。海面水温が高くなれば、対流活動も活発になり、台風が次々と発達してもおかしくないのに、何とも不気味ではある。海面水温が高すぎると台風はかえって発達しない、という研究結果もあるようだが、その論文にも、サンプルが少ないので、断定はできないという趣旨のことも書いてあったように思う。

過去に海面水温が高かった年と言えば、1998年が挙げられる。1998年の台風はどうだったかというと、発生はわずか16個と記録的に少なかった。しかし、台風10号は一時中心気圧が900hPaまで下がり(中心気圧が900hPa以下になるのは全体の約10%)、その後衰えながらも、975hPaの勢力で上陸、西日本を縦断し、和歌山では53.8m/sの最大瞬間風速を記録、総降水量は400mmを超えた所もあった。死者・行方不明者も13名に上っている。

また、この年は、8月末には台風4号と前線の影響で、栃木県の那須町で総雨量が1200mmを超える豪雨になり、9月には台風5号が静岡県から北日本を縦断、その後台風8号、7号が二日連続で和歌山県に上陸するなど、台風の発生数に比して大きな被害が起きている。

今年台風が発達していない理由はともかく、少なくとも、南海上に台風を発達させるエネルギーが、消費されずに蓄積されていることは十分考えられる。宝くじのキャリーオーバーみたいなもので、次の台風は高額当選ならぬ、猛発達ということもあり得ると思っている。明日から9月。台風シーズンも折り返し点だ。衛星画像で見ると、南海上にはあまり雲が見当たらず、台風15号のあと、対流活動は一旦リセットされているようにも見えるが、シーズン後半の台風が心配だ。

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気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ所属

1959年生まれ。1995年に気象予報士の資格を取得、株式会社ウェザーマップに入社。TBS テレビ気象キャスターなど。湘南と沖縄(八重山)とブラジル音楽が好き。

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