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セフレ関係を結ぶシングルマザーを演じて。日々変化する女性の身体と心に触れた原作を頼りに

水上賢治映画ライター
「セフレの品格(プライド) 初恋」より

 女性を中心に読者を獲得し、大きな支持を得ている大ヒットレディースコミックシリーズを映画化した二部作「セフレの品格(プライド) 初恋」「セフレの品格(プライド) 決意」。

 「セフレ」という言葉が流布して、どれぐらいが経つのだろう。その言葉から、どんなことをイメージするだろうか?そういわれても、なかなか言葉に窮するというのが正直なところではないだろうか。

 その関係のありようをどう考えるか?と問われたとしても、ちょっと答えづらいのではないだろうか。

 いずれにしても改めて前にすると、戸惑わされるワードではある。

 ただ、いい意味で「セフレ」というワードにとらわれて振り回されてはいけないのが今回の映画「セフレの品格」といっていいかもしれない。

 女手ひとつで娘を育てている二度離婚歴ありの森村抄子が、初恋の相手で産婦人科医の北田一樹とのセフレ関係になる物語が映し出すのは、男女関係としてありなのか無しなのか、倫理としてどうなのか、といったことを問うような、そう単純なことではない。

 森村抄子というヒロインから浮かびあがるのは、この社会でどうすればひとりの母としてひとりの女性として自由になれるのか、自分らしく生きることができるのか、ということだ。そういう意味で、この二部作はひとりの女性の生き方の物語であり、自らの生き方を見つけた自立した女性の物語でもある

 セフレ関係という思いもよらぬ形で自分自身と向き合い、自らの進むべき道をみつける抄子を演じたのは、初主演映画「私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください」が反響を呼んだ、行平あい佳。

 セフレという関係を受け入れ、自身に目覚める抄子の性と生き方を、大胆かつしなやかに体現した彼女に訊く。全六回。

「セフレの品格(プライド) 初恋」より
「セフレの品格(プライド) 初恋」より

湊先生の『セフレの品格』がレディースコミック初体験

 前回(第二回はこちら)の話で、「原作を通して、セフレもひとつの愛情の形として受け止められました」と語ってくれた行平。では、原作に最初に触れたとき、どのような感想を抱いただろうか?

「わたしは漫画が大好きと公言しているのですが、レディースコミックに関してはほとんど読んだことがなかったんです。

 漫画は大好きだったんですけど、いわゆる少女漫画であったり、レディースコミックであったりといった女性向けの作品に関しては、これまでの人生において、まったく通ってこなかったんです。

 つまり湊先生の『セフレの品格』がレディースコミック初体験でした。

 ページをめくって開いたときに、まずきれいな線画で繊細に描かれていることにまず感動を覚えました。

 読み進めていく中で、深く感銘を受けたのはやはりストーリーで。前回お話しした通り、抄子と一樹がセフレ関係を結ぶことに何の違和感もなくて、ものすごく腑に落ちることに感じられました。

 そのストーリーもすばらしいんですけど、湊先生の言葉選びというか。登場人物が話すセリフのひとつひとつが無駄がなく、時に突き刺さる言葉もあって、すらすらと頭の中に入ってくる。

 ちょっと、うるっとさせられる涙腺を刺激される瞬間もあれば、ちょっとした思い違いですれ違ってやきもきするところもある。

 その作品世界にすっかり魅了されました」

女性だからこそ感じる、理解できることが盛り込まれている

 また、ひとりの女性として共有できるところも多かったという。

「女性の体や心は月によっても、日によってもアップダウンがあって変わってくるところがある。そういうことが何気ない形で作品に含まれている。

 たとえば、抄子の友人で、映画では片山萌美さんが演じられた華江は乳房を失っている。明るく繕わないと自分で立っていられないぐらい傷ついている華江の心境が痛いほど伝わってくる。と同時に、そのことを知ったときの抄子のショックも伝わってくる。

 日常生活の中で女性だからこそ感じる、理解できることが盛り込まれているので、よけい身近に感じられましたね」

「セフレの品格(プライド) 初恋」より
「セフレの品格(プライド) 初恋」より

原作を心の支えにしてオーディションに挑みました

 実は、今回の抄子はオーディションでつかんだ役。そのときも、原作には大いに助けられたという。

「オーディションの前に原作を一気に読んで。原作から感じたことを心に刻んでオーディションには臨みました。

 それで実は、抄子役でオーディションを受けたわけではなかったんです。

 いくつかの役があって、どの役にも対応できるようにしていくといった形のオーディションでした。

 だから、どの役にもいい意味で肩入れしない。フットワーク軽くして臨機応変に対応できる状態でオーディションに臨むのがいいのかなと思いました。

 とはいえ、やはり演じるからには心の拠りどころのようなものはほしい。ただ、その時点では当然ですけど台本はなくて。渡されたのはいくつかのシーンの台本だけ。となるとわたしとしては役作りにおいては、原作を頼みの綱にするしかない。

 特に抄子に関しては、わたしの心の頼りは、湊先生の原作で。『あの湊先生の線画を思い出せば大丈夫!』と原作を心の支えにしてオーディションに挑みました。

 というのも、抄子を演じるのはちょっと不安があったといいますか。

 抄子は36歳で離婚歴2回。高校生の娘がいる。女手ひとつで娘をここまで育ててきた。

 対して、当時のわたしは30歳になったばかりで。子どももいなければ結婚もしていない。もちろん離婚歴もない。

 当然、内心思うわけです。世間に揉まれてたくましく生きてきてきたであろう抄子を『果たして、こんなわたしが演じられるのか?』と。

 でも、役者ですから求められたらベストを尽くして演じるしかない。そこで頼みの綱が必要になったのですが、このときのわたしにとっては湊先生の原作でした」

(※第四回に続く)

【「セフレの品格」行平あい佳インタビュー第一回はこちら】

【「セフレの品格」行平あい佳インタビュー第二回はこちら】

「セフレの品格(プライド) 初恋」ポスタービジュアル
「セフレの品格(プライド) 初恋」ポスタービジュアル

「セフレの品格(プライド) 初恋」

監督:城定秀夫

原作:湊よりこ『セフレの品格(プライド)』(双葉社 JOUR COMICS)

出演:行平あい佳、青柳 翔、片山萌美、新納慎也

全国順次公開中

「セフレの品格(プライド) 決意」

監督:城定秀夫

原作:湊よりこ『セフレの品格(プライド)』(双葉社 JOUR COMICS)

行平あい佳、青柳 翔、髙石あかり、石橋侑大

全国順次公開中

公式サイト https://sfriends-pride-movie.com

写真はすべて(c)2023 日活

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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