映画「私を判ってくれない」は、小さな町から生まれた映画だ。

　鹿児島県長島町。鹿児島県の最北端に位置するこの町では、町の活性化を目指すプロジェクトで、貫地谷しほりと山田真歩とが共演した「夕陽のあと」が制作され2019年に公開されている。

　今回の「私を判ってくれない」は、地元の声を受けての第二弾。新型コロナウイルスによる２度の延期を乗り越えて完成した。

　町の協力のもと作られた作品は、島に戻ってきた城子と島から出たことのない由記乃という対照的だが実は似ている二人のヒロインの心模様が描かれる。

　そして、互いに周囲から理解されない城子と由記乃に姿が重なるのは、この社会に「生きづらさ」を抱えているすべての女性たち。今を生きる女性の切実な思いが伝わってくる。

　主人公のひとり、由記乃を演じた花島希美に訊く。（全四回）

監督に再び声をかけていただいたことは光栄ですし、うれしかったです

　はじめに本作への出演の経緯をこう語る。

「平岡さんも話されていると思うのですが、俳優であり監督でもある利重剛さんが手掛けられている＜Life works＞という横浜を舞台に短編映画を作る企画プロジェクトの作品に出演したことから始まっています。

　まず利重さんが主催されていたワークショップに参加していたのですが、それを『私を判ってくれない』の近藤有希監督も＜Life works＞を手掛けられるということで時々見学されていたんですね。

　それで、近藤監督がいざ＜Life works＞での短編を手掛けられることになったとき、わたしを出演者に選んでくださった。

　役柄は、ラジオ・パーソナリティになりたい夢をもって田舎から都会に出てきた女性で。

　ある番組のコーナーを担当していた人が病気でお休みすることになり、彼女にチャンスが舞い込むといった内容の物語でした。

　わたしも田舎で育って俳優を目指して上京してきた経緯があるので、リンクするところがいくつかあって。いまも印象に強く残っている役になりました」

　そして、今回、再び近藤監督から声がかかった。

「聞くところによると、平岡さんはあてがきだったみたいですけど、わたしはどうだったんだろう？

　近藤監督からはっきりしたことはきけていないです（苦笑）。

　でも、再び声をかけていただいたことは光栄ですし、うれしかったです」

由記乃は誰にでもいい顔しちゃう（笑）

ここは（わたしも）思い当たるところがあるかなと（苦笑）

　演じた由記乃は、長島町から出たことがない。女優になる夢を追って東京へ出た城子とは逆で、地元にとどまり、地元で清掃の仕事に従事している。

　脚本を読んでどんな印象を抱いただろうか？

「もちろんすべてが当てはあるわけではないんですけど、由記乃はわたしと重なるところもけっこうある役だと感じました。

　たとえば由記乃は、自分の気持ちを表に出すことが苦手で。相手に自分の考えをうまく伝えることができない。

　だから、城子に『もっと自分の気持ちを相手に伝えないと』とたしなめたりしてしまう。

　でも、相手にうまく気持ちは伝えられないんですけど、自分の考えや意思はしっかりもっている。

　その意思はけっこう強固で、周りに流されたりすることがないんですよね。確固たる自分の意思がある。

　その意思の強さはわたしもけっこうあるかなと。

　それから、誰にでもいい顔しちゃうところ（笑）。ここも思い当たるところがあるかなと（苦笑）。

　あとは、セリフにもあるんですけど、彼女は『今のまま』でいることを望んでいる。現状に特に不満を抱いていない。

　でも、周りからは結婚した方がいいんじゃないか、もっといい仕事を見つけた方がいいんじゃないかと思われてしまう。

　ただ、由記乃はいまの仕事に誇りを持っているし、結婚もしたくないわけじゃないけど、無理にしたいとは思わない。

　いま以上でも、いま以下でもない、『今のまま』に彼女は幸せを感じている。

　その彼女の中にある価値観も共有できるものがありましたね。

　由記乃は実家住まいで島をずっと離れていない。一方で、わたしは東京へ出て実家から離れた。

　そこは大きく違うのだけれども、ひとつひとつみていくと重なるところがある役だなと思いました」

由記乃は、自分の胸の内を明かすことはない

これをどう表現すればいいのかすごく悩みました

　そこから由記乃役とどう向き合っていったのだろうか？

「さきほど話したように、自分と重なるところがある。

　けど由記乃は、自分の胸の内を明かすことはないし、言葉にして相手に伝えることも苦手でぐっと口にすることをのみこんでしまう。

　これをどう表現すればいいのか、監督が求める由記乃になるのか、なかなかつかめなくて悩みました。

　そこで、まず事前に近藤監督と話し合って、そのときに疑問におもっていることやつかめないことを聞きました。

　近藤監督とともに監督を務める水落さんともメールのやりとりで、いろいろとおうかがいしました。

　それで近藤監督と水落監督からのアドバイスをもとに、由記乃の気持ちをどう表現すれば伝わるものになるかを模索していきました」

（※第二回に続く）

「私を判ってくれない」

監督・脚本・編集： 近藤有希　水落拓平

出演： 平岡亜紀　花島希美　鈴木卓爾　今井隆文　西元麻子　ほか

鹿児島・ガーデンズシネマ、池袋シネマ・ロサにて公開中。以後、全国順次公開

メインビジュアル及び場面写真はすべて（C） 私を判ってくれない