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愛の逃避行へ踏み出すあどけなさの残るヒロインを演じて。ヌードも求められる難役の彼女に感じた強さ

水上賢治映画ライター
「さいはて」で主演を務めた北澤響

「海辺の生と死」「アレノ」「愛の小さな歴史」「アララト」など、人間の「生」と「性」に迫る作品で知られる映画監督・越川道夫。

 その作家性の高い独自の視点を持った彼の作品は、とりわけ女性の心の在り様に焦点を当ててきた。

 そして、新たに届けられた一作「さいはて」もまたひとりのヒロインの胸の内をつぶさに見つめる。

 そのヒロインは、まだあどけなさが残るモモ。

 作品は、笑顔の裏に実は大きな哀しみを抱えた彼女と偶然知り合った40代の男性トウドウとの逃避行の行方を描く。

 このモモ役に挑んだのは、本作が映画初主演となる新進女優、北澤響(きたざわ・ひびき)。

 裸になることを含めて、すべてをさらけ出すことを余儀なくされた難役といっていいモモにいかにして挑んだのか?

 北澤に訊く。(全五回)

「さいはて」で主演を務めた北澤響
「さいはて」で主演を務めた北澤響

モモは逃避行に出てはいるものの人生を諦めてはいない

 前回(第一回はこちら)、演じたモモの第一印象を「真っすぐな子」と表した北澤。

 さらに意思の強さみたいなものも感じたという。

「『トウドウとモモは逃避行へと出る』。

 この文字だけで想像すると、なんとなくなりゆきでといいますか。

 40代のトウドウに、まだ20代と若いモモが引っ張られるようにして逃避行の旅に出たような印象を抱く方が多い気がするんです。

 でも、必ずしもそうではないところがある。

 二人ともなんとなく流れに身を任せてというところがあるのは確か。

 でも、トウドウにしてもモモにしても、いま自分のいる現実やあまりうまくいっていない現状から逃れたい気持ちがある。

 ただ、その逃れたい気持ちには逃避の意味よりも、なにか現状を変えたい、いまを変えたいような意味合いが多く含まれている気がする。

 とりわけモモは、現状からの変化を求めているところがある。

 そう簡単に打ち明けられない過去と身の上にいる彼女ですけど、逃避行に出てはいるものの人生を諦めてはいない。

 そう考えるとモモはすごく逞しいなと思いました。

 人生に絶望して自暴自棄になってもおかしくない。そこで逃避行へと出ているのに、人生を諦めていない。

 何事に対してもあきらめない強さと逞しさがモモにはあると思いました」

トウドウとモモは同じような寂しさを抱えている者同士なのかなと

 ただ、その強さに隠れたところに寂しさもあると感じたという。

「彼女のバックグラウンドを考えると、常に寂しさを抱えて生きてきたことは察することができる。

 たまたま出会ったんですけど、トウドウは彼女の中にある消せない寂しさに気づいた。

 それはトウドウ自身が同じような孤独を抱えていたから、気づいたのかもしれない。

 そして、モモもトウドウに自分と同じような寂しさを感じ取った。

 だからこそ、トウドウとモモの逃避行は始まったと思うし、モモもトウドウだから、一緒に当てのない旅へと出た気がします。

 トウドウとモモは同じような寂しさを抱えている者同士なのかなと思いました」

「さいはて」より
「さいはて」より

自分ももっとしっかりしなきゃと思うぐらいでした(苦笑)

 「強さ」と「寂しさ」。確かにモモを語る上でこの二つは欠かせないキーワードといっていい。

 作品も、少し酔ったモモが寂しさを紛らわすようにトウドウに寄り掛かった感じで始める印象を受ける。

 ただ、そこからモモはだんだんと独りで立ち始め、最後は年上のトウドウを引っ張っていく存在へと大きく変化していく。

「そうなんですよね。

 モモは寂しさにも負けなければ、生きることも諦めない子で、そのことはトウドウへも大きな影響を与える。

 正直なことを言うと、脚本を読んだ段階では、モモがこんな強さをもった女性とは思っていませんでした。

 どちらかというと、トウドウに救いとまではいいませんけど、なにか光を求めているような印象がありました。

 年齢としても社会に出たばかりですから、もっと少女っぽい女の子をイメージしていたんです。

 ただ、彼女の歩んできた過去を考えると、大人にならざる得なかったところもあって……。

 だから、同年代の女性に比べて大人びていても不思議ではないなと思ったし、実際に演じていて違和感がなかった。

 モモの中にある強さや逞しさ、大人の落ち着きみたいなことを表現しようとしたとき、たぶんふつうだと無理が出るというか。

 演じていて強がりに感じられたり、ちょっと背伸びしているように感じられたりするような気がするんです。

 でも、モモは演じていてそういう感覚にはならなかった。ものすごくしっくりした感覚で演じることができた。

 見てくださった方にどう映るかはわからないんですけど、演じているわたし自身としてはなんの無理もなかった。

  『モモちゃんは独り立ちした大人の女性』と感じていました。

 自分ももっとしっかりしなきゃと思うぐらいでしたね(苦笑)。

 そういう意味でも、あまり作り込まず、『20代前半のまだ若い女の子だから』といった先入観を持たないで、取り組んでよかったのかなと思います。

 ちょっと背伸びして演じないといけないとか、大人っぽくとか最初から意識していたら、自然体で臨めなくていろいろ苦労した気がします」

(※第三回に続く)

【「さいはて」北澤響インタビュー第一回はこちら】

「さいはて」メインビジュアル
「さいはて」メインビジュアル

「さいはて」

監督・脚本:越川道夫

出演:北澤響 中島歩

金子清文 美香 杉山ひこひこ 君音 内田周作

公式サイト:https://mayonaka-kinema.com/saihate/

写真はすべて(C)2023 キングレコード

新宿・K’s cinemaにて公開中、以後全国順次公開予定

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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