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止まらない閉館への危機感。「当たり前にあるものが永遠に残るわけではない」ことを胸に

水上賢治映画ライター
「ディス・マジック・モーメント」より

 アート系映画から、世界で注目を浴びる新進気鋭作家の新作、硬派なドキュメンタリー映画に、あまり知られていない国から届いた逸品、国内の若手監督の自主制作映画まで、まさに多種多様な映画を紹介してきたのが日本の「ミニシアター」だ。

 これまで日本にいながらこれだけ世界の映画にアクセスできてきたのは、ミニシアターの存在なしには考えられない。

 ミニシアターの存在が日本の映画文化を間違いなく豊かにしてきたことに寄与してきたことは疑いようがない。

 しかし、その存在は存続の危機が叫ばれている。Netflixをはじめとした動画配信サービスやコロナ禍の影響など、要因はひとつではないが、次々と閉館が相次いでいるのが現在の現実だ。

 このまま立ち消えていくことが続いていいのだろうか?そこに日本の映画文化とミニシアターの未来はあるのか?

 そう深く考えさられるとともに改めてミニシアターの魅力に出合えるのが、リム・カーワイ監督のドキュメンタリー映画「ディス・マジック・モーメント」といっていいかもしれない。

 「ミニシアターが、わたしの映画監督人生をはじめるきっかけをくれた」

 そう本人が語るように、「映画流れ者(シネマドリフター)」と称して国境・国籍を超えた映画作りを続けているカーワイ監督にとってミニシアターは特別な場所。その現状に不安を覚える彼は、全国各地22館のミニシアターを訪問し、劇場を支える人々たちの声に真剣に耳を傾けた。

 人と文化の交流点といえる劇場と、その場所を守る人々との語らいから何を思い、何を考えたのか?

 リム・カーワイ監督に訊く。全七回。

リム・カーワイ監督  
リム・カーワイ監督  

劇映画ではなく、ドキュメンタリーにした理由

 前回(第一回はこちら)は、ミニシアター行脚に出ようと思ったきっかけを話してくれたリム・カーワイ監督。

 前作「あなたの微笑み」での経験から、「自らの足で全国のミニシアターをめぐる今回のドキュメンタリーへと意識が向いていきました」とのことだが、これまで監督は劇映画を発表してきた。

 その中で、今回はなぜドキュメンタリーの手法だったのだろうか?

「一つは前回お話ししましたが、劇映画だとどうしても時間的にも予算的にも取り上げられる劇場が限られてしまう。

 そこまで多くの劇場を訪ね歩くことはできない。

 ドキュメンタリーであればフレキシブルに動けるので、もっと多くの劇場に実際に足を運んで取材ができると思いました。

 ひとつでも多くの劇場を取材して紹介したいと考えていたので、ならばドキュメンタリーがいいのではないかと考えました。

 それから実は、お気づきかもしれないのですが、実は『ディス・マジック・モーメント』の原型となるような試みを『あなたの微笑み』でしているんです。

 『あなたの微笑み』の最後に、主演の渡辺紘文さんがインタビュアーになって劇場のオーナーと話しているドキュメンタリーパートがあります。あのシーンです。

 『あなたの微笑み』は当初から劇映画を企画して進めていて、実際に撮影も劇映画として進めていました。

 ただ、劇映画を撮りながらも、なんかドキュメンタリーとしての映像も撮っておきたい気持ちがあって。

 それで撮影しておいたのが、あの渡辺監督がインタビュアーとなったドキュメンタリーパートでなんです。

 そのほかにも各劇場の内観と外観とかも押さえて撮っておいたんです。

 ただ、撮ってみたはいいものの、劇映画の枠組みの中に入れるのは当初難しいと考えていました。

 でも、編集してまとめはじめたときに、けっこう入れても成立するのではないかという手ごたえが出てきて、それで思い切って最後のところにもってきて入れたんです。

 そうしたら映画の舞台として登場する劇場と、実際の現実に存在する劇場がうまくリンクするような形にすることができた。

 で、これはこれでよかったんですけど……。

 一方で、こうも思ったんです。『もうちょっと今回(『あなたの微笑み』で)ご協力いただいた劇場を自分自身がより詳しく知って、きちんと紹介したいな』と。そういう気持ちも芽生えました。

 その気持ちもまたドキュメンタリーがいいのではないかという意識に向かっていった理由になったと思います」

「ディス・マジック・モーメント」より
「ディス・マジック・モーメント」より

いまあるものが必ずしも永遠に残っているわけではない

 またこういう気持ちもあったと明かす。

「『あなたの微笑み』をみたときに改めて気づいたことがありました。

 それは『いまあるものが必ずしも永遠に残っているわけではない』ということです。

 当たり前といえば当たり前ですが、『あなたの微笑み』をみて、そのことを実感しました。

 前回お話ししたように、2022年の11月に『あなたの微笑み』は公開を迎えました。

 でも、その間に、首里劇場の金城政則館長がお亡くなりになって閉館が決まり、火災によって小倉昭和館は全焼してしまいました。

 『あなたの微笑み』の中には、首里劇場も小倉昭和館も残されている。でも、現実にはもうない。

 小倉昭和館は新たに劇場を建てて再スタートを切りましたけど、かつての小倉昭和館はもうない。

 この現実に直面したときに、アーカイブとして残しておくことはすごく重要ではないかと考えました。

 『あなたの微笑み』に登場してくださった7つの劇場は、その姿を映像に収めることができました。

 でも、ちょっと撮影が後ろに倒れたり、企画がストップしていたら、首里劇場も小倉昭和館も映像に残すことができなかった。

 そう考えると、記録しておくことはすごく大切だと気づきました。

 ミニシアターが厳しい状況にいるのは現実。あまり考えたくはないのだけれど、次に閉館してしまうところがいつ出てもおかしくない。

 だから、なるべく早く動き出して、可能な限りミニシアターをめぐって映像に残したいと思いました」

(※第三回に続く)

【「ディス・マジック・モーメント」リム・カーワイ監督インタビュー第一回】

「ディス・マジック・モーメント」ポスタービジュアル
「ディス・マジック・モーメント」ポスタービジュアル

「ディス・マジック・モーメント」

監督・プロデューサー・脚本・編集・ナレーション:リム・カーワイ

出演:

テアトル梅田:木幡明夫 瀧川佳典 よしもと南の島パニパニシネマ:下地史子

首里劇場:金城政則 平良竜次 シアタードーナツ・オキナワ:宮島真一

小倉昭和館:樋口智巳 別府ブルーバード劇場:岡村照 宮崎キネマ館:喜田惇郎

ガーデンズシネマ:黒岩美智子 THEATER ENYA:甲斐田晴子 

豊岡劇場:石橋秀彦 田中亜衣子 シネマテークたかさき:志尾睦子 

高田世界館:上野迪音 上田映劇:原悟

シネマスコーレ:木全純治 福井メトロ劇場:根岸輝尚 シネモンド:上野克

ほとり座:樋口裕重子 シネ・ウインド:井上経久 

御成座:切替桂 遠藤健介 仲谷政信

シネマディクト:谷田恵一 大黒座:三上雅弘 三上佳寿 シネ・ヌーヴォ:景山理

公式サイト https://magicmoment2023.wixsite.com/official

全国順次公開中

写真はすべて(C)cinemadrifters

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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