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発掘現場で働く縄文に魅せられた女性たちに着目。きっかけは国宝を掘り当てたおばちゃんのインタビュー

水上賢治映画ライター
「掘る女 縄文人の落とし物」より

 「発掘現場」ときいて、どんなことをイメージするだろうか?

 一日中、土を掘り起こしているようなことをイメージするのではないか?

 いずれにしても、現場作業に女性が参加していることはなかなか想像できないのではなかろうか?

 実際、考古学の世界では男性の数が圧倒的に多いのが実情だという。

 その中で、松本貴子監督のドキュメンタリー映画「掘る女 縄文人の落とし物」は、縄文に魅せられ、発掘に携わる女性たちに焦点を当てる。

 なぜ、彼女たちにカメラを向けることになったのか?

 取材過程から彼女たちとの出会い、知っているようで知らない発掘現場の表と裏まで、松本監督に訊く。(全四回)

「掘る女 縄文人の落とし物」の松本貴子監督 撮影:山崎エリナ 
「掘る女 縄文人の落とし物」の松本貴子監督 撮影:山崎エリナ 

国宝を掘り当てた女性たちのなんとものどかなインタビューがきっかけに

 はじめに松本監督はこれまで数々のテレビ番組を手掛ける一方で、ドキュメンタリー映画を発表。映画に限って言うと、芸術家の草間彌生に迫った「≒草間彌生 わたし大好き」と、世界的なファッションモデルの山口小夜子に焦点を当てた「氷の花火 山口小夜子」と、いわゆるアーティストの人物像や創作に深く分け入る作品を発表してきた。

 傍からみると、今回の「掘る女 縄文人の落とし物」は、これまでとはまったく違う題材に取り組んだように映るが、実は「縄文」という題材にはずっと取り組みたいと思っていたという。

「実は、けっこう前から『縄文』というテーマで、いつか映画が作れないかと考えていました。

 ただ、少し前から縄文文化や縄文土器が密かなブームで、さまざまなメディアで作品が発表されている。

 なので、映画にしようとなると、なにか新しい切り口やこれまでにない視点があるものでないと成立は難しい。でも、その切り口や視点をなかなか見出せないでいました。

 その中で、『氷の花火 山口小夜子』(2015年)を発表後、自分の提案した企画が通ってNHKで土偶についてのちょっとコミカルな番組を作ることになりました。

 ちょうど東京国立博物館で特別展『縄文―1万年の美の鼓動』が開催された年の2018年に放送された『土偶ミステリー』というドキュメンタリー番組になります。

 その番組を制作する過程のリサーチで、土偶を発見した女性たちのインタビュー映像をNHKのアーカイブで見つけました。

 実際に番組内でも使用したのですが、中空土偶という国宝になった土偶を函館で掘り当てた女性たちのインタビュー映像だったんですけど、これがすごく印象に残りました。

 『自分の畑を鍬で耕していたら、カチンとなにかが当たって、何だ?と思って掘っていったら、この土偶が出てきたんですよ』といった話で。

 国宝を掘り当てたら『世紀のお宝発見!』とふつうは興奮すると思うんですけど、そういう感じじゃない。わたしたちのすぐ隣にいるような、こういってはご本人たちに失礼になりますが、ほんとうにごくふつうのおばちゃんたちがなんとものどかでほほえましい話を繰り広げていた。

 この映像を前にしたときに、土偶とか土器ではなく、それらを実際に『掘る人』というか『発掘する人』に着目してみるのはおもしろいかもしれないと思いました。これが今回の作品の出発点になった気がします」

「縄文」に興味をもつきっかけになったのは「渦巻き模様」

 そもそもの話として、松本監督自身が「縄文」に興味をもつきっかけになったのはなんだったのだろうか?

「みなさんに『そこですか?』って言われるんですけど、スパイラルの模様です。

 そもそもですが、昔から渦巻きがめちゃめちゃ好きなんです。

 なぜかと言われると、もう理由はない。とにかくいつからか気づけばスパイラルの造形を見ると、『いやあ、いいなぁ』と思うようになっていた(苦笑)。

 家の中にも、いろいろなところに渦巻き模様のものが飾ってあります。

 普段身に着けるアクセサリーもほとんど渦巻きです(笑)。

 自分でもちょっと『おいおい』と思うんですけど、渦巻きの描かれているポストカードを集めに集めて、それをまとめたクリアブックが何冊もあります。

 一時期、渦巻き収集家っていう肩書を自分で勝手に名乗っていたときもありました。

 渦巻き模様に魅せられて、たとえばアイルランドのストーンサークルの遺跡など実際に見に行っています。それぐらい、心を惹かれるんです。渦巻きの模様に。

 で、いろいろ渦巻き模様を見て回っていたのですが、その中で縄文の渦巻き模様はわたしの中で極上だったんです(笑)。

 そこから、もう縄文に魅せられて、縄文土器や土偶を見にプライベートでよく博物館に足を運ぶようになりました。

 ほんとうに縄文の土器や土偶は、ただ見るだけで満足というか。

 『こんなのを描いたか』みたいに感心してしまう。

 土偶にも、ちゃんと見ると渦巻きの模様がついていたりして、縄文人が造形したその文様を見ること一点だけで、わたしは縄文土器や土偶を見て歩いていました」

(※第二回に続く)

「掘る女 縄文人の落とし物」ポスタービジュアル
「掘る女 縄文人の落とし物」ポスタービジュアル

「掘る女 縄文人の落とし物」

監督:松本貴子

ナレーション:池田昌子

出演:大竹幸恵、八木勝枝、伊沢加奈子ほか

公式サイト https://horuonna.com/#

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022 ぴけプロダクション

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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