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障がいのあった友が遺したセックスの記録を映画に。1年の空白も反響が続き本格配信へ

水上賢治映画ライター
「愛について語るときにイケダの語ること」より

 関係者に向けてたった1日の上映で終わる予定が、2021年に劇場公開が決まり、公開がスタートすると異例のロングランを記録した映画「愛について語るときにイケダの語ること」。

 生来、四肢軟骨無形成症の障害があった池田英彦のリアルなセックスと性愛を収めた同作は、上映が始まると口コミで話題に。大きな反響を集めると「イケダに会いに来た」と上映があるたびに劇場にかけつける熱烈な支持者も生まれた。

 そして、劇場公開から2年、いまも続く「どこかで見ることができないか」という声に応える形で、本格的に配信上映がスタートした。

 そこで、劇場公開時も登場いただいた、池田の遺言を受け、映画制作に動き、撮影・脚本・プロデュースを担当した真野勝成氏と、共同プロデューサー・構成・編集を担当した映画監督の佐々木誠氏に再度インタビュー。

 改めて両氏に「愛について語るときにイケダの語ること」について話を訊く。全五回。

「愛について語るときにイケダの語ること」より
「愛について語るときにイケダの語ること」より

空白の1年の間に起きた反響を受けて、本格配信へ

 まず、これまで期間を区切っての配信はしてきた同作。今回、いつでも見られる形の配信を始めたきっかけはあったのだろうか?

真野「そうですね。きっかけはみなさんからのリクエストといいますか。

 いろいろな反響を受けて、ありがたいことにこちらも驚くぐらい劇場公開が長く続くことになって。

 なんやかんやで劇場での上映がひと段落ついたのが、いまから1年ぐらい前でした。

 それから、今回の配信に先駆けてまず佐々木さんが企画した上映イベントをこの6月から始めたのですが、それまでほぼ1年、(「愛について語るときにイケダの語ること」は)見れない状態になっていたんです。

 僕らとしてはこれでいったん作品の公開は終了、やり終えたと思っていた。

 ところが、この見ることのできない状態の1年の間にも、作品が勝手に一人歩きして、世間に浸透していったというか。

 公開が終わって終了しているにもかかわらず、たとえば、ノンフィクション作家の菅野久美子さんの著書『ルポ 女性用風俗』で触れられたり、ある著名人が作品について触れてくれたり、といったことが続いて。そういったことがあるたびに、うれしいことに連絡が入るんです。『どこかで見る機会はないんですか?』とか、『配信はやらないんですか』と。

 そういう声をいただけばいただくほど、なんかイケダに『まだ終わっていない』と言われている気分にもなってくる。

 どこかで配信を本格的にできればと考えてはいたんですけど、とはいえ、やはりきっかけがないと踏み出せない。

 そういう中で、この空白の1年で、ありがたいことにまだまだ見たいと思ってくれている人がたくさんいらっしゃることを確認することができた。

 このタイミングならばということで、今回、配信に踏み切りました」

配信に先駆けて上映イベントを復活させた理由は?

 先で触れたように配信に先駆けて上映イベントをスタートさせた。この理由は?

佐々木「これは過去の上映イベントでもそうだったんですけど、僕が言うとちょっと手前味噌になりますが『愛について語るときにイケダの語ること』は、見たら誰かと話したくなる映画になってくれたというか。

 はじめは障がい者のセックスという、日本社会である意味タブー視されることが本題にありましたから、トークの場を設けても、たとえば『不謹慎』といったおしかりを受けたり、積極的に話しが出るような場にならなかったり、といったことになる可能性が高いのかなと考えていました。

 でも、ふたを開けてみたら、まったく逆で、自分の性の悩みを話し出す人がいたり、その思いを居合わせた人が共有したりと、すごくいい語り合いの場になって、イケダさんのことで話が盛り上がる。

 今回の上映イベントもすでに3回行っているんですけど、どの会場も満席で。お客さんもさまざま、大学生から近所の年配の方まで、実に多種多様な人が集まってくる。

 そういった人が集まって、作品というよりは、イケダさんについてあれこれと語り始める。

 そういう作品になっているので、配信もいいのだけれど、配信きっかけでまたこういう語り合える場も復活させて同時にやっていくのもいいかなと思って。それでイベントも同時にやっていこうという形になりました」

いつでも見られる機会を作っておくのはいいかのかなと

 上映イベントでは、こんな新たな出会いもあったという。

真野「この前、墨田区京島の銭湯で開催した上映イベントでは、ある美大生が来てくれたんですけど」

佐々木「デザインを学んでいるのだけれど、いま映画を作ろうとしている」

真野「その映画というのが、彼にはずっと介助している重度障がいの友人がいて。もうすぐ彼は大学を卒業するのだけれど、そうすると就職するので、その障がい者の友人の面倒をみることがどうしてもできなくなる。ということで、最後に自分たちの日々を記録して映画にしようと思ったそうで。

 で、そのことを大学の友人に話したら、だったら『愛について語るときにイケダの語ること』を見たほうがいいと言われて、来てくれたとのこと。結局、上映時間に遅刻して全部は見ることができなかったみたいなんですけど(苦笑)。

 こういう人たちのためにも、いつでも見られる機会を作っておくのはいいかのかなとも思って、配信を始めたところがあります」

(※第二回に続く)

「愛について語るときにイケダの語ること」ポスタービジュアル
「愛について語るときにイケダの語ること」ポスタービジュアル

「愛について語るときにイケダの語ること」

企画・監督・撮影・主演:池田英彦

出演:毛利悟巳

プロデューサー・撮影・脚本:真野勝成

共同プロデューサー・構成・編集:佐々木誠

公式サイト → https://ikedakataru.movie

<配信情報>

Amazon Video

U-NEXT 

Google Play /Youtube

ビデオマーケット

シネマ映画.com(二村ヒトシ、能町みね子による特典トーク映像付き)

などで順次配信中

<今後の上映イベント情報>

8月4日(金)19時~

静岡/浜松・木下恵介記念館

(上映後トークイベント付き)

詳細は→https://forms.gle/amp1985158ykw8P66

8月19日(土)19時上映スタート

東京/代官山シアターギルド

(配信記念・特別トークイベント付き)

詳細は→https://theaterguild.co/movie/detail/aiikeda/

9月10日(日)18時~

岡山/玉野市HYM(東山ビル)

(上映後トークイベント付き)

詳細は→https://nuca.thebase.in/items/76723433

写真はすべて(C)2021 愛について語るときにイケダが語ること

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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