「私を判ってくれない」は、小さな町から生まれた映画だ。

　鹿児島県長島町。鹿児島県の最北端に位置するこの町では、町の活性化を目指すプロジェクトで、貫地谷しほりと山田真歩とが共演した「夕陽のあと」が制作され2019年に公開されている。

　今回の「私を判ってくれない」は、地元の声を受けての第二弾。新型コロナウイルスによる２度の延期を乗り越えて完成した。

　町の協力のもと作られた作品は、島に戻ってきた城子と島から出たことのない由記乃という対照的だが実は似ている二人のヒロインの心模様が描かれる。

　そして、互いに周囲から社会から「判ってもらえない」城子と由記乃は、この社会に「生きづらさ」を抱えている女性たちの代弁者。今を生きる女性の切実な思いが伝わってくる。

　主人公のひとり、城子を演じた平岡亜紀に訊く。（全四回）

あの冷たい態度は城子なりの由記乃へのエールが含まれてるのではないか

　これまで演じた城子という人物について訊いてきた。

　では、もうひとりの主人公、花島希美が演じた由記乃はどう感じただろうか。

　控えめな性格で城子とは対照的な人物ではあるが。

「城子とはほんとうに真逆ですよね。

　城子は相手に関係なく、言いたいことをズバズバ言う。

　対して由記乃は、控えめで自分の意見があったとしてもまず相手のことを重んじる。

　で、城子は由記乃本人に直接いっちゃう。『言いたいことあったら言いなよ』と（笑）。

　この言葉をぶつけるシーンを含めて、傍から見ると、城子の由記乃に対する態度は、冷たいというか辛辣に映る。

　ただ、由記乃のことが嫌いでこういう態度をとっているわけではない。

　城子からすると、由記乃はもっと上を目指せる人物で。もっと上昇志向があってもいい。

　そのあたりのもどかしさがあって。あの態度というのも城子なりの由記乃へのエールが含まれてるのではないかと思うんです。

　『言いたいことをいえずにごにょごにょしていないで、もっともっと自分の言いたいこと言って自分出していこうよ』と。

　この由記乃に対する城子の感情はすごくよくわかるんです。

　というのも、わたしも同じような体験を大学時代にしていて。

　当時、いまもあまり変わらないですけど（笑）、わたしは夢追い人で。

　前にお話したようにでも、自分の夢を叶えるために頑張るのは当たり前だと思っていた。

　だから、まったく上昇志向がない人がちょっと苦手だった。

　であるとき、ある友人になにかの話の流れで『夢を叶えるために頑張らないと』といったようなことを言った。

　すると彼女は『なんで頑張らないといけないの？　別に頑張る義務はないんじゃない？』といったような言葉を返された。

　『わたしは普通に暮らせればそれでいい』といったようなことを。

　わたしは人それぞれなにか目標みたいなものがあって、それに向かって頑張るのが当たり前だと思ってたから、けっこうこういわれたのは衝撃だったんです。

　一方で、『そうだよね、別に全員が全員、なにか大きな目標があってそれに向かって頑張るわけではないよな』と妙に納得したところもあったんです。

　夢を叶えるためにがむしゃらに頑張るより、ふつうの暮らしを送れればそれでいいという人もいるよなと。

　だから、わたしとしては由記乃の気持ちはわかるところがありました。

　『ほかからはつまらなく見えるかもしれないけど、彼女としてこの生き方は彼女なりに満ちたりたものなんだな』と」

市村さん及び市村家の家族だけが城子にとっては心の拠りどころ

　あと、城子が由記乃にちょっと冷たい対応をするのは、もうひとつ要因があるのではないかという。

「由記乃のお父さんの市村さんの存在ですよね。

　市村さんは城子を否定しない。常にフォローしてくれる。

　あの町で城子にとって唯一の味方なんですよね。もう身寄りも誰もいませんから。

　唯一甘えられるし頼れる存在である。

　市村さん及び市村家の家族だけが城子にとっては心の拠りどころで。

　ちょっと第二の家族みたいなところもあって甘えも出て、わがままをいいたくなる（笑）。

　で、城子は甘え上手ではないから、ああいうふてぶてしい態度になってしまう。

　市村家の家族がまたいい人だから、身寄りのない城子からするとちょっとうらやましいところがある。

　それで、由記乃ともほんとうは仲良くなりたいんだけど、ああいう冷たい感じになってしまうのかなと思いました」

由記乃の花島希美とはFacebookでつながっていたが…

　その由記乃を演じた花島希美の印象をこう明かす。

「以前もお話した、利重剛さんが主催してる『Life works』のプロジェクトでワークショップがあって。

　そのときに、おそらく１度か２度お会いしています。

　ほんとうにそのワークショップでお見かけした程度で、プライベートなつながりはなかったんです。

　ただ、Facebookだけではつながっていました」

　Facebookではつながっていたが、この作品が決まったとき、特に連絡を取り合うことはなかったのだという。

「たぶん同じ作品に出演することになって、Facebookでつながっていたら、ちょっとしか会った事がなければないほど『よろしく』みたいなやりとりをするじゃないですか。

　でも、撮影に入るまでお互いに連絡をまったくとらなかったんですよ。Facebookつながってるのに。

　はじめ連絡がないから入れようと思ったんです。

　でも、はたと思ったんです。『城子と由記乃は対照的で噛み合わない。ある意味、対立している。だから花島さん、役のことを考えてわざと連絡をとらないでいるのかも？』と。

　たぶん役作りがもう始まっているんだと思って。『これは連絡をしない方がいい』と判断しました（笑）」

（※第四回に続く）

【「私を判ってくれない」平岡亜紀インタビュー第一回はこちら】

【「私を判ってくれない」平岡亜紀インタビュー第二回はこちら】

「私を判ってくれない」

監督・脚本・編集： 近藤有希　水落拓平

出演： 平岡亜紀　花島希美　鈴木卓爾　今井隆文　西元麻子　ほか

宮崎キネマ館にて公開中、

福岡・KBCシネマにて2023年1月17日（火）1日限定上映決定！

メインビジュアル及び場面写真はすべて（C） 私を判ってくれない